オムライス
その街に寄ったのは買い出しの為だった。宿を取るには早い時間なので買い物を済ませたら街を出る予定で、 つまり買い出しの間いつものように宿に落ち着いている訳にはいかなかったので珍しく4人連れ立って街を歩いていた。 買い物をあらかた済ませ、 何とはなしに曲がり角に来る度ふらふら曲がって小道に入り込んでいるうちに通り掛かった食い物屋のショーケースに並べられた見本を見てふと悟空が立ち止まるのに八戒が声を掛ける。
「どうしたんですか悟空?」
「アレ」
物欲しげにぽかんと開けた口から漏れるガキっぽい一言を発したきりまだそこから動かない悟空に舌打ちしてサルが眺めている物を一瞥する。 そこには寺育ちでは見た事が無くて当然の小洒落た料理が陳列されていた。その中の一点を悟空は凝視している。
店の名前を書いた看板が張り出してはいるが遠くから見たら飯屋だとはとても気が付きそうも無いその佇まいにも関わらず通り過ぎる一瞬のうちに飯屋だと感知したのはきっと悟空の頭からは食欲猿ならではの食い物アンテナが突き出しているのだろう。
「黄色くて美味そう」
「ナニ?お前食った事ねえの?」
「うん」
今やショーケースに顔を貼り付けんばかりにしている悟空の様子に言葉を交わさず八戒と河童が何やら同意したのが感じ取れた。
食い物如きでサルに同情なんかするんじゃねえよ。大食らい猿といつもメシの取り合いしてるクセに、 大食らい猿のおかげでしょっちゅう食料の買い足しをするハメになっているクセに、どいつもこいつも底抜けに莫迦で莫迦で大莫迦で眩暈がしてくる。
「三蔵」
強制するつもりなど毛頭なさそうな何処かほんわりと響く優しい声色────つまりいつもの調子で八戒が呼び掛けて来るが続きを聞かなくても何を言われるか既に分かっていたので返事はしない。
「少し早いですがここで食事にしましょうか」
「好きにしろ」
どの道メシは食わなくてはならないし食い物屋の前で男4人アレが食いたいだの何だので押し問答になるのも面倒だったので承諾した。





「これっ、おかわり!」
余程気に入ったらしく悟空は同じ料理ばかりを何度も追加注文している。 店に入る迄気付かなかったのだがここは有名な何とか言う店だとかで昼時のこの時間は全席一つも余す処なく相席となっており店内にはびっしり客が座っていると言うのにその上外にも長蛇の列が出来ている。
「良かったですね。あと少し遅かったら並ばないといけなかったんですよ」
心配しなくてもバカ猿がメシ食うのに並んで待ってられる訳が無い。列が出来てたら他の店に行くだけだ。
「三蔵も一口食ってみろよ。美味いぞコレ」
「いらねえ」
悟空の目を引いたその料理はこの店の有名なメニューだとかで「折角だから」と八戒と河童のヤツも同じ料理を注文していたが俺だけは違う物を頼んだ。 卵はそれ程好きな訳では無い。元々寺育ちで精進料理に慣れているせいもあって食えと言われたら肉も食うが普段は殆ど肉類を口にする事は無い。 勿論卵もだ。
「お待たせしました」
悟空が追加で頼んだ皿がテーブルに載せられる。 皿の上に一見無造作にも見える程散らされた大量の目にも鮮やかなオレンジ色のチキンライスの上に滑らかな肌の薄黄色の焼き卵。
最初は食い方が分からなくて八戒に教えて貰ったのだが何回目かの注文ともなれば悟空は迷い無くナイフを手に取り飯の上に綺麗に畳むように載せられた卵の中央にす、 と切れ目を入れた。
どろり、と畳まれた卵が左右に分かれ固まりきっていない黄味が飯の上に零れ落ちるように溶け出す。
まるで動物の腹を割いて臓物と体液が流れ出て行くかのような光景に胸が悪くなる。 考えてみれば生き物として造形される前の成分が総て凝縮されている球体の中身は総てが臓物であると言っても良い。 まだ鳥としての形を成す前の凝りを容器の中でぐちゃぐちゃに掻き混ぜた成れの果ての、其れ。 攪拌され生焼きの侭飯の上に流れ落ちているのは雛の羽であり骨であり肉でもある。 立ち上る湯気と共に臭気が漂って来るのに思わず皿から顔を背ける。



がつがつと皿の上に身を屈めながら悟空が満面の笑顔で語り掛けて来る。
「なあ、三蔵も食ってみろって。タンポポオムライス」
「・・・いらねえ」

三蔵様オムライス見て何でそんな事考えてるの。 タンポポオムライス出してるのは都内のある店なのですが実際はショーケース出てませんし偶々通り掛かるような場所ではありません。 何を買いに行って通り掛かったのか気になる4人の動向。

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