deeper
自分は、悟浄の事を、まあ、嫌ってはいないのだろう。
良いトシしてガキみてえにくるくる表情の変わる落ち着きのない処も実はそれ程嫌いではない。
普段は軽率なだけのアホのクセして意外と芯の通った処がある事も認めている。
気安く他人に踏み込んで来ないその気の使い方も鬱陶しくなくて良い。
そうは思っても、だからと言って悟浄に抱かれたくて堪らないとか、
或いはその逆に悟浄を抱きたいのかと言うとそう言う訳でもないのだ。
手土産を持参し、或いは手ぶらで幾度も寺へ脚を運んで来たかと思うと不意に突き放すように素っ気ない態度を取ってみせる、
そんな悟浄に振り回されているうちに自分の悟浄への執着に気が付いた。そして、悟浄が俺に向けていた視線の意味にも。
気持ちが通じ合っている者同士なら身体を重ねるものなのだろうと、色恋沙汰には疎いクセにそう思い込んでいた所為でもある。
所謂ラブホテルに黙って連れ込まれたのは。
あれ程頑なに拒み、怯えていたと言うのに慣れさえすれば性行為と言うものはどうというものでもなかった。
人の事を「チェリーちゃん」だの何だの気安く揶揄う河童がその経験の多さを誇る程のものでも、
経験の少ない事が人生に於いて決定的な敗北事項であるかの如く言われる程のものでもないと思った。
仏教界に身を置いている者として「女犯」が破門を賭してまで犯す程のものでもないと思ってもいた、
女に入れあげて身を滅するなどと言う事が自分の身の上に起こるとも思わなかったのと同様に、
それはそれで勿論多少気持ち良いと思わないでもない瞬間こそありはするが病み付きになる程のものではなく、
だから何なのだと思う程度の事だった。
大体、こんな事は疲れるし腰は痛くなるし悟浄が必死になって腰を打ち振って目をぎらつかせる程のものと言うか、それ程の価値のあるものだろうか。
面倒くさいし、精液を吐き出し吐き出された後は全身が生臭いような気がする所為で身体を洗わなければ落ち着かないし、
本当に、何故こんな事をしなければならないのだと思うのだ。
差し向かいで煙草をふかしながら茶を飲んで、悟浄のくだらない話を適当に相槌を打ちながら聞いて、
それで良いではないかと思う。それで悟浄も俺と同じように満足してくれれば良いのにと思う。
例えば、お前とはもう寝ないと言ってみたらどうなるのだろう。
どうもこうもない、きっと簡単にこの関係は終わりになるのだろう。
面倒な手順を踏んで連れ出すだけの価値のない相手になど悟浄が興味を抱き続ける筈がない。
悟浄は他の女の元へ脚を運ぶようになって、代わりに俺の処へは来なくなる。それだけだ。
それだけの関係なのだ、俺と悟浄は。
伝票を掴んで立ち上がり、「まだ、時間ある?」と訊ねる悟浄の、
断られるとは微塵も思っていない欲望の滾った視線をちらとだけ見て、俺は最前までの想像を掻き消して無言で頷く。
物欲しげな視線で人の事を眺め回すクセに、悟浄の口付けは酷く優しい。
身体中から力が抜けてぼうっとなる。
自分だけ気持ち良くなっているのも悪い気がして少し伸び上がり悟浄の背中に腕を回して首筋に顔を埋める。
決して自分だって背が低い方ではないのにこうして伸び上がらなくてはならないと言う事実にいつも複雑な心境になる。
「ん・・・三蔵・・・」
リードを奪われまいとばかりに悟浄が口付け返し法衣の袷から手を突っ込んで来て膚の上を撫で回し、
しゅると音を立てて帯を解いては下着を引きずり下ろす。
そんな事をされるこの瞬間の気恥ずかしさが悟浄には分からないのだろうか。
悔しくて悟浄のジーンズを脱がし返そうと試みるが、震えた指では上手くバックルが外せない。
と言うか自分では使った事のないような、複雑でごついデザインのバックルにもたついていると、
すいと悟浄は俺の指を払いのけて片手でその面倒なベルトを器用に外すものだから、
自分の不器用さばかりが際だってしまいその事も俺を苛つかせる。
身体の中に指やその他の部分を突っ込まれる瞬間のどうしようもないいたたまれなさはどうだろうか。
脚を抱え上げられ、繋がっているのはほんの身体の一部分だけだと言うのにどうしようもなく悟浄の成すが侭にされている間の無力感を、
悟浄は知っているのだろうか。
そう思っているのに。
薄く唇を開かせて指を銜えさせ、濡れたその指を悟浄が下肢に突っ込む、そうしている間にも何度も落とされる啄むような小さな口付け。
胸にも、腹にも、そこかしこにも。
その柔らかい口付けを幾度も受けているうちに全てがどうでも良くなってしまうのだ。
どうして俺はこんなに莫迦になってしまったんだろう。