ポラロイドカメラ
シャッターが切られる重い音に続きくぐもった音を出してカメラから吐き出されて来る紙片。
数回繰り返してカメラマンがテーブルの上にポラを並べる。
「良いんじゃないの」

今日の撮影は珍しくも三蔵と悟浄のツーショットと言う組み合わせだった。 普段は悟空、八戒達との4人組で撮る事が多いしツーショットの場合大抵三蔵は悟空と、悟浄は八戒とのペアになる事が多いのだ。
三蔵と悟浄。何をしないでも絵になると言うか何をしないでも派手になり過ぎる組み合わせなので大袈裟な事はしないで大人し目に一枚。 今日はそう言うコンセプトだった。
「じゃ、本番行ってみようか」
被写体の二人は指示された通りにポージングして一眼レフのシャッター音に備える。
その時それは起こった。


最初のシャッター音と同時に悟浄が三蔵の腰に手を添えて抱き寄せたのだ。

接触嫌悪症の三蔵はいつも他人を近くに寄せない。軽く触れただけで手を振り払われる。 撮影の時だけは仕方なく、本当に渋々と言う感じで自分のテリトリーと決めた範囲内に他人が入って来る事を我慢する。 4人密集ポーズの撮影の時でさえ眼に怒りを湛えている。腕を絡めたポーズの場合仕事であるにも関わらず非常にイヤそうな表情をする。 そしてそのイヤそうな表情の侭写真に収まる。


三蔵は他人の体温が嫌いだ。
それは理屈などでは無く。
見える所にいた人物が段々に近寄って来るのならばまだ心構えの時間もある。
撮影用にポーズを取る数秒だったら我慢も出来る。
然し、心の準備もなくいきなり触れられると


反射的に体が動く。


腰を抱き寄せられた三蔵が当然の如く身を捩って悟浄の腕を振り解きその勢いの侭肘鉄を食らわそうと体を捻ると予想していたかのような動きで悟浄は半歩分だけ素早く後ろに下がった。 無駄のない動作でギリギリの位置でよける。
肘を打ち入れる先を失った三蔵の左腕はスピードを乗せた勢いの侭肘から上を動かして悟浄の首筋を狙って手刀を入れようとする。 手刀を叩き入れる筈だった腕は悟浄に掴まれ止められる。
これで終わりだと悟浄は気を抜いたが三蔵はそこで終わりにはしなかった。 上半身だけだった回転する動きを左足を軸にして巧く下半身にも伝えて半転させる。 着崩れていない、撮影前にきちんと整えられたばかりで裾がさばきにくい筈の法衣から何の苦も無く伸びてくる脚。
膝蹴りが悟浄の腹部に吸い込まれるように綺麗に入った。三蔵はその侭脚を伸ばし体勢を崩した悟浄をなぎ払う。
どうっと鈍い音を立てて悟浄が背後に倒れ込んだ。


その間ほんの数秒。スタッフが声を上げる暇も無かった。


「いってぇ・・・」
言い乍ら起き上がる悟浄に、呆然としていたアシスタント達が慌てて駆け寄る。
「三ちゃん酷い・・・」
「フン」
「ちょっとしたアドリブってヤツなのにここまでする事ないじゃん」
「何がアドリブだっ!」


いつもの軽口が始まってもカメラマンの意識はカメラから離れる事は無かった。
最初のシャッターを押してから悟浄が三蔵に吹っ飛ばされる迄の僅か数秒。
その間シャッターが何回切れただろう。
咄嗟に連写してみたが果たしてどれだけのものが写っているか。
瞳の光彩さえ映し出すいつもは自慢のカメラが頼り無く思えたのは久し振りの事だ。
良い写真が撮れているだろうか?
獣のような動きの彼らを捕らえるにはシャッタースピードが追いついていなかった気がする。
ハイスピードカメラでもう一度撮り直したい。 然し予め撮られる事が分かっている上で型を取らせたのでは先程の彼らの流動的な美しさを再現する事など出来ないだろう。 そういう奴らだ。
だから今は苦笑を堪えてこう言う。


「撮り直し」

どこら辺がポラ話なのか・・・。 パラレルではなく『三蔵一行には専属カメラマンが付いている説』(笑・RELOAD一巻オマケ本)です。

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