SummerShadow
○月×日 悟浄
ぱちりと目を開けると其処はソファの上だった。
時計を見ると、2時間近くも眠りこけていていた事が分かった。
三蔵のマンションでまるで自分ちのようにくつろいで寝入っていた俺の身体の上には毛布が掛けられていて、そんな事に嬉しくなる。
ちょっと、変な夢を見ていた。

知人の心臓手術を執刀するかどうかで悶々とする俺。
つうか俺手術なんかした事ねえだろ、と思い起こしてみると俺はちゃんと医大を卒業してて、 そんでもって執刀経験が無かった。にも関わらずその手術を俺が行うもんだと思い込んでいて、 変更も利かない手術の数日前になって執刀経験のない俺がオペの主任じゃマズイんじゃないのか(マズイに決まってんだろ)と、 慌てて心臓疾患担当のエライドクターに連絡を取ろうとばたばたしていた。

こんな夢を見たのはあれだ、数時間前にコンビニで、土曜にも関わらず売れ残っていた少年●ガジンの「○ッドハンド輝」を立ち読みした所為だろう。
週明けに、何か仕事で失敗やからす前兆じゃねえだろうなと、つい頭を抱える。
「起きたのか。これから飯の支度するが何か喰いたいもんは」

「三蔵。お医者さんごっこしよう」

自分が何を口走ったのかに気が付いたのは、三蔵の拳に吹っ飛ばされてからだった。



○月×日 三蔵
ふあ、とソファに腰掛けた悟浄が大きな欠伸を漏らした。
昨夜は徹夜だったのだと、来てすぐに言っていた。
「システム変更するってのが、経理部とシステム部門の奴らの独断専行で現場との摺り合わせしてなかったんだってよ。 そんで、システム変更になるって話聞いた営業部門から何度もストップかかってさ・・・ 後から色んな案件ぶち込んだから変更変更で納期押してんだ」
休んで大丈夫なのかと尋ねれば
「身体持たねえから交替。何かあったら連絡来るだろうよ。・・・ああ、ダメだねみぃー」
「寝てろ」
「んー・・・、もし寝てる間に携帯鳴って、そんで俺が起きなかったら起こして」
「ああ」
俺の返事に安心したかのようにことりと眠ってしまった。
結局その後悟浄の携帯に会社からの連絡はなく、 だからと言ってこれから呼び出されないとも限らないが夕飯は二人分拵えようと思った。
何か、悟浄の好きなものを。
そう思って悟浄の様子を見に行けば、どうやら起きていたようだ。
「起きたのか。これから飯の支度するが何か喰いたいもんは」

「三蔵。お医者さんごっこしよう」

何の脈絡もなく吐き出された台詞に、気が付けば悟浄を殴り飛ばしていた。



○月×日 その後の二人
先に風呂から上がった悟浄は当然のように三蔵ベッドの端に腰掛けて三蔵が風呂から上がるのを待っていた。
「ね、お医者さんごっこ、しよっか」
「まだそんな事言ってんのか」
ひく、と三蔵は不機嫌に口の端を歪ませる。全身で拒絶の意を表している三蔵のそんな姿を気に止める事もなく悟浄は言葉を続ける。
「ん。あんたが医者ね」
「え」
「あ、なに、患者の方が良い」
「いや・・・、だから妙なプレイなんぞしねえっつってんだろうが!」
てっきり「俺の注射」とかそんな事をされるのだと思ったと、自分の下品な想像に思わず三蔵は顔を赤らめて怒鳴る。
「先生」
そう言って突っ立ったきりの三蔵を見上げると、その手を取って悟浄は自らの胸に三蔵の掌を押し付ける。
「ココがイタイんです」
「煙草の吸い過ぎじゃねえのか」
「草津の湯でも治せない病気なんです。先生、治して下さい」
目を閉じて、うっとりと悟浄が告げる。
「バカが・・・」
呆れたように溜息を吐き、掌に力を込めて三蔵は悟浄をベッドの上に押し倒す。
「草津の湯でも治せない病気は医者にも治せねえんだよ」
そして掌の代わりに自分の頬を悟浄の胸の上に乗せたのだった。



○月×日
こんな暑い日には何処にも出掛けず冷房のキンキンに効いた部屋で過ごすに限る。
と言う事で三蔵の家の近所のレンタルショップに二人で出掛けた。
昼日中の暑い時間を避けて、と言う訳でもないが仕事帰りに待ち合わせて。
洋画新作のコーナーを物色してる俺からふらりと三蔵が離れて行ったのをちらりと横目で確認し、 結局新作ではなく新作落ちの7泊もののDVDを掴んで邦画コーナーをうろついてる三蔵の後ろ姿にこっそりと近付く。
新作コーナーをチラ見で通り過ぎ、新作落ちコーナーで三蔵は立ち止まっている。
「何か見たいのあった?」
「そうだな」
そう言って三蔵が棚に手を伸ばす。お笑いか、それとも悲恋ものかと首を傾げて覗き込む。
「映画が公開された時見たいと思ってたんだが何時の間にか公開が終わっててな」
そして三蔵は手の中のそれを持った侭カウンターに向かった。
『ヅラ刑事(デカ)』を。



○月×日 2時間後
感想は、と言うと。
面白かったのだ。インパクトのあるタイトルからある程度のレベルに行ってなかったら承知しねえぞ、 と構えてはいたが取り敢えず合格点だろう。
更に予想外だったのは、普段あまり笑う事のない三蔵が時折笑みを浮かべていた事だ。
勿論ゲラゲラ大笑いはしなかったが。
ほんのりエロとか下ネタの時は無反応なクセにヅラネタの時だけは、はっきりと楽しそうにしていた。
もしかして三蔵はヅラが好きなのだろうか。
ハゲが好きなのだろうか。
もしかして、考えたくもないが将来俺がハゲたりしてヅラを被ったりしたら
「待て、曲がってるぞ」
なんて出がけの俺のヅラをそっと直してくれたりするのだろうか。
いやいや、今は技術が進んでるからあんな風に頭にちょこんと載せるヅラは旧式の安物だけで、 もっと自然かつ外れないようになっている筈だし、それがあと何十年もすればもっと進化している筈だ。
じゃ、なくて。
「なんか随分ヅラに好意的じゃん。三蔵の周りってハゲとかヅラとか多いの?」
冗談めかして尋ねてみれば、真面目な三蔵は一瞬真剣な顔をして考え込む。
たかがヅラの事なのに。
「そういやヅラを被ってるヤツは見た事がねえな」
「ふうん」
そりゃ良かった。
俺が年取ってふっさふさのロマンスグレーになっても「こんな筈じゃなかった!」と嘆かれる心配はないって事だ。



○月×日 数時間後
酒を飲みながらヅラ刑事(デカ)を一緒に見てからシャワーで軽く汗を流してからベッドに潜り込んだ。
二人して服を一枚残さず脱いで。
洗いたてらしいシーツの肌触りが心地良い。
帰りの時間を気にしないで済む週末だ、ゆっくりじっくりと愉しむつもりだった。
指を埋め込んで弄くりながら腹の上で勃ち上がってるモノに舌を絡めると色っぽい声で三蔵は啼く。
俺にしゃぶられながら気持ち良さそうに目を閉じた三蔵は、無意識にだろう、俺の髪を引っ張った。
緩い刺激にうっとりしているのだか、満足していないのだか分からない位の強さで。
指を絡められてヅラがまるっと取れてしまったり、髪が抜ける度に地毛が抜けたのか、 それとも一本幾らの植毛が抜けてしまったのか気を揉むなんて絶対ゴメンだ。
俺のテクが凄過ぎる所為もあるだろう(←何気に自慢)、三蔵は夢中になって何本か俺の髪を引っこ抜く時がある。
そんなことを考える場面ではないのにやっぱりハゲでもヅラでもない方が良い、強くそう思った。





BBSより再録。
ヅラ刑事見た後に勢いで書いた。
因みにヅラ映画の「蔓(かずら)」は都内一箇所でのみ公開、しかもレイトショー限定だったので見られませんでした・・・!見たかったのに。

novel−パラレル