溺れる魚
アア、アアと三蔵が何時に無く高い声で啼くので気分を良くして一層深く突き上げる。三蔵の心はココには無い。
加えられる愛撫に高まる快感を羞恥を抑え付ける理性を失くしている。
「あんたいつもこんな素直だったら良いのに」
固く閉じられた瞼に軽く音を立ててキスを落とす。
雨の日に三蔵の様子がいつもと違うようになると気が付いたのは一緒に旅をするようになってからだ。
三蔵達が長安にいた頃は雨の日にわざわざ会う事も無かったから知らなかったのは当然だが。 それでも行程の初めの頃は雨が降ってもそれ程普段と変わらなかったと思う。 旅が進むに連れて雨嫌いが酷くなってきたような気がする。
八戒のように明らかに鬱になるのとは違う。
ひたすら外を眺めているのだ。
飽く事も無く何時間でも。一言も口をきかず話しかけられても殆ど反応せずただ窓辺に張り付いている。 その瞳には何が映っているのか。景色か。雨粒か。
そんな日に八戒と三蔵の二人が宿で同室になったりすると
雨の檻に閉じ込められた魚が水槽をふらりふらりと漂っているような
そんな錯覚を覚える。
酷く頼り無いその姿。
この世の終わりのような顔をしないで
いつもの射殺すような視線を向けて?
抱き締めてキスをして、それでも心は戻らない。
「イ・・・アアッ」
突き上げられ上がる悲鳴。背中に回された腕に、指に力が籠もる。普段殆ど声を出さない三蔵の喘ぎ声に我知らず追い立てられる。
薄暗い部屋の中、のけぞる喉が白い。
雨の日の三蔵の様子が目に見えて酷くなり始めたのは六道に会ってからだ。三蔵は六道を朱泱としか呼ばず、 六道の方はと言えば三蔵が『三蔵』になる前を知っている筈なのに、 揶揄するように、嘲笑するように三蔵の事を『玄奘三蔵』としか呼ばなかった。
あの男なら三蔵の雨嫌いを癒す事が出来たのではないか。
そんな気がする。
正気を失い血走った目をして狂気じみた笑い声をたてる、禁呪に身を侵された六道を『六道』と呼ばせない何かがあった筈なのだ。
だがヤツはもう居ない。
響き渡った乾いた銃声。
飛び立つ鳥の羽音。
宿を抜け出した時よりも傷を増やして森から歩み出て来た三蔵。
だから、三蔵の心はもう癒せない。
誰も救わないと言いながらギリギリの所で救いの手を差し出してくれる黄金を救う事は誰にも出来ない。
溺れる魚をこの手で掬う事が出来ないのなら。
一緒に溺れてしまいたい。