平原の町
一面になだらかな緑の広がる平原の向こうに広がる羊の群。羊飼いは見慣れぬ乗り物が遠くを走り去るのを顔を上げて見送る。 草の匂いのする風の中、ジープは走り続ける。
その、ジープの上から身を乗り出して悟空は訊ねる。
「なあ、あの白いの何てドーブツだ?」
「羊ですよ」
「ひつじ・・・って美味いのか?」
「ったくおサルちゃんの頭には食いもんの事しか入ってねえのかよ!」
「いーじゃんか聞いたって」
「食べられますが、それよりも羊から採れる羊毛の方が貴重なんですよ」
「よーもー?」
「ええ、暖かくて、衣類の材料になります」
「ふーん・・・。でも、やっぱ食えんだな!」
「おめーは人の話を聞けよ・・・」
「っだよ!ちゃんと聞いてたじゃん!」
「食えるか食えないかしか聞いてなかったじゃねーか」
「んな事ねーよ!」
「大アリだろうが」
「何を〜」
「やるかぁ!?」
「バカ騒ぎは降りてやれ!」
スパーン!!





その日辿り着いたのは、地図に在るか無きかの小さな点で辛うじてぽつりと描かれているような小さな集落だった。 宿のない事に途方に暮れていると親切な住民が長の家に案内してくれ、 三蔵の読経と引き換えに宿泊を許可された4人は料理や酒のもてなしを受ける事となった。
三蔵達を上座に据えた卓に載せられたのは独特の香りのする香草で味付けした薫製肉の厚切りや、或いはその薫製肉を薄く切って、 薄く焼いた小麦粉のクレープで野菜と一緒にくるんで食べる料理、大量の野菜をくたくたになるまで煮込んだスープ、 細かく刻んだ数種類の木の実を砂糖で固めた菓子、果物の蜂蜜漬けなどなど。
然し貧しい集落の精一杯の歓待では悟空の腹に見合うだけの量は供されず、 勿論、闖入者である自分達を歓迎してくれた人達の前では「料理が足りない」とはさしもの悟空も言い出しはしなかったが。 宴が終わり、客人用の部屋に戻り悟空はついに音を上げる。
「ハラ減った〜」
寝台の上に脚を組んで座り込むなり悟空が力無い声で言う。
「てめーは散々食ってただろうが」
「だってさあ・・・・・・」
言い差し、悟空は悩ましげな溜息を吐いて遠くを見るように視線を宙に漂わせる。
「羊は良いなあ。草が食えて・・・」
「食いたきゃ好きなだけ食って来い」
首を回して窓の外を見る悟空に、三蔵は素っ気なく告げる。
「俺、ハラ減り過ぎて眠れないかも」
「だ、そうですよ。どうしますか、三蔵?」
「放っておけ」
「あっ、そーだ!羊がいたじゃん!」
「よさんか!」
「美味いんだろうなあ、ひつじ〜」
「こんな処で羊泥棒を汚名を被るのは僕的にはちょっと・・・。さ、もう休みましょうか」





ぐおー、ぐごー。
「・・・ムニャムニャ・・・」
「ハラ減って眠れねえっつってたのは何処のサルだ」
「悟空は寝付きが良いですからねえ」
「こっちはサルのイビキがうるさくて眠れねえっつうの」
暗闇の中でぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜながら悟浄が苦い顔で吐き出す。
「・・・にしてもコイツはこんだけ煩いのによく眠れるな」
悟空の隣でこちらに背中を向けるようにして丸まってる三蔵は起き出す気配がない。
「付き合いが長いですからね、矢張り慣れているんでしょうね。そのうち僕達も平気になるかも知れませんよ」
「んな事には慣れたくねえな・・・」
「そうですか?僕は結構慣れて来ましたけど」
「だったらお前にゃコレはいらねーな」
あはは、と小さく笑う八戒に意地悪く言ってから、悟浄は手の中のボトルウイスキーを見せびらかす。
「え?」
「寝酒だよ」
そう言って悟浄は魅惑的なウインクを投げて寄越す。
「いただきますよ」
負けじと八戒は柔らかな笑みを浮かべるのだった。

ラッパ飲みの回し飲み。タイトルはコーマック・マッカーシーの真似っこ。

novel