ひとでなしの恋
心弱い俺達は三蔵法師の言葉に酔う。ただ酔っていれば良い。
何も考えなくてもヤツが道を示してくれるからだ。
じゃああいつは?





ベッドの上で浅い呼吸を繰り返す三蔵を黙って見つめていた。
寝返りさえ打たないのは微動だにする体力が無いからだ。
手が、震えるとか。人目憚らず泣き出すとか。そういった解り易くも安っぽい反応を自分の体が示してくれれば良かったのに、と思う。
腹の底、氷の塊が凝っているかのように重くて冷たい。

自分の決断が間違っていたとは思わない。
間違ってはいなかったが西へ向かう旅から一人降りたのは自分の勝手だ。 俺を追ってと言うべきか、旅程を進めず俺の処へ脚を運んだのも三蔵達の勝手だ。
そう思っているのに何故か苦いものが込み上げて来る。
俺は、間違っていない。
きっと、同じ事があったらまた同じようにする。



月が出ていたかは覚えていない。 前の晩も、その前の晩も頭上にでかい月を見た気がする。曇ってはいなかったのであの時もきっと月が出ていたに違いない。
執拗に、一目で数える気が失せる程幾重にも連なる朱塗りの鳥居の並びは何処か偏執狂めいていた。 鳥居の下をジープで駆け抜けた時運転していたのは俺だから後部座席の様子を見ていた筈は無いのに、 月明かりを半ば遮る鳥居の影の下、 時折降ってくる月の光に照らされた固く瞳を閉じた三蔵の頬の青白さを見ていたかのように思い浮かべてみる。 坂になった石段を駆け下りた訳だから、 ハンドルにしがみつくように運転していた俺はともかく後部座席に放り込んだ八戒、悟空、 三蔵は掴まる物も無い侭激しい振動に身を揺さぶられていただろうが、 三蔵はどれ程車体が揺れようともぴくりともしなかったに違いない。


眠る三蔵を凝視しながら思う。大事な物は全て俺の手の中をすり抜けていく運命なのだと。 今回の事態を招いたのが自分だと分かっていても、 運命だとかそう言った見えない力が働いているのだというバカげた考えが頭を離れない。 否、きっと俺が大事だと思った時点で全ての事柄が悪い方へと暗転して行くに違いない。
三蔵だって言っていたじゃないか。
『悟浄お前疫病神決定』
アテも無く二人彷徨い歩いた宵闇の中呆れるように吐き出された憎まれ口。 ほんの数日前の出来事だと言うのに眼の前の三蔵はもう憎まれ口をきく事も無く静かに横たわり死に向かいつつある。
俺の取った行動を否定も肯定もせず眼を閉じシーツに身を埋めている青白い貌。
三蔵は色が白いから痣が出来るととても目立つ。 女のように必死に日焼け対策をしている訳でもないのに不思議に日に焼けない肌に、 女でないから自分の躯に無関心で平気でカラダを張って傷や痣が出来るような行動を取る。
血の気の引いた白い膚に、ビューラーで巻いてやったら鉛筆の一本も乗っかりそうな長い金色の睫毛。
内出血の為血の色の浮き出ている赤黒い痣さえ無ければ綺麗な人形のように見えるであろうその整った容姿。 白い膚に酷く不似合いなその痣は、現在は三蔵を血の流れる人間であるように見せていて、 地上に三蔵を縛り付ける証であるかのように見えて何処か安心する。

思えば長い長い階段をジープで駆け下りると言う結構な無茶をした訳だがその時八戒が三蔵を抱えていた筈だから、 意識の無い三蔵の頭部がうっかりジープの座席にぶつかったりはしなかったと思う。 三蔵はあの「カミサマ」の攻撃以外のダメージは受けてはいない筈だ。
だから、三蔵がふと目を覚ましたっておかしな事は無い、 人間と妖怪の違いはあるが俺達だって既に意識を取り戻しているのだから、縋るようにそう思う。

『縋る』

殆ど無意識に思い浮かべた言葉に自分で反応する。縋るとは、誰にだ。何にだ。 自分でさえ対象の知れない何かに祈りを掛けなくてはならない程切羽詰まっているのか、三蔵の症状は。


自分の選んだ事の結果に、自分のしでかした事の結果に逃げ出してしまいたくなっている自分を意識の片隅で自覚する。
この侭あんたが眼を醒まさなければ俺は一生あんたの事を想って生きて行く。

なあ、お前いつもこんな想い抱えて生きていたのか?

一介の生身の肉体には重過ぎる決断を。後悔を。苦渋を。

うーわー。
どこら辺が人でなしかと言うとこの期に及んでごじょりん三蔵の事考えてる振りして自分の事考えてる訳です。 いや良いんですヘタレ好きだしこれ位ヘタレじゃないと愛せないし。 原作ごじょりんがここまで駄目駄目と言う訳では無いですマイ設定です。 だからある意味実は三蔵様からのごじょりんへの想いの方が強い。

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