おやすみ、良い夢を
付き合い始めたばかりなのだから当たり前だと思うが、会う度に抱きたくなる。
セックスだけが目当てで次の約束を取り付けている訳ではない、それは自信を持って言える。
なのに、三蔵と会えば日が高いうちからどうやって会話を運べばホテルに、
或いは互いの家に行くのが不自然でないかそればかりが気になるし、
映画を観た後のコーヒーショップでだらだら煙草を吸いながら映画の感想を述べ合い、
さてまだ早い時間だけどこの後どうしようか、三蔵はどっか行きたい処あったりしないだろうかと
「どっか行く?」と訊ねて三蔵が「別に」と答えにもなっていない返答を返せば俺はせっかちにも
「じゃあ、さ。あんたの家行って良い?それとも俺んちの方が良い?」なんて口にしちまっている。
そして俺の下心ミエミエのそんな台詞に三蔵は少し頚を上向けて「そうだな」なんて言う。
誰の目も憚る必要もない二人きりになり買ったばかりの本なんかペラと捲ってみたりする三蔵の隣に腰掛けて、
骨がゴリゴリする尖った肩に手を回して撫で回し、すぐにそれだけじゃ足りなくなってオンナ並にクビレのあるほっそい腰に腕を回して。
「・・・なんだ」
素っ気なく言って如何にも邪魔そうに身を捩るのに解放してなどやらず髪に、肩に、あちこちに口付ける。
明らかに馴れてなくて、ベッドの中以外では自分からはキスの一つも強請らない三蔵だが行為を強請られるのに臆した事は、ない。
思い返してみればそこそこ多くの出会いと別れを繰り返していたのは三蔵と出会うより前の事だった。
決して長いとは言えない人生の中それなりに場数を踏んで来て、それまでに色々あった所為で恋愛に対してテンションが低くなっていて、
珍しくも恋人のいない侭迎えた誕生日、クリスマス、そしてバレンタイン。だけどそんな事もどうでも良かった。
その頃には俺はどんな理由を付けて三蔵を飲みに連れ出すか、そればかりが気になっていた。
あの強い視線から目が逸らせなくなった日から、あの視線に捕らえられた時から。
多分、恋人達の為の日と言うものを過ごすなら三蔵と一緒が良いと無意識に望んでいたのだろう。
一人きりの日々の間にもずっと。
そのクセその本当の理由からは目を背けていて。
街中に置かれているフリーマガジン、つまり無料配布の雑誌だ、そんなものをラックから抜き取ってぱらぱらと捲り、
カノジョいない歴数年とか言う男性読者の感想を読んで、
そういや俺もかれこれ一年近くご無沙汰じゃねえかとふと気付き、
それでも適当なオンナを引っ掛ける気にもなれず、思いあまって酒の勢いと酒だけではないものの勢いに押し流される侭三蔵に無理矢理キスして、
何となくそれを切っ掛けに三蔵との距離を縮め、付き合い出すようになった。
要するに、一年強の欲求不満が一気に吐き出されているのかも知れない。
絡み合う視線に目だけで笑って見せ、
ムード作りも忘れて性急に釦を千切り取る位の勢いでがっついて襲い掛かる俺に三蔵はいつも余裕たっぷりの何処か面白がっているような表情を見せる。
それが年上の余裕から来るものなのか、それとも行為に馴れていない風を装う三蔵の、実は豊富な過去に因するものなのか分からずに、
然し俺は三蔵の余裕を楽しめる程には大人ではなく、ガキのように性急に、欲しいだけ三蔵を貪ってしまう。
幾度も口付けながらその合間にも手を休める事なく体温の上がった三蔵の躯を撫で回す。
「脚、広げて」
濡れた唇から色っぽい喘ぎ声が漏れ始める頃そう告げると俺の言葉に恥じらうように三蔵がおずおずと僅かばかり脚を開いてみせるのに、
両脚の間に身体を割入れて脚を閉じられないようにして、思う様視姦する。
息を荒くする俺に、三蔵は何が可笑しいのかこんな時だと言うのにほんの少し笑って見せる。
一刻も早く三蔵の中に入りたがっている俺の、アソコ。
いや、確か一刻ってのは2時間だから一刻なんて待ってられない。一分一秒でも早く、だ。
2時間のお預けを喰らった訳でもないのにケダモノのように襲い掛かり、
自分から訊ねた事のない三蔵の過去の恋人の有無すらも脳裏から飛んでいる。
ひたすらに固く屹立したものを三蔵の中に出し入れして、三蔵の口から絶え間なく上がる悲鳴のような嬌声に
「気持ちイイ?イイんだよね・・・?」と告げて三蔵のソレを掌で擦り上げる。
もっと、もっと奥まで入り込みたい。熱い肉壁が俺に絡み付いて貪欲に引き込もうとする。
この瞬間を永遠に持続させたくて然しより深い快楽が欲しくて激しく突き上げる。とろけるような、三蔵の。
掌を或いは指を動かす間にも腰を振る事は止めず俺の手を濡らしながら三蔵がびくりと全身を痙攣させるのに俺も堪える事なく上擦った声と共に三蔵の体内で射精する。
未だ俺のモノを体内に収めた侭で三蔵が口付けを強請るのに痩身を抱き締めながら応えてやりキスだけじゃ足りないとばかりに三蔵が色っぽい吐息を零し俺の髪をきつくひっ掴む。
ケダモノはお互い様、だ。お似合いじゃないか、俺達は。
例えば三蔵の精神的な余裕は、恋人同士の間には身体だけでなく精神的に充足される関係も含まれると知っているからではないだろうかと、
思い至るその頃には俺も三蔵もどちらが放ったものかも分からなくなる位にべたべたと汚れた体液にまみれている。
腰を動かすと三蔵の脚の間からは俺の流し込んだものが幾筋もの線になって流れ、
三蔵の躯から流れ出すものが全て俺の放ったものであると言う事実に俺は酔う。
漸く荒い息を吐きながら俺はへらりと笑ってベッドの上に俯せて肘で身体を支えて煙草に手を伸ばす。
風呂から上がった後三蔵は再びベッドに戻って来て当たり前のように素肌にシーツを巻き付けて横になる。
「眠い。寝かせろ」
言いながら既に三蔵は半眼になっていて、シーツの上から三蔵の躯を撫で上げる俺の手を避けるべく更に小さく縮こまる。
まるで、小さな子供のするようなその仕草が可笑しくて、煽るのはヤメにして綺麗な金色の髪を俺はしつこい程に撫でる。
余裕も何もかもかなぐり捨てて、原始的な睡眠欲に身を委ねる三蔵の姿。
その無防備な姿は俺を信頼しきっているからこそ晒されるもので、嬉しくて自然に笑みが零れる。
眠る三蔵の隣に横になり、背中を向けている三蔵をこちらに向けようと腕を伸ばせば、
既に寝入ってしまっている三蔵は邪魔するなとばかりに不満そうに鼻を鳴らす。
それでも無理矢理腕に力を入れて寝返りを打たせようとすると俺の腕を避けようと三蔵は身体を丸まらせる。
体勢を変えるのは諦めて仕方ねえな、と裸の肩と、それから首筋に口付けて背中にひっついて後ろから腕を回して俺も眠りに就く事にする。
余程注意しない限り三蔵自身が気付く事のないであろう、ワイシャツのカラーでも隠れない高い位置、項の、
髪の生え際に悪戯に残したキスマーク。
三蔵がこの痕を誰にも見せる事がありませんように、誰にも気付かれる事がありませんように。
今この時だけはこの人の全てを俺のものに。