bridge of sigh
無言の侭乱暴に口付けると心底苦しそうな顔をして。
笑った。







たかだか十日にも満たない別離の後の再会に大袈裟に歓声を上げて「久し振り」と言ったりはしない。
それが大人同士の突き放した関係と言うものだ。
だったらなるべくしてなったのだとでも言うかのようにヤツと小猿とを同室にしてやるのが大人の気遣いってもんだろう。
そんな事ぁ分かってる。
だけど俺は三蔵の意向も悟空の気持ちも訊ねる事もなく無言で部屋の鍵をひっ掴みついでに最高僧様のほっそい腕も力任せに引っ張った。



ドアを開けてドアを閉めて荷物のようにベッドに投げ出してやると三蔵は憮然とした表情で起き上がって、ベッドの淵に腰掛けた侭袂から煙草を取り出した。
久し振りに見るマルボロのパッケージ。
視線を逸らしてベッドの枕元に近い壁に寄り掛かり、俺も煙草を咥える。


別行動していた間どうしていたのかとは、今更尋ね難かった。
何時かは訊けるようになるのかも知れない。だが、今は。
ヘイゼルとガトの名前を口にし辛いと、俺達の誰もが思っていた。
そして三蔵と別行動をしていた間の俺達3人がどうしていたかと言うのも、矢張り近況報告として軽〜く流してしまうには重い出来事だった。
八戒や悟空は、何の躊躇もなくあっさりと話してあっさりと尋ねるのかも知れない、もしかしたら。 明日になったら二人部屋だったのに何の話も聞き出してないのかと、ヤツらに呆れられるかも知れない。
勢いでコイツを部屋に連れ込んではみたがさてどうしたものかと三蔵の方を見ると、どうした訳だかしょっちゅうライターを失くす最高僧様は、 煙草を咥えた侭いつものように100円ライターをごそごそと探している最中だった。未だに。
見付からなければいつもは横柄な口調で「火」と短く一言だけで俺に命令するもんだが、珍しく何も言って来ない。
命令された俺がホストよろしく火を点したライターを恭しく差し出してやっても当然のように思っている非常識な三蔵が、 非常識ってのはダブルの意味でだ、礼を言わない事もそうだし、 ライターを渡されるならともかく火の点いたライターを差し出されるシチュエーションの不自然さに気付いてない事も含めてだ、 まあとにかく三蔵が俺のライターをアテにしていないらしき事が何となく分かった。
そんなにいつもいつもライターが行方不明になるようじゃ「アイツら」と一緒だった間はどうしてたんだ、と軽口を叩こうかと思い、止める。 あの朴訥そうな大男だったら「火」と言われたらライターに火を点してから差し出すもんだ、 と教えてやったら疑う事もなく便利なライター係になっただろうにと思いはしたが、そんな事考えたってもうどうしようもない。
どうしようもない、だって、とその先に続く言葉を脳裏に浮かべてしまう前に代わりに溜息を一つ。
頼まれもしないのに身を乗り出して俺のジッポを三蔵の隣に置いてやる。
その間当然のように俺達は無言。
苛々する。

更に言うなら、そもそもの別行動をする切欠となった一連の出来事が未だ俺の胸にはもやもやとした塊となって蟠っていた。

瀕死の悟空の姿に取り乱したと言うのとも違う、嘗て見た事もない程理性を失ったと言うか、キレたと言うか、 ともかく冷静さを失った三蔵。血塗れの悟空を手当てする事もなくその腕に抱きただ呆け、あろう事かその悟空を置き去りに走り去った。
本当に、「そんなんアリですか」と聞きたくなる程支離滅裂な行動。
その時はただ無性に腹が立っただけだったが後になってみれば腹立ちだけでなく、他の感情も芽生えて来た。
三蔵にとって悟空の存在はそんなにも重いものなのかと。
血を分けていない間柄だと言うのは承知の上で、それでも時折あの二人を親子か兄弟のようだと思う事はあった、確かに。
でも、それだけじゃあねえだろう?
あんたにとって、悟空ってナニ?
あんたにとって、俺ってナニ?
あんた、本当は悟空の事をどう思ってんの?
あんた、本当は俺の事どう思ってんの?





吸い掛けの煙草を取り上げて灰皿に押し付ける。
噛み付くように口付けて性急に乱暴に三蔵の全身を覆う法衣を取り払って。
八戒が治癒したとは言っても数時間前まで満身創痍の酷い有様だった人間相手にするには手荒い俺の扱いに、 三蔵は文句の一つも言うでもなかったが腕を突っ張って俺から逃れようとする。 無理矢理に押さえ込んで黒のハイネックを脱がせようとすると、 あの黒鴉に相当殴る蹴るされたらしく布切れの下から現れた三蔵の肌は何かの冗談のように痣だらけだった。
まだあちこち痛いのかも知れないが止めるつもりはない。
両腕を差し伸べてその小さい顔を両手で挟んで俺の方を向かせると、三蔵は苦しそうに眉根を顰め、それでもはっきりと笑った。
裏切られたのは、切り捨てられたのは俺の方だとばかり思っていたのだが。

「あんた、ナニ笑ってんの」

思わずそう問い掛けると、三蔵は薄く唇を開き、「別に」と告げた。


アンタにとって、俺は必要な存在なのだと、思っていても良いのだろうか。

RELOADで4人が再会するより前に書き始めて再開した後(RELOAD終了前)修正して放置していたもの。
再会するより前にアップしちゃうと後で辻褄合わせが大変なので寝かしておいた所、 4人が再会した時はリリカル妄想が入り込む余地がない雰囲気で逆にアップ出来ませんでした。
連載中の作品パロって難しい。後付でどんどん設定が増えていく少年マンガとかで二次創作してる人達は凄い度胸だ。

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