WinterGarden
○月×日
いつもは自分が家を出る時間にはぐーぐーだらしなく寝こけている筈の悟浄が珍しく起きて来た時、三蔵は「珍しい事もあるもんだ」と思っただけだった。
「飯なら出来てるから勝手に喰え」
そう言い捨てて法衣の上に外套を羽織り、家を出ようとした三蔵に悟浄は声を掛ける。
「あ、ちょっと待った」
「何だ?」
「忘れもん」
「あ?」
脚を止めて律儀に辺りを見回す三蔵に悟浄は顔を寄せる。
「行ってらっしゃいのキス」
「いらねえよ」
んー、と唇を尖らせる悟浄に実にイヤそうに三蔵が顔を背けるが、悟浄は気にしない。
「コレはね、行ってらっしゃいってだけじゃなくて、無事に帰って来ますようにっておまじないなの」
「俺にはそんなモン不要だ。寧ろてめえの方が」
言い差し、はっと三蔵は口を噤む。気が付くと悟浄の腕が腰に回りしっかりと抱きかかえられている。
「うんうん、やっぱ必要でしょ」
「知るかっ!」
「ちゅーしよ、ちゅー」
「しねえっつうてんだろ!」
○月×日 夕刻
霊界にいる大切な人達へ届ける甘い菓子を片手に三蔵は帰宅した。
師匠と僧正と、待覚僧正とそれからもう一人。
真剣に店先で選んだ品だった。
暦の上では春と言ってもまだ日が暮れると途端に風の冷たくなる、そんな時季。
ドアを開けるとそこには悟浄が外を向いて、つまりドアを開けて入ってきたばかりの三蔵の方を向いて立っていた。
「どっか出掛けんのか」
外に行くにしては軽装な悟浄の姿を認め、近所の自販機に煙草でも買いに行くのかと、三蔵はそう思ったのだが。
「ただいまのキスは?」
「しねえよ、バカ」
朝方の「行ってらっしゃいのキス」に続く発言に途端に三蔵は気を悪くする。
「じゃあお帰りのちゅー」
「要らねえよ、この腐れエロがっ」
エロ河童、と皆まで言い終えるより前に唇を塞がれた。
「んん・・・っ!ふ、あ・・・っ」
突然の口付けは然し乱暴なものではなく、ひたすらに甘く、三蔵の手にしている菓子と同じ程に甘いものだった。
○月×日
ベストセラーの推理小説は、文がまだぎこちないながらもぐいぐい引き付けられる、そんなストーリーだった。
「名探偵は最高僧」
読んでみるつもりになったのは、タイトルに含まれる「最高僧」と言う単語の所為だったのだが。
実際、読んでみると本当に三蔵がモデルなんじゃないかと思う程に良く似ている。
「面倒くせえ」が口癖の、横着で横柄な名探偵。愛モクがマル赤ソフトっつう所まで一緒だが、珍しい銘柄でもないのでまあそういう事もあるだろう。
「この主人公の探偵ってあんたに似てると思わねえ?」
読み終えた新書を苦笑と共に差し出してみる。
「・・・・・・俺はこんなに横柄じゃねえ」
怖っ!!
自分の事は自分じゃ案外分かんねえもんなのかね、不機嫌そうにぼそりと呟いた三蔵の台詞を耳に、俺はそう思った。
○月×日
テーブルの上に置き去られた本は、先日悟浄に薦められたミステリの続編だった。
「・・・ったく、俺はこんなにマヌケじゃねえぞ」
悟浄のヤツは、主人公の探偵が俺に似ていると言ったがとんでもねえ。
事件を解決してくれと招きを受けた割に犯罪を阻止出来ず、探偵の目の前で一人二人と犠牲者が誕生する。
ちっとも解決してねえじゃねえか。解決編に至る迄に一体何日経ってんだ、ノロマな探偵だ。
ソレよりも寧ろ気になるのは。
「この貧乏クジ野郎はお前に似ているな」
お調子者で頭が悪くて運が悪くて、それでも懲りずに調子こいて危険な目に遭って。
危なっかしいが「こんなヤツいねえよ」とは言い切れない、何処となく放っておけないタイプで。
「俺はここまで不運大魔王じゃねえよ」
冗談だと思ったのだろう、からからと笑いながら悟浄がこちらを見もせずに言い放つ。
成程自分の事は案外自分では分からないものだ。
BBSに書いてたものの再録。旅が終わって同居してる頃の話です。
最初の2つは分かり難いですがバレンタインネタです。三蔵様は霊界宅急便で霊界へと毎年チョコを送ってます。
なので冬の話。なのでタイトルに「冬」を入れてみました。
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