ハーモニカ
「・・・・・・が持ってるのってギターだったっけ?」
「ハーモニカじゃありませんでした?」
唐突に発された河童の言葉に八戒が返事を返すのが耳に入った。
早めの時間に宿を取り、早めに夕食を済ませ、宿の一室に集まってはいるものの寝るにはまだ早い時間。 どういう訳か河童も今日は外へ出て行かずだらだらと部屋で話をしている。

「あー、どうだったっけ」
「誰だソレは」
悟空までもが口を挟んで来たので訊ねてみる。
「知らないのかスナフキン」
「砂布巾?」
俺が知るか。そもそも人間の名前なのか?

「イヤやっぱギターっしょ。歌ってるじゃん。
雨に濡れたつ じゃんじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃか
お寂し山よ じゃんじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃか
われに語れ 君の涙のその訳を〜 じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃか」

ギターを掻き鳴らす真似をして河童が歌う。うるせえよ。
「ああ、そう言えば・・・」
ハーモニカじゃ歌えませんしねえ、八戒が頷く。
「でもハーモニカも持ってるって」
「そーだっけ?でも両方持ってるっつーのも何かなー」
「・・・おい」
良い加減訳が分からない。八戒と悟空が振り返り二人がかりでスナフキンとか言うヤツについて説明する。 孤独を愛する立て札が嫌いなニヒルな旅人。・・・何もんだそいつ。
「旅人!俺達みたいっしょ!」
「あはは。じゃあ歌係は悟浄に任せますよ」
「くだらんな」
「三蔵は知らないのムーミン」
「俺がTVアニメなんぞ見る閑のある子供時代を送っていたと思うか」
俺は同世代の人間が子供の時分に見るような番組を一切見ないで育った。 なにがしかの手伝いが出来る程度の年齢になってからは1日寺の雑用に追われていたし夕刻は食事の支度があって忙しかったのだ。

寺の手伝いを一切免除されていてTVアニメなんぞを見る暇のあるサルと違ってな。

「ああ、そっか・・・でも何で悟空は知ってるんだ」
「知るか」
寺に居るとは言っても修行僧では無い悟空は勤行やその他諸々の雑事とは一切縁が無い。と言うか誰も頼まない。 更に言うなら寺では悟空は厄介者扱いされているが全ての僧徒が悟空を邪魔に思っている訳ではなく子供好きの者には随分可愛がられている。その中の一人が大僧正だ。 恐らく俺が悟空を放ったらかしにしている時にでも大僧正の部屋で見せてもらっているのだろう、 そのムーミンとやらを。
つーかムーミンてのは何だ。
「ムーミンってのはこーゆー生き物な訳よ」
河童が紙にペンを走らせる。
「似てる!」
「悟浄は器用ですねえ」
くだらないとは思いつつ感心する八戒達の頭越しに紙を覗き込む。何だこりゃ。この膨れた下っ腹。これは・・・。
「カバの顔をしたトロール・・・?」
訝しみながら口を開いた瞬間3人が揃ってこちらを向いた。
「三蔵、本当は知ってるんじゃ・・・?」
「ああ?」
「ムーミンはムーミントロールって言う生き物なんですよ」
「・・・そうか」
じゃあムーミンてのは何だ。名前か?
「良くトロールなんて知ってるな三蔵」
「妖精だろう。桃源郷の外の世界の想像上の生き物だ」
こんなカバの尻尾は無かったと思うが。
「へえ」
「流石最高僧だけあって物知りですね」
仏教とカバは関係ねえだろ。




・・・三蔵様、ムーミンはカバじゃありません。

「悟空と大僧正のちょっと良い話」にしようかとか芸達者悟浄に感心する三蔵にしようかとか考えたのですが。 トロールのイメージは様々ですがメガテンシリーズのトロールは体型がムーミンぽくて良。

100題