続けざまに敵を撃ち殺し大木の陰に走り込んで弾込めをする。 傷口から流れ出る血が腕を伝い落ち銀色の小銃を濡らし始めるのを袖口で拭う。 呼吸を整えながら銃のグリップをきつく握りしめ鋭敏になった感覚で見えない筈の残りの敵の位置を読む。
右斜めに一人、正面に一人、その少し後ろに一人、そして背後に一人。
右斜めのヤツが一番近い位置にいた。 そいつが一番先に躍り出て来て、次に近い位置にいる背後のヤツが襲い掛かって来るだろう。 一撃目は先制で制し二撃目はギリギリで交わす。 そう、踏んでいたのだがどうやらフォーメーションやチームワークとは無縁の奴らだったらしい。
読み通り右斜め前のヤツが茂みの中を声も立てず移動して来て躍り出てくるのを待ち構えて撃ち殺すが銃を構えた隙を狙って背後のヤツが襲い掛かって来る気配がない。 どうと血飛沫を上げながら額を撃ち抜かれた男が倒れるのに自棄を起こしたのか奇声を上げて前方の残り二人が走り出した。
更に一人撃ち殺し遅れてもう一人に狙いを定めた時漸く背後の気配が動くの感じた。 今から銃口を背後に向け直し狙いを定めるだけの時間は無い。先に目の前の敵を殺し背後の襲撃は交わす。 そう決めて背中で気配を読みながら前方に発砲した時躯が撥ねた。
背後のヤツのいる距離の憶測を誤ったらしく背中を斬り付けられたのだと振り返り確認するまでもなく分かった。 骨に刃先が当たった感じは無かったから肉だけを斬られたのだと判断する。 銃を構えるのに損傷した背筋では射撃を失敗するかも知れない、 そう思い第二撃が振りかぶられる瞬間銃を持ち替えて振り向き様最後の一人に向けて弾丸を発射する。 瞬間腕の傷と背中の傷が痛み銃口がブレそうになるのを手首を使って修正した。
血を流して地面に倒れ伏したそいつに向けた銃の狙いを外さない侭再び動き出さないと確信が持てる迄待つ。 絶命したそいつが持っていたのは自分が予想していたよりも剣先の長い刃物だった。
忌々しい思いで未だ刀を握った侭の死んだ男の手首を踏みにじる。薄い草履の下で踏み付けた骨がごきりと鈍い音を立てる。 見れば、先程自分の事を「女のようだ」と言った奴だった。

「こんな坊主のナリしてなきゃ女と間違えちまうわな」
「本当は女なんじゃねえのか?」

不愉快な下卑た笑い声が耳に甦り死んだそいつの顔を蹴り上げようとして止めた。血を流す額でこちらの足が汚れてしまう。 こんな奴の血で汚れたくは無かった。

獣に喰われてしまえ。

そう内心で吐き捨てて振り返る事無く歩き出した。
腕の傷は大した事はなくじきに出血は止まりそうだったが自分では見る事の出来ない背中の傷は血が止まらないらしく歩くうちにぐっしょり濡れて肌に張り付く僧衣が冷たくなって来た。 それでも背中が熱いのは恐らく先程斬り付けられた刃物が碌な手入れがされておらず刃先が潰れていた所為に違いないと推測する。 刃物の切れ味それ自体でなく力で無理矢理押して筋肉を切断していくと切断面の周囲の筋肉が押し潰され筋組織が損傷する。 或いは傷口から雑菌が入ったのかも知れない。自分で手当も出来ない箇所なので町に着いたら医者にかかる必要があった。 流れ出す血は腰帯で留まる事無く次第に足を伝い始める。 息が荒くなり一歩一歩の歩幅が少しづつ狭くなっているのを自覚する。 それどころか足を踏み出す毎に視界がぐらぐらと揺れている。 重たげに引き擦っている足はきっと枯葉や小枝を遠慮無く踏み付けて今や盛大に物音を立てているだろうに自分の耳にその音はもう届かない。 何故こんなに躯が重たいのかと考え血が足りなくなってきているからだと漸く気が付いた。
万が一先程の奴らが只のチンピラでなく大がかりな野盗群だった場合、今残党に襲われたら切り抜けられる確証は無かった。

『確証は、無い。』

何を言っているんだ俺は。

俺は何があっても生き延びる。
生き延びなければいけないのだ。

絶対、死なない。

そう、呪文のように口には出さず唱えると少しラクになった。 口元が笑みの形に歪んでいると自分でも分かった。 相変わらず足はのろのろとしか進まなかったが未だ何とか歩き続る事は出来るようだ。 よく怪我の事を「焼け付くような痛み」と言うがアレは嘘なのだと思う。 せめて痛みでも感じていればこの脳裏の霞を追い払えるのに。
未だ日暮れの時間ではない筈なのに視界に映った町の灯りが夕闇の中に浮かび上がっているように見える。 それとも怪我を負った自分は思った程の速さで歩いてはいなかっただけなのかも知れない。
そう言えば喉がひりついている。気が付かないうちに時間が経っていたのだろう。先程迄熱いと感じていた喉は水分が不足していた為に違いない。 満足に動かす事の出来ない足はそれでも惰性で前進を続けようとするので停止させるのにも余分な力が必要だ。 水を求めゆっくりと立ち止まり傷の無い側に担いだ背中の荷を手元に手繰り寄せようとするが機械的に動かしていた足を止めた事で重力と推力のバランスが崩れたらしい。 上手く止まる事の出来なかった足から躯がぐらりと前に傾ぎ乱暴に地面に手を着くとざ、と手の表皮が破けた気配がした。 それ以上に痛んだのは手を着いた時の振動が伝わった背中の傷だったが声帯から音が零れる事は無く、 荒い息だけが大袈裟に出て行った。
地に着いて体重を支えている自分の腕が堪えきれず力無く震え始める。

俺は、絶対に死なない。
こんな所では死なない。

頽れるように少しづつ顔から地面に突っ込んで行きそうになるのを髪が土を掠った所で留まった。
地面に付いた侭の掌をざりと握り締める。薄い指先の皮膚が痛む。
埃にまみれた自分の手。厭になる位細くて頼りない指。こびり付く乾いた血の赤。
視界に映るものを確かめるように声に出さず一つ一つ読み上げる。
白茶けた土。それから地面に残る誰かの足跡。轍。

絶対、死なない。

歯をきつく噛み締めて繰り返す。呪文のように。

タイトルの「聯」は「対聯」とかの聯です。
私の処の三蔵は背中にズバッとでかい傷があると言う設定なのですがその傷が出来た時。 この後町に着いて「医者は何処だ」と尋ねて昏倒。

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