INSOMNIA
同じベッドで眠る悟浄の髪を指で掬う。月の光を浴びて鈍く輝くそれはサラサラと音が聞こえそうな程艶やかな手触りを残して指の間から零れて行く。
触れられていても目を覚ましそうにない年下の男の寝顔。睫毛が形作る陰とか薄く開いた唇とか弛緩しきって力無い肢体とか。
きつく抱き締められた腕をそっと外して風呂に入って来たのに気付かず眠り続ける姿とか。
紅い髪を弄び乍ら三蔵は微笑を漏らす。
『あんたが好き』
口付けの合間に、ベッドに組み敷かれている合間に、何度も繰り返される言葉。
勘違いしそうになる。
必死に差し出される腕。
『オレを愛してくれる?』
声に出さず何度も試すように。
求めて得られなかった愛の代わりに。
全身で縋り付いてくる。
『ねぇ、本当に』
早く気付け。
『あんたに触れていたい』
これが代償行為でしかない事を。
求められれば拒む事はしない。
腕に力を込めて抱き締めれば酷く嬉しそうな顔をするのでいつも上体が張り付く程きつく悟浄の体を抱きすくめる。
女のように柔らかくも何ともない自分を求める事で悟浄の中では『代わり』の行為ではないという事になっている。
刷り換えは上手くいっているらしい。
何度も何度も悟浄を受け入れ。
体中悟浄の唇の落とした痣だらけになっても。
それでも風呂に入って体を清めてからでないと眠れない。
他人を求めた行為で吐き出された精をこびり付かせた侭で眠るなんて出来ない。 頭では悟浄の全てを受け入れたつもりでいても、心がそれを拒絶する。
悟浄の不安な心を受け止めてやっているつもりでいても、悟浄は拒絶される事に敏感だ。 行為の後、汗も流さず足を絡めて眠りに墜ちる事が出来ない三蔵の、言葉に出さない部分に気が付いている。 気が付いているから不安になって一層三蔵を求める。
求められても、悟浄が本当に求めているものが違うものだと知っているから三蔵も行為に溺れる事が出来ない。
絡めた指の熱さだとか。腰に回された腕の力強さとか。
全て。
自分が求められていると勘違いする程温かいけれど。
手の中の髪に当たる光が和らいで来た事で月が随分傾いた事が分かった。
それでも飽く事なく。悟浄の眠り顔を眺め続ける。