ever since
ある処に背の高い若い男がおりました。
その男は人当たりも良く、少し鼻にかかった甘い声をしていましたが、
その男を一目見た者が彼の事を思い出そうとした時に真っ先に思い浮かべるのは何と言っても華やかな赤い色をした髪の毛でした。
赤い髪の男の周りには何をしないでもいつも年下から年上まで綺麗な女の人達がぐるりと取り巻いておりました。
ある日のことです。
赤い髪の男は白い衣を着た若い男の人と一緒にとある店に入りました。
「久し振りね、悟浄」
と取り巻いた女の人達を軽くあしらってから、
赤い髪の男は少し離れた席に腰を降ろした白い衣を着た人の処へと歩いて行きました。
「どう?俺様モテるんでびっくりした?」
赤い髪の男は椅子に斜めに腰を降ろしながら訊ねました。
「あんたそんな綺麗な髪してるんだからこんな辛気くさい格好じゃなくてフツーの服で来りゃモテるだろうに」
「そうか」
と白い衣の人は言いました。
白い衣の人はお日様の光のような明るい金色の髪をしていたのです。
「な、知ってるだろ?この髪。どうしてこんな色してるか。あんたのその髪もワケありなのかもな」
一頃は短く切った、
今はまた肩先を揺れる長さにまで伸びた赤い艶やかな髪が白い衣の人の目の前を揺れるように赤い髪の男が身を乗り出して言いました。
白い衣の人は
「そうか」
とだけ言いました。
ある日の事です。
赤い髪の男がお寺にやって来ました。
白い衣の人はお寺に住んでいるのです。
「いや、もータイヘンだわ。「お待ち下さい」つって待たせられてこの侭会わせてもらえないかと思った。
俺の知ってるのでお取り次ぎが必要なヤツなんて裏街のボスくらいだし」
赤い髪の男が話し掛けても白い衣の人は手にした書面から顔を上げません。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
声と共に扉が叩かれ小坊主が二人分のお茶を運んで来ました。
机に置かれたお盆の上にはお茶の他に美味しそうなお茶菓子が載せられておりました。
「アンタ、大切にされてんのな。喰うもんにも住むトコにも困った事なんかないんだろ?
俺なんかガキの頃から家を出て下町渡り歩いてたからメシ喰えないことなんてしょっちゅうだったし、
寝床欲しさにこーんな樽みたいな体型の年増と寝た事もあってさ」
身振り手振りで赤い髪の男が話すのに白い衣の人はお茶に手を伸ばしながら
「そうか」
とだけ言いました。
またある日の事です。
赤い髪の男がお寺にやって来ました。
「ホラ、これあんたに土産」
そう言って赤い髪の男はポケットからごろごろと林檎を3つ取り出しました。
「こないだ言っただろ?ガキの頃から街をふらふら渡り歩いてたって。
金が無い時はこうやってさ、店先から喰いもんかっぱらって来てたワケよ」
赤い髪の男は自分で机に置いた林檎の一つに手を伸ばし皮も剥かずにかぶりつきました。
「ま、あんたには無理だろうな。あんた不器用そうだし」
白い衣の人は綺麗な赤い林檎に視線をくれる事もなく
「そうか」
とだけ言いました。
その日、残りの林檎は白い衣の人のペットの小猿が発見するまで机の片隅に手も触れられる事無く置き去られた侭でした。
またある日の事です。
赤い髪の男がお寺にやって来ました。
「ホラ、コレ」
赤い髪の男がジャケットのポケットから取り出したのは赤いパッケージの一箱の煙草でした。
白い衣の人がその赤い箱の煙草が好きなことを、赤い髪の男は知っていました。
喜んでくれると思ったのに、白い衣の人はちらと赤い髪の男を見るとすぐに視線を手元の書面に戻してしまいました。
「あんたコレ吸うだろ?」
差し出した掌の上の煙草を白い衣の人が受け取ってくれないので、赤い髪の男は机の上に煙草を載せました。
「コレは盗んで来たんじゃないぜ。自分の金で買ったの」
「そうか」
そう言うと白い衣の人は顔を上げました。
それから赤い箱に手を伸ばして丁寧に包装を剥いて煙草を一本取り出しました。
白い衣の人がマッチを取り出すより早く、赤い髪の男はライターに火を灯して差し出しました。
東○トのネット通販で買った暴君○バネロのシリアルナンバー入りの大切なジッポでしたが、良いんです。
だって赤い髪の男は白い衣の人が大好きになっていたんですから。