クワイエットデイ
シーツを散々乱して睦み合ってから眠りに落ち、日が高くなってから起き出してのんびり飯を喰って、 それから二人して買い物に出掛けた。八百屋の前でじっくり品定めをした三蔵の荷物を持ってやり、次に向かった先は酒屋だった。 共に暮らす二人が二人とも酒飲みとなると結構なペースで酒が減って行く。ちょっと買い過ぎたかなと思う位がちょうど良い、 そう思ってビールやら日本酒やら、何種類もの酒を見繕って篭に入れた。
三蔵の作った、薄味かつ野菜ばかりの夕飯を喰いながらちょっと奮発して買った年代もののワインを開けた。 二人してあっと言う間にボトル一本空けて、それだけじゃ飲み足りなくて焼酎の瓶をテーブルに載せて。 焼酎と言うヤツは強い酒にありがちなクセの強さがなくて飲みやすい。 気が付いたら今日開封したばかりの焼酎も二人で一本空けてしまっていて、 しかも最後は殆ど割らずにグラスに注ぐなり氷が溶けるのを待つ事もなくぐいぐい飲んでいた。つまり、酔っていた訳だ。


気が付いたら機嫌の良さそうな三蔵の笑顔が間近にあった。
キレーだな、とほんわりと思いながら何故三蔵の顔がこんなに近くにあるのかを不思議に思い、 漸くソファで横になっている自分に気が付く。
あー、俺、寝てたんだっけ?
重い瞼をどうにか開けて視線を上げる。ソファで寝ているとの認識は間違っていなかったらしく、 居間の天井が視界に入る。それと、とろんとデフォルトで目尻の下がった三蔵のドアップと。
「ごじょう」
「ん・・・」
「悟浄、起きろ。月が綺麗だ」
「あー・・・?」
「起きて、窓の外を見ろ」
繰り返し、強請られる。どうやら良い気分なのは俺だけではないようで。
「んー・・・」
ゆらゆらと腕を掴んでしつこい位に揺さぶられる。本当はまだ眠くて瞼が開ききってはいないのだが、仕方なく上体を起こす。
「どれ・・・?」
部屋のカーテンを開けようとするとそっちじゃない、と袖を引っ張られる。
こっちだ、と三蔵の部屋に引き入れられ、 灯りも点けない侭窓際にある三蔵のベッドに近付いて行くと早くしろと言わんばかりに背中を押され、 勢いでベッドに片膝を乗り上げる。何だこりゃ、月はただの言い訳で誘われてんじゃねえの、 そっちがソノ気ならアソコが擦り切れるまでヤってやろうじゃねえの、 嬉しくなって俺は三蔵の身体を抱き込もうと腕を伸ばすが、三蔵はするりと俺の腕をかいくぐり窓枠に身を乗り出す。 ほら、と夢見心地の横顔は俺を見る事なく熱心に中空を見つめている。 何なんだよもう、と口にこそ出しはしなかったが三蔵の視線を追って俺も窓の外に視線を投げる。
三日月よりも尚細い、鋭い爪のような月に薄く雲が掛かっていた。 その細い月はそれでも、太陽から受ける光を反射して檸檬色に輝きながら雲を半ば透き通らせて所々影を落としている。
まあ、確かに綺麗っちゃ綺麗だが。
「・・・アンタに月見をする風雅なトコロがあるとは思わなかったな」
第一旅の間に散々野宿したが、「今日は月が綺麗ですねえ」なんて言い出すのは八戒の役目で、 サルに至っては、でけえまん丸な月を「すげー!萩●月みてえ!うまそー」なんて感嘆した後は例の如く「腹減った〜」 と続けたもんだ。いや、だからとにかくあんたから景色がどうこうと言う話を聞いた事は一度もなかった。 俺の記憶違いなんかじゃねえ、確かに聞いた覚えがない。
「河童にだってねえだろうが」
ムッとした口調で三蔵が間髪入れず言い返して来る。
「・・・・・・」
てめえが見ろっつったんじゃねえか、そう言ってやろうと三蔵の方に顔を向ける。 が、俺の見ている前で三蔵は凭れるように乗り出していた窓枠から身を離して、ゆっくりと背中からベッドの上に倒れる。
金糸を白いシーツの上に散らして瞼を閉ざした三蔵は、誘うように両腕を軽く頭の上の方に伸ばしている。 今はいつもの法衣姿ではなく、ボタンを数個止めただけの白いシャツの裾がはだけて真っ平らな腹部が見えている。
やっぱ月はただの口実なんじゃねえか。
三蔵の上に覆い被さる前に窓とカーテンを閉めて、と手を伸ばすがふと思い付いてカーテンは開けた侭にしておく。 三蔵が「見ろ」と言った月が、これなら寝台の上からでも良く見える。
「さーんぞ」
上半身を伸び上がらせて鼻先に小さく口付ける。
「ん・・・」
途端、うるさいとばかりに三蔵の腕が持ち上がり俺の顔を払い退けようとする。
「だいじょぶだって。誰も人ん家なんか覗き込みやしねえよ(多分)。見てんのはお空のお月様だ・け」
今度は邪魔されないよう三蔵の手をシーツに押し付けて軽く握り込んでから唇にキスをする。
「んん・・・」
小さく呻くと、三蔵は顔を背けてシーツに頬を擦り付ける。
「三蔵」
「・・・・・・」
返事がない。どころか、呼ばれる名前に三蔵はイヤそうに眉間に皺を刻んだきり目を開けようともしない。
「・・・三蔵?」
「・・・・・・」
顔を寄せると、すうと小さく聞こえて来る寝息。
「・・・寝たフリなんかすんなよ」
「・・・・・・」
「起きないとイタズラするぞ」
言って、シャツのボタンを外し始める。1つ、2つ・・・。
「う、ん・・・」
色っぽい、鼻にかかった吐息こそ零れるがそれでも三蔵は目を開けない。
「・・・そりゃあねえだろう」
全裸に剥いてオカズにしてやろうかと、冗談とも本気ともつかない事を考えながら眠る三蔵を見下ろす。 月明かりを浴びて不健康な程青白く見える、三蔵の膚。
まるで旅をしていた頃のようだ。
長旅で、痩せて、やつれた三蔵に無理をさせたくなくて、抱く代わりに一緒のベッドに入ってこの腕の中に抱き込んで、 眠る三蔵を見つめていたあの頃に。
「・・・・・・ま、しゃーねーな」
三蔵は信じないかも知れないが、これでも結構我慢はきくのだ。
今日のところは寝かしておいてやるぜと、 三蔵を起こさないようゆっくりとジーンズのポケットを探りひしゃげた煙草の箱を取り出して、静かな夜を過ごす準備をする。

「day」の話じゃないよ・・・。
SundaySilence産駒の名前。良い名前です。

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