荒野
こんな寒々とした岩肌にあんたは何て良く似合う。赤茶けた礫岩に浮き上がるように白い法衣。
こんな処に在るには不自然な筈の色合いを身に纏っているのに何故かあんたはまるで生きていないように見えて。 無機物ばかりの風景に釣り合うように息をする事を止めてしまったのではないかとそんなあり得ない事を考える。
無言の侭近寄り手を握り込んでみれば其処には体温が感じられた。
何事かと見返してくる濃紫は陽の光を瞳の奥まで浴びて常より薄い色をしていて。
いつもは強い光を放っている瞳がビー玉の様に映ると再び三蔵は人形じみて見えた。
本当に生きている人間なのかと確かめるように強く抱き締める。
合わせた胸からは鼓動。
唇からは零れ落ちる吐息。
法衣の袷から手を差し込み指先も使って心音を確認する。
こんな処でか、と形ばかりの抗議の声を上げられたが本気で厭がっている訳ではないので止めない。
立った侭片足を抱え上げようとするとジーンズが邪魔になったので軽く引き下ろした。それでも矢張り無理のある体勢で。
「う・・・んうっ・・・」
行為に馴れている訳でもない躰を無理矢理指でほぐしてゆっくりと挿れてみれば三蔵は苦しげに喉の奥で声を噛み殺す。 触れる度ぴくりと跳ね上がりしきりと逃げようとする腰を押さえ込んでじりじりと先端を埋めていつもより時間をかけて全て収めると温かで暖かで・・・熱い躰が感じられた。
慣れない体勢に三蔵が繰り返し荒く息を吐く。 互いの骨が当たる程ぴったりと躰をくっつけて息が整うのを待ってからがつがつと突き上げる。
「背中、痛え・・・」
不機嫌そうに三蔵が間近から睨み上げてくる。押し上げられる勢いで背中が岩肌に打ち付けられるらしい。 何でこんな時にそんな色気の無い顔が出来んの。
苦笑して三蔵の両腕を掴み俺の肩に載せるような形で投げ出させる。
「掴まってな」
三蔵の背中に両腕を回し力を込めて抱き寄せ胸を合わせる。 浮き上がる腰を抱き締めた腕の力で押さえ込むようにして再度突き上げを開始する。
「ああ、こりゃ痛えわ・・・悪かったな」
三蔵の背中を抱え込んでいる腕が無骨な岩の表面に当たると所々でこぼこに突起のある壁は確かに痛い。 まだ幾分緊張してはいるが痛みが無くなった為か三蔵の体から僅かに力が抜けた。
「く・・・」
くたりと力無く俺の肩に顎を乗せて耳元で甘い息を吐く。髪に指を掻き入れられたかと思うと強く引かれた。 指の間から髪が零れ落ちると再度軽く髪の中に指を差し入れては指に絡めて弄んでは零れ落とす。 幾度も繰り返される指の動きは決して痛くは無く寧ろ心地良かったがこんな甘える仕草をされたのは初めてで。 甘えてくれるようなヤツだとも思わなかったし頼んだって甘えてはくれないヤツだとずっと思っていたから。
三蔵が今どんな表情をしているのか見たいと思った。
先程迄身を預けていた磐に凭れ掛かり怠そうに煙草を銜える三蔵はまだ法衣の袷がだらしなく崩れた侭だ。
片目を眇めてこちらを見てくる表情は、決して睨み付けるだけでは無く瞳を凝らすように何かをじっと見つめている。 何か。そう、俺の方を見てはいるが俺の目を見ている訳では無い。 そう言えば先刻しきりに髪を弄っていた、そう思ったからおどけたように首を傾げて一房指でつまみ上げてみせた。
「何。コレがそんなに気に入ったの?」
今は嫌いでは無くなった赤い色だが逆光で一層赤く見えているだろうと考えたら胸が悪くなった。
「知らなかったのか」
「・・・え?」
「てめえは本当に頭が悪いな」
フィルタを噛み潰しかねない勢いで口の端を歪めてく、と嗤ったその貌。
がつんと。紫の視線が絡み合った。こんな時にしっかり視線を合わせてくるなんて・・・反則だ。
「あ・・・」
頭が悪いと告げられた言葉の通り莫迦のように口を開く。
ごくりと喉を鳴らし唇を舌で湿らせる。いつものように軽薄な言葉を吐かなければ、そう思うのにうまい言葉が出て来なかった。