朝の光
窓の向こうで鳥が一斉に羽ばたく音で目が覚めた。寝台の上で目を開けて尚も自堕落に寝転がった侭でいると、 ばたばたともはたはたとも形容し難い、せわしなく羽を動かす音、否、 せわしなく動かす羽が産み出す空気の押し出される音が何羽分か続けて聞こえて来る。 閉じた侭の瞼の裏に明確に宙に舞い踊る幾ばくかの羽のビジュアルが浮かぶような。
うるせえな。
仕方なしに起き上がり部屋の空気を入れ換える為に窓を開けると数え切れない程の鳩が宿の前の屋根から一遍に飛び上がる。 否、正確には先程見た光景を一枚の絵として記憶して、脳内で再生して数えれば鳥の数を勘定する事は出来る、 何故「沢山の鳩」と大雑把に言ってしまうのかと言えば、数えるのが面倒くさいからだ、 そして数を数える必要もないからだ。
寝起きの記憶はこんなにもはっきりとしているのに、昨晩何時に眠りに落ちたのかは覚えていない。 何故なら眠かったからだ。何故なら眠気に任せて眠りに落ちても問題は無いと神経の何処かで知っていたからだ。 近くに敵意を感じない、と。否、悪意を感じれば眠っていても眼が覚めるし、 それ以前にこちらが眠りに落ちるのを待ち侘びている事を感じ取れる悪意ならばそもそも眠気すら感じない。 時計を確かめ眠った振りをして敵が舌なめずりしながら登場するのを今か今かと待ち受ける。 つまり眠気を感じ、眠りたいだけ眠れると言うのは贅沢な状況なのだ。
異変が本当に終息したのだな、と感じるのはこんな朝だ。
「ん・・・」
傍らで未だ眠った侭の男が小さく呻くのに、その裸の肩にそうっと毛布を引き上げる。 晴れてはいても冬の近いこの時期、窓を開けていれば室内に流れ込んで来る空気はひやりと冷たい。 どうして裸で寝ているこのバカが、と声には出さす毒づく。
昨日はこの男の何度目かの誕生日と言うヤツで、だからと言って特別豪勢な宿に泊まる事もなくごくごく普通の、ありふれた宿に宿泊した。 それは、他の旅の仲間達の誕生日でも同じ事だ。 悟空や八戒の誕生日と違うのは料理屋で散々メシを喰い酒を飲んだ後、この男に時間の概念が曖昧になる程に、 記憶が危うくなる程に抱かれた事だけで。
声を押し殺す努力が成功していたのは最初だけだった。意思の力で射精を堪えていられたのも。 最後には快感などとは関係なく、前と後ろとを同時に擦り上げられる事による反射だけで何度もイった。 もう無理だと思っても未だ萎える事のない悟浄のソレに或いは長い指にある時は口内に繰り返し嬲られ、自分が何時イったのか、 悟浄が何時イったのかも分からない侭、掠れた声でひぃひぃ喚き続けた。 乞われる侭に悟浄のモノを口に含んだりもした。 最中に悟浄が何事かを言っていた気もするが既に殆ど記憶にない。
その全てがタチの悪い夢などではなかった事は全身の気怠い重さが証明している。
幾ら敵襲がもう無いからと言ってもコイツは限度と言うものを知らなさ過ぎる。
舌打ちしたくなるのを堪えながら暫くの間は同い年である男の寝顔を見下ろす。
その、無防備な寝顔。
気怠さに任せてもう一度眠ろうかこの男を寝台に残して一人で起き出そうか考えながら煙草に手を伸ばす事も忘れ赤い髪の男の寝顔を眺め続ける。