fixed
赤い髪が嫌いだった。赤い瞳が嫌いだった。
愛されたいと思っている相手に憎まれている自分が嫌いだった。
だけど八戒のようにあっさり自分の瞳を抉り出す程の勇気もない小心者の俺。
でけえ図体を心持ち縮こまらせてこのくだらねえ人生が終わるのをひたすら待っていただけの意気地なしの俺。
そんな俺に死ぬまで悪足掻きを続ける、それが人生だと説教するでもなくさらりと語ったそいつの髪も瞳も、 俺と張るくらいにド派手で。 誰がどう見たって珍しい色だと一目で分かるそんな容姿を生まれ持ってしまったらこの桃源郷では暮らし難いに決まっているのに、 そのくせファッションでそんな風体をしているのだと擬態も出来ないお堅い坊主なんて職業に就いていて。 それでもそいつのそんな潔いナリはとても綺麗だと思った。
ずっと、触ってみたかった。こんな風に。
指を差し入れてみると絡まる事もなくすっと通るクセのない髪。
僅かな光をも反射して、きらきらしていてとても綺麗だ。
指に引っかかる事もないその手触りが気持ち良くて、手を裏返して指の甲で金色の輝きを撫で下ろす。
少し冷たくて湿っている。
何で濡れてんのかな・・・ああ、外が暗い・・・雨が降ってんのか・・・。
・・・・・・雨・・・・・・?
その、手に感じる冷たさが現実とリンクしているものだと薄ぼんやりと認識して俺は覚醒する。
「・・・・・・三蔵?」
「漸く起きたか」
低い、だが良く通る声が間近から掛けられる。
何でだか分からないが三蔵が勝手に俺の家にと言うか部屋に入り込んで、俺を見下ろしていた。 いやそもそも家に入らなければ部屋にも入れない訳で。勿論俺はこの金髪坊主をボロ家にご招待した覚えなんかなく。
「・・・・・・何で、アンタがここに」
「好きでいる訳じゃねえ。八戒に言われたから仕方なく起こしに来てやっただけだ」
一息でそう言い捨て、胸の前で腕を組んで偉そうにふんぞり返って立っている三蔵は俺の手の届かない場所にいて。
先程まで確かに三蔵の髪を撫でていた筈なのにあれれ?
寝てる間に勝手に部屋ン中に入られた事に怒る権利のある筈の俺よりも何故か三蔵の方が威張っている事はこの際無理矢理横に置いておき、 寝惚けた頭で俺は微かに混乱する。
指先に濡れたような感触があった筈なのに。
視線を上げて先程触れていたような気がする金糸を確かめる。
微かにしっとりと、濡れたように色の変わっている金髪。
冷えた空気の中に混じる雨の匂い。
三蔵の髪が濡れているのは、俺の気の所為なんかではなく恐らく外の雨の所為だろう。
・・・さっきこの手があの金色に触ってたのは現実だったんだろうか?
他人に触るのも触られるのも苦手なコイツが髪を撫でられてじっとしているなんてあり得ない。 きっと、夢だったのだ。
耳が、雨の降る音と、三蔵の訪う音とを聞くとはなしに聞きつけていて、勝手に頭ん中で結び付けた映像を見せたんだろう。
「・・・何笑ってんだ、気色悪い」
「あー・・・ちょっと、夢見てて」
「くだらねえ」
鼻を鳴らして三蔵がつまらなそうに横を向く。
「いや、これが・・・・・・」
言い差し、俺は続ける言葉に不意に困る。笑える・・・と言うのとはちょっと違う。 「良い夢」っつうのもヘンだろ、三蔵が出て来たんだから。ああ、そうか。
「ちょっと・・・ヘンな夢でさ」
「二度寝しねえでとっとと起きて来いよ」
枕元の煙草に手を伸ばして一本取り出す間に三蔵は興味なさそうにそう言ってドアに向かい歩き出す。
ガキ扱いすんなよ。アンタは俺のおふくろか。
「こんなきたねえ部屋、二度は来たくねえからな」
狙い済ましたタイミングで、反論する時間も与えない、部屋を出る間際に捨て台詞を吐いて三蔵はドアの向こうに消えた。
「あー・・・寝起きに我が儘坊主のツラ拝んじまうなんてサイアク・・・」
口では悪態を吐きながらも俺はベッドの上でくつくつと肩を震わせて小さく笑う。
何時か、あんな風にアイツに触れる事はあるのだろうか?