草履




「三蔵、どうしたんだよその怪我!」
三蔵の脚から流れ出ている血に真っ先に気が付いたのは悟空だった。 その傷口は長い法衣の裾で隠れている為悟空達には見えなかった。

「三蔵一行」ではなく三蔵のみを執拗に狙って来た敵を退けた後の事だった。 三蔵を中心として妖怪達の死体が歪な円の形に散らばり、 切り口を晒した侭地に放置された頸や腕からは流れ出す勢いで血が地面に染みを広げていた。 ただの肉塊と成り果てたそれらも噎せ返る程の血の匂いをも不快と思っているとも見せない無表情で踵を返した三蔵の足元も血で赤く染まっていた。 血溜まりの中から歩み出て来た三蔵の足跡を象るように延々と血の後が続いた。

何で、何時まで経っても三蔵の足跡に続く血の跡は薄くならないんだ。

ふと気が付いた悟空がじっと目を凝らすと、 血に塗れているのは三蔵の履く草履の裏側ではなく、三蔵の足下から回り込んだ血が地面へと滴っていた。
「何でもねえよ」
「三蔵、怪我を見せて下さい」
言い捨て脚を引きずる事も無く歩き続けようとした三蔵の前に、強い口調で言って八戒が立ち塞がる。 不機嫌な表情で八戒を睨み付ける三蔵の足元に、立ち止まった事で小さく血溜まりが出来始める。
「三蔵サマ、結構深いんじゃねえの?」
アンタ痛覚ねえのかよ、と悟浄が顔を顰める。
「治療しますから座って下さい」
「・・・・・・」
そう言ってどうあっても退く気配のない八戒に、 眉間に不快に皺を刻んで更に不機嫌に唇を引き結んでから如何にも面倒臭そうな仕草で三蔵は地面に腰を降ろした。
あそこまでイヤな顔されて親身になって手当してやる気になれる八戒は寛大だ、と悟浄は心底感心する。
怪我をしている方の脚を投げ出し片方の脚は胡座をかく形で自分の方に引き寄せて座る三蔵の法衣の裾を八戒は丁寧に捲り上げる。
「くるぶしの下辺りですね。だから服に血が染み出してなかったんですね」
好きにしやがれとばかりに足を投げ出しているばかりで自分からは草履と足袋を脱ごうとしない三蔵の足に手を伸ばし器用に履き物を脱がせたその指先が赤く染まるのに密かに眉を顰めてから八戒が掌を傷口に翳す。
「先刻のヤツら、妙に足元ばかり狙って来ていたからな」
微かに発光する八戒の掌から流れ込む「気」が傷付いた組織を急激に再生させ傷口が塞がって行くのを待つ間、三蔵がぽつりと口を開く。
動けなくさせる為、と言うのもあるだろうが恐らくは自分の武器が銃である事を事前に知っていたヤツらなのだろうと三蔵は推測する。 全弾を撃ち尽くした後は弾込めをする際、 仲間に背中を預ける事もあるが近くに盾代わりになる下僕がいない時は一旦物陰に身を潜める必要があった。 動く事が出来なければ物陰(別に下僕の肉弾の盾でも構わないが)に入り込み弾丸を装填する事も出来まいと、 そういう事である。
つまり、第一陣の目的は無事達せられたと言う事だ。尤も身動き出来なくなる程深い傷を与える事は出来なかった訳だが。 しかも三蔵に怪我を負わせる事が目的であったとしても(勿論あわよくば命を、とは思っていただろうが) その当初の目的である怪我は八戒の手に依って既に塞がれていたが。
そして、第一陣があると言う事は。


「三蔵、片足だけ素足ですけど良いですか?」
顔を上げて笑う八戒に鼻を鳴らす事で返事の代わりとする。
「まあだこんな処にいやがったか」
獣めいた嗤い声と共に第二陣の刺客が姿を現す。
「玄奘三蔵、死・・・」
皆まで言わせず名指しされた当人は片足を血に塗れた侭の草履に突っ込んで立ち上がりざま引き金を引く。
「三蔵サマの生足色っぽォい」
続けて口笛の聞こえて来た方角にも振り向きもせず弾を撃ち込む。
「うわっ!当たるだろーがクソ坊主!」
「チッ、外したか」
「舌打ちかよ!」
「あ〜ハイハイ、お二人とも仲が良いのは結構ですがいちゃつくのはその辺にしておいて下さいね」
どうと、気孔で敵を吹き飛ばしながら八戒が言う。
「い・・・っ、ちゃついてなんかいねえよ!」
「そうですかあ〜?悟浄は三蔵の生足なんて今更誉めるまでもなく見慣れてるんじゃないんですか?」
「・・・・・・(怒)」
「そんな訳ナイナイ!」
「あれ。悟浄そんなに慌てちゃってどうしたんですか? 僕達ずっと一緒に旅をしているんですから見慣れてるじゃないですか裸足なんて」
「・・・・・はっかい・・・」
「悟浄、突っ立ってたらジャマだろっ!」
「・・・・・魔戒天浄」
「ぎゃあああっ!俺達まで巻き込むなよっ!」






草履っつうよりは「足袋」ですかコレ。



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