カレーパン対決
「ホラ見てくれよコレ。うちの近所○ーソンなくってさ、確か三蔵の家の近くにあった筈だって思ったから買って来ちゃった」
そう言って悟浄がごそごそとコンビニ袋から取り出したのは二種類のカレーパン。
何をこんなモン有り難がってんだ。
「コレね、横濱カレー○ュージアムプロデュースのカレーパンでね、2チームに別れて別々のカレーパン作って、
どっちの方が人気になるか一般投票で決めるの。知らない?マジ?うっそ」
延々と悟浄が喋り続けるが。
・・・てめえが来るって言うから素麺でも茹でてやるかと買い足しておいたのに。
いや、まだこれは茹でる前だから良い。
この間てめえが美味いって言ってたからざる豆腐だって買っておいたのに。
それを、コンビニのカレーパンを食うだと?人の家に来たのは近所のロー○ンだけが目当てかよ。
俺はコンビニ以下、いや、コンビニのカレーパン以下だと、そういう事か。俺はコンビニパンのついでかよ。
用が済んだんだったら帰れ、そう言ってやろうとすると悟浄は
「あ、アイス溶ける!冷凍庫空いてる?」
とどたばたと冷蔵庫へ突進して行った。
「あずきとレモンとどっちが好き?それと、パン二つずつ買ってあるからメシまだだったら一緒に食おうぜ」
人の家の冷蔵庫を断りもなしに開けて中にアイスを突っ込んでからくるりと振り返り、
にかりと笑いながら悟浄が言葉を続けた。
俺がメシを用意しておいたとか、実は何処か一緒に喰いに行きたい店があったとか、
そういった可能性を一瞬たりとも考えはしなかったと一目で分かる強引さに毒気を抜かれる。
「・・・小豆だ小豆。絶対小豆」
食い物を買って来るんだったらどうして来る前にそう言っておかねえんだ、このアホが。
そう思いながらも悟浄の、
自分のしている事は相手に喜ばれる筈だと何の根拠もなく絶対の自信に支えられて押し付けて来る好意にいつも俺は丸めこまれてやる。
こんな風に相手に譲ってやっても良いと思う自分は珍しいからだ。
「・・・豆腐があるんだが」
「え?」
「てめえがこないだ美味いっつってた豆腐が買ってある!」
「あ、そうなの?やったー!」
「やったーって・・・」
「パンだけじゃ足りないっしょ。オカズがあって良かった」
カレーパン喰いながら豆腐も喰うのか良く分かんねえ味覚だ。脱力しながら冷蔵庫から豆腐を取り出し皿に載せ薬味に茗荷を刻む。
「いっただっきまーす。どっちから喰うかなー。オーソドックスに行くかあ」
テーブルにカレーパンを並べ暫し考えた後悟浄は片方の袋に手を伸ばしばりばりと音を立てて開封する。
一見何処かどうそこらのものと違うのか見分けの付かないカレーパンに悟浄がかぶりつくのを見てから悟浄が選んだのとは違う方のパンを選び口に運ぶ。
「ど?」
「・・・パンが結構美味いが油が多いな。胃に凭れる」
「カレーパンって揚げてあるからな」
「カレーパンが好きなのか」
「美味いじゃん」
「そうか?」
もごもごと行儀悪くパンをほおばりながら会話する。漸く一つ食べ終わり、まだあと一つ残ってるんだな・・・と豆腐に箸を伸ばす。
「豆腐、さっぱりして美味いな」
「そうだな」
「じゃあ今度はこっち喰おうっと」
楽しみで仕方ない、と言った表情を浮かべ悟浄がもう一種類の方のパンをがつがつと喰い始める。
「おお、美味いじゃん」
「油がしつこくないか」
「んー?そうかな?俺は平気だけど」
悟浄に倣い俺も先程悟浄が食べていたのと同じ種類のパンを食べてみる事にする。
「・・・・・・」
市販のカレールウと違って何種類ものスパイスが調合されているしっかり作られたカレーが入っている。
「美味い」
「そっちのが好き?」
「・・・かもな」
「そっか、じゃあ後でネットで投票しようぜ」
「面倒くせえ」
「じゃあ俺が三蔵の名前で投票しちゃおっと」
「好きにしろ」
二つ目のカレーパンを食い終わり箸で豆腐の残りを掻き込みながら勢い込んで言う悟浄に投げ遣りにそう答える。
悟空のように食い終わるまで「美味い、美味いよコレ」
と言い続ける事なく最初の一口こそ美味いと言うがその後は特に有り難がっている風もないのにこいつの「美味い」
はただの社交辞令なのかも知れない、とふと思う。
「コレね、投票すると抽選でカレーが当たるかも知れないんだ。当たると良いなカレー」
「・・・・・・そうだな」
先に言えよそれを。
「あ、ちゃんと三蔵の分は三蔵の住所で出すって」
「別に俺は・・・」
改めてそう言われるとカレー如きにこだわっているかのようで意地汚く聞こえる。
「え?ナニナニ?俺の住所で出して良いの?」
・・・もしかして俺の作るメシなんか実はこいつにはちっとも美味くもなんともなくて「コンビニパンとかインスタントカレーの方が100倍マシ」
とか思われてるんじゃないだろうか・・・。
何とかカレーパンの最後の一口を呑み込むと途端に食欲が失せた。