サクラサク
慣れていない相手と言うのは珍しかった。何より男のカラダを相手にする事自体珍しかった、っつうかハジメテだった。
成程、ココが良いのね、と探るように手順を踏んで行き、 一度抱けば俺は無駄な所で記憶力の良さを発揮し相手の敏感な場所を忘れない。
性行為に不慣れな所為もあるだろうが三蔵は、俺の手がその膚をするりと撫で上げると次はどうされるのかとばかりにびくりと身を竦める。
ひでえ事なんてしないのに。
アンタの、気持ち良くなる所だけ触ってるのに。
まあ、酷いと言えば酷い事ではあるのだけれど。
挿れるべきではない場所に硬くなった性器を突き立てるなんて事は。
幾度その身を裸にひん剥いてみてもその度にしげしげと眺めたくなる痩躯。 一緒に暮らし始めて旅をしていた頃より頻繁にベッドを共にするようになったのに全然見飽きない。 幾度抱いてもこれで充分だと思う事もなく、飽きもしない。それは三蔵が何度抱いても相変わらず初心な反応を返すからだろう。
もし三蔵が百戦錬磨だったりしたらそろそろマンネリっつうか、飽きが来ていたのだろうか。 飽きが来ないのはもしかしたら俺がエロ河童だからなのかも知れないが。
そんな訳で今夜もお楽しみの後、ベッドに二人して寝転がっていた。
春と言っても朝晩はまだ大分冷える。こうして二人くっついていると暖かくて心地良い。それは三蔵も同じようで、 俺の背中に腕こそ回しはしないがまだ眠っている訳ではないようなのに俺の腕の中で目を閉じたきり大人しくしている。
腕の中の確かな体温が嬉しい。
「な、来週辺り桜が見頃みたいだぜ。花見に行かねえ?」
「人込みは好きじゃねえ」
眠っていたのではない証拠に即答される。予想はしていたがあっさりイヤだと答えられた。
以前は完全な夜型生活だったので花なんて夜の賭場に出掛ける途中にチラ見するか、酔って朝帰りの道すがらチラ見するか、とにかくのんびり花見なんてした事もなかった。 酒場のオネエちゃん達や酒飲み仲間と連れ立っての花見だって勿論した事はない。 一緒に花を眺める程深い付き合いなんてものには縁がなかった。
「ほら、何時だったかどっかの街で花見の祭りに出かけた事があるじゃん」
八戒を拾った縁で、三蔵達に出会うより前には。
「そんな事もあったな」
「あれより前に花見ってした事ある?」
「そんな洒落たもんじゃねえが、俺が育ったのは山寺だったからな、放っておいても回り中木ばっかりだった」
「ふうん」
「山桜の大木もそこら中生えていて・・・まあ、そんなもんだ。わざわざ出掛けて花を見ながら飲み食いするような事はしなかったな」
「じゃあやっぱ行こうぜ」
「何が『じゃあ』なんだ」
ばちんと目を開いて三蔵が睨み上げて来るがそんなもんは気にしない。
「出店も出てるだろうし、悟空と八戒も誘ってさ・・・?」
言ってから、以前も同じ事を言ったような気がした。
それとも誰かに言われたんだったろうか。
腕の中の、確かな体温。
本当に自分のものなのかどうかもあやしい既視感。
「4人で、桜を見に行こう」
「お前・・・」
「・・・って、俺、前にも言ったっけ?」
「いや・・・」
訝し気に三蔵が俺を凝視する。
そうだよな、思い返してみてもこいつにそんな事を言うようなシチュエーションが浮かばない。
酔った拍子に嘗て誰かに言ったのかも知れない。それこそ酒場のオネエちゃんとか。
酔っ払った誰かが景気付けに言ったのかも知れない、約束でも何でもなくただその場限りの勢いで。
「食いモンのあるところだったら悟空のヤツも喜ぶだろうし」
気まずいのを誤魔化す為にわざと明るい声で言ってみる。
「そうだな」
混乱している俺をどう思ったのだか、不審気な表情を消して三蔵は微かに笑みを浮かべた。
「桜の下で酒を飲もう」
桜色の唇に囁きのような小さな言葉を載せて。