gnarled pity
三蔵と悟浄が寄ると触ると喧嘩するのなんて旅の間から、と言うか旅に出る前から珍しい事じゃなかったし、
銃声を聞き咎めた八戒が諍いの理由を尋ねるのに三蔵は何も答えず、悟浄は悟浄で「幾ら何でも実弾ぶっ放すかフツー」
と文句をたれるだけで何が三蔵の怒気を誘ったのかについて答える事は以前から殆どなかった。
旅が終わって二人が一緒に暮らす事を選んでからも何度か二人は喧嘩だか何だかで揉めて、 やって来た三蔵がそれでも頑として喧嘩の理由を口にしない事も初めての事じゃなかった。 だけど今日の三蔵はいつもと何だか様子が違っていた。
いつもだったら八戒のちょっとしたイヤミにへこまされて頭が上がらない振りをして見せるのに、 居心地悪そうにすぐさま立ち去る素振りを見せたり。ソファに座って新聞を開きながら実は全然新聞なんか読んでいなかったり。
素っ気ない程口数が少ないのはいつもの事としても、 悟浄に腹を立てた様子をしていても、何だか今日の三蔵は、元気が無かった。
「なあ、三蔵の様子、ちょっとおかしくねえ?」
台所で飯の支度に取りかかる八戒にそう言うと、
「喧嘩をした後なんて皆あんなものですよ」
と少し目を細めて笑った。
「八戒でも喧嘩なんてする事あんのか!?」
驚いて思わず尋ねた。
「昔、たまにね」
「その時」を懐かしむように綺麗な笑顔を消さない侭八戒が続ける。
「ふぅん、そっかあ・・・」
納得しかけて、違う、そうじゃないと頭を振る。
「えっと・・・そうじゃなくて。なんか良くないカンジがするんだ」
「三蔵がですか?」
「うん・・・上手く説明出来ないけどなんか、怒ってるだけじゃないみたいだ」
「三蔵が怒っているのなんて珍しい事でもないじゃないですか」
「そうだけど・・・」
三蔵は確かに怒りんぼだけど、それだけじゃなくて。 感情を表すのが苦手な三蔵は大抵どんな気持ちも怒りと言う形で誤魔化してしまうから。 だから、三蔵の本当の気持ちは俺がちゃんと分かってやらなきゃって、ずっと昔から思ってたから。 怒ってるだけだと誤解されてもちっとも平気な顔をしている三蔵の分まで、俺が分かってやらなきゃって思ってたから。
三蔵や八戒のように言葉を多く知っている訳じゃないから上手く言えるか分からなかったけれど、 それでも俺が言わなくちゃ、って思った。
「えっと、三蔵、怒ってるみたいに見えるけど、多分怒ってるんじゃないと思う」
「・・・じゃあ、悟空はどう思うんですか?」
自分の意見を否定された事を怒るでもなく、優しい声で八戒が訊ねる。
「何ていうか、元気がないみたいだ。怪我してるとかじゃなくて」
ああ、ダメだ。やっぱり上手く説明が出来ない。もっと、ちゃんとした言葉を探さなくちゃ。
「悟空だったら、元気のない時ってどうしたら元気になると思いますか?」
「美味いもん腹一杯食う!」
「そうですよねえ」
すかさず答えると、小さく笑いながら八戒が冷蔵庫を開ける。
「いや、でもそれは俺の場合で」
「そうですか?美味しいものを食べて怒ってられる人なんていないんじゃないでしょうか」
冷蔵庫から取り出したものを手にした侭八戒が笑顔で振り返る。
「そうかな」
「そうですよ。だから、今日は海老フライを揚げましょうね。二人で食べればきっと三蔵も元気になりますよね?」
そう言った八戒がこちらに見せるように手にしているものを見て、正直俺はガッカリした。
だけど、八戒の言う「二人」が三蔵と悟浄の事を言っているんだと分かったので精一杯の笑顔を浮かべて見せる。