うらぶるなつの
「今度、夏祭りとか行かねえ?」
電車の中、ドアに凭れながら見るとはなしに見ていた車内吊りポスターが花火大会の案内だと気付いて何となくそう言ってみた。 カノジョのいた頃ならともかく、ここ数年祭りとも花火大会ともご無沙汰だった。
「とかってのは何だ、とかってのは」
「夏祭り、一緒に行こ?」
バカにしたように言葉遣いを訂正されたので、何とはなしにムキになる。 三蔵が行くと答えても行かないと答えてもどうでも良いと思っていた筈なのに、もうこれは絶対 「うん」と答えて貰わないと気が済まないような気分になり、決定事項のように強引に誘い掛ける。
「・・・行っても良いが、何時、何処のヤツだ。あまり混雑する処だったら行かねえぞ」
これが女だったら当日人が多いだろうなんて事も考えず一大イベントには参加したがるし、 当日人の多さに驚愕し辟易し「もー疲れた。どっかで休みたい」と言った時、何処の店も予約で満席で、 なんて時には予約しておかなかった俺の手際の悪さを責めるし、 自分で来たいと言ったクセに「もう良い。帰る」と癇癪起こした時にも道路が閉鎖中とか大渋滞で、 なんて時にもまるで俺が悪いかの如く不機嫌になるもんだったが。
流石に三蔵は現実的で女とは逆に空いている処が良いと言う。
「えーっと、それはこれから決める。じゃ、浴衣とか着て来いよ」
「・・・・・・」
「これは、「浴衣」だけじゃなく「帯」とか「下駄」とか色々って意味」
突っ込めなかった事にむっとしたらしく、三蔵が口をへの字に曲げる。
ああ、こーゆーつまんねー事にムキになる子供っぽい処がすげー好き。
先にムキになった事は忘れて俺は機嫌を良くする。





そして当日、境内に孔雀を飼っている三蔵の実家の寺で待ち合わせた。
以前は各町でバラバラに山車を出して小規模な祭りを何回も開いていたそうだが、 最近は日程を合わせて合同で夏祭りを行っているのだとか。祭りに参加すると言ったら勿論子供が主役だが、 子供の数の減って来ている昨今、町内会単位の人のぱらぱらとしか来ない寂しい祭りを何度も行うよりは、と言う事だろう。 所帯持ちでも子連れでもない俺が尤もらしく言う事ではないのだが。
社務所の呼び鈴を鳴らして三蔵を待つ。
「雨、降らなくて良かったな」
紺色の浴衣に濃紺の帯をきりりと締めた姿で呼び鈴に応えてやって来た三蔵は然し、そう挨拶した俺の姿を見て眉を顰めた。
「人には浴衣でと言っておいててめえはTシャツかよ」
三蔵の指摘した通り、俺は●ニクロの、 だが結構気に入っている今夏の新作フォルクスワーゲンビートル柄のコラボ黒Tシャツにジーンズと言う軽装だった。
「浴衣、持ってないし」
確信犯だったのだと告げると三蔵は唇の端を歪める。
「浴衣なんて持ってるヤツの方が少ないって。三蔵が持ってた事の方が計算外」
両手を上げて降参のポーズで白状する、そんな俺を無言で三蔵は推し量るように数秒睨み付け、納得したらしかった。
「じゃ、行くぞ」
「え、早くない?」
「5時からだろう?」
「そうだけど。普通はもっと遅い時間、盛り上がった頃に行かないか?」
「朱泱からメシ代わりに出店の食い物を買って来いと言われててな」
・・・それはつまり。俺ら(若しくは三蔵一人だけ)が帰る迄あの髭のおっさんと住職はメシを食わずに待っていると言う事で。 つうか多分、三蔵も祭りでは買い食いなんかせず、一緒に寺でメシを食うのだろう。
つまり三蔵は、恋人と一緒に祭りに出掛けるモードではなく、夕飯の為の買い出しに出掛ける主婦モードだと言う事だ。
「・・・・・・気が変わったんなら帰っても良い」
先に立って歩く三蔵に少し遅れてとぼとぼと後を附いて行く俺を、気が乗らないのだと思ったらしい三蔵がぽつりとそう告げる。
「あ、ゴメン。そーゆー事じゃなくって」
そうだ、だったら3人じゃ食い切らねえよって位、俺の分まで入れた量を買って帰れば良いんだ。 そうすれば祭りの後も、俺は帰らなくて済む。
そう考えて数歩大股で歩いてあっさり三蔵に追いついて、告げる。
本当は、一目見た時以来言いたかった言葉を。
「浴衣、すげー似合ってる」
タイトルはインディーズユニット「ヌーキキ」より。
山車を見たり山車で能の小舞台があったり色々あるんですが本当は夏祭りネタはどうでも良い派なのでパス。
三蔵の実家の寺は地元の由緒ある寺をモデルにしてるのですが、 昔から孔雀とか小鳥とか鶏を大量に飼っていたのに最近止めてしまってどうしたんだか心配です。

novel−パラレル