君に捧ぐ
悪戯が過ぎたのだ。
一年前の三蔵の誕生日に指輪を贈り、夜更けの出来事だった所為もありその事をすっかり忘れていた三蔵に、 こっそり自分で隠し持っているその指輪を三蔵が忘れずに持っている筈だと仕掛けてみたのはほんの僅かな悪戯心と、 意地悪な気持ちからだった。
全てが明らかになった瞬間三蔵が銃を構えたのを見て、悟った。
やり過ぎたのだと。
今年はあんな失敗はしたくない。
三蔵は自分の生まれた日の事を喜んでいない。その感情は長い事自分が生まれた事を罪だと思っていた俺にも理解出来る。 だからと言って好きなヤツの生まれた日を、気付かなかった振りしてスルーする程には俺は人間が出来ていない。 祝ってやりたいし、八戒や悟空や三蔵に自分の誕生日を祝われてくすぐったい気持ちになりながらも 「ムキになって不機嫌なツラで通す事もねえか」と思った、せめてその位の心境には至って欲しいと思っている。
なのに自分の生まれた日を嫌っている三蔵に、更に誕生日のイヤな思い出を植え付けてどうすんだ。
苦く反省しながら、そう思う。


取り敢えず、殺風景な三蔵の部屋に彩りを添えるようなモノ、とか、三蔵は私服の手持ちが少ないから服、とかどうだろう。 例えばマフラーとかコートとか。 去年の事があるから贈り物はイヤがるかも知れないが単純なものでこんな時にどう祝うかと言うと贈り物くらいしか思い浮かばない。
贈っても多分怒られそうもない、 且つちゃんと使ってもらえそうな無難な品はライターだが三蔵のヤツはどういう訳だかライターをしょっちゅう無くすからライターはやめておこう。 ナンバリング入りのレアジッポなんか無くされたら流石にヘコむ。かと行って100円ライター100個セットっつうのもアレだし。
・・・うん、洋服が良いんじゃないかな。一応必需品だし。流石にそうそう簡単には無くしそうもないし。




そうして一人であれこれ考えていたのだが、三蔵の誕生日まで数える所あと数日となったある晩、 食後のコーヒーを用意しながらさりげなく話を切り出してみた。
「なあ三蔵、今年のたん」
ガウンッ!
「・・・・・・へ?」
皆まで言い終える事なく顔の横を掠めて通り過ぎる弾丸に目を見張った。
「悪いな、手が滑った」
「あ、ああ、そう、へえ」
どう手が滑ると先程まで何も持っていなかった手が銃を握り締めて俺に向かい狙いを定める事になるんだ。
「でさ、たん」
ガウンガウン!
「何だ」
今度は髪が数本、はらりはらりと手の中のマグカップへと散って行く。
「あの・・・あんたのたん」
ガウン!
「た・・・、た・・・」
「た?」
抑揚は無く、わざとらしい程平坦な口調を装う三蔵が、何が何でも誕生日の事を切り出す事を許すつもりがないのだと、 これで気付かないヤツがいたらお目にかかりたい。
「た・・・っ、タンタン麺の上手い店が出来たから喰いに行きてえなっ!」
「今喰ったばかりじゃねえか」
「う、うん、そうそう。あの、良かったら今度の木曜一緒に喰いに行かねえ?」
「木曜?」
ついとカレンダーに視線を流す三蔵の眉間に皺が寄る。
「その日は寺で法会がある」
正確には「三蔵法師の生誕祝い法会」、だ。どうあっても誕生日の事を三蔵は口にしたくないらしい。
「夜だったら空いているが」
不意についでのようにぼそりと呟かれる。
「え?」
「イヤなら良い」
「あ、いや、良いぜあんたの時間の空いてる時で」
素直に同意してくれるとは思わなかったから正直言って驚いた。然し「えっ、うっそ、マジでー!?」 なんて言って驚きを馬鹿正直に表現してしまえば気難しい三蔵が機嫌を損ねる事は目に見えているので気が変わる前に約束を取り結ぶ。
「じゃあ俺も木曜は定時で上がるようにするから」
「ああ」
その日が自分の誕生日である事を充分に意識している筈の三蔵が、どういう風の吹き回しだか誕生日デートを承知してくれた。 いや、デートだとは思ってないのかも知れない。何と言ってもコイツの鈍さは筋金入りだし。 本当に、ただメシを喰いに行くだけだと思っているのかも知れない。けれど構わない。 汁で法衣が汚れるかも知れないし、とか何とか言って俺の選んだ服を無理矢理着せてしまおう。
「何ヘラヘラしてんだ、気色悪い」
「べっつにー」
三蔵は面倒くさがるだろうし、怒るかも知れない。その、不機嫌な表情を思い浮かべても尚込み上げてくる笑いを止められない。


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