微笑む君
冬枯れた木立の中をジープで進むうち、朝方からどんよりとした雲模様だった空がとうとう泣き出した。
「しょうがないですねえ。悟浄、荷物の中から毛布を出して下さい」
「って良いのかよ、毛布濡らしちまって」
「ええ、もうじき町に着く筈ですから。この寒い中雨に打たれて我慢するよりはマシです」
「わーった。オラ」
取り出した毛布を順番に仲間に手渡してやる。三蔵はと言うと、雨が不快なのか、体調でも悪いのか、 それとも眠いだけなのか見ているだけでは分からない、 つまりいつもの無表情でちらりとこちらを振り返り毛布を受け取るが早いか直ぐ様ソイツを頭っから引っ被った。
冬空の下、雨に打たれてるのに御機嫌なんてヤツはいないだろう。 勿論俺達もご多分に漏れず、八戒の言う「もうじき」とはどれ位なんだろう、本当にすぐ近くだと有り難いと、 祈るような気持ちで黙り込んでいた。
普段の行いの賜物か、それとも珍しくも天に祈ったりしたのが良くなかったのか。
「なあ、八戒、あとどんくらい?俺もう腹減って」
「もうすぐですよ」
ジープの上の沈黙を破る盛大な腹の鳴る音と悟空の台詞に、苦笑まじりで八戒が答えた時だった。
「ハハハハハ!見付けたぞ三蔵一行!!」
「もしかして笑いながら登場すんのって流行ってたりする?」
「・・・さあ」
良い加減聞き飽きた、定番の台詞と共に敵さんが登場した。この寒い中ご苦労な事だと思う気持ちと、 めんどくせーなーと思う気持ちでは、正直後者の方が強かった。
早く暖かい宿に辿り着いて暖かい飯を喰って体ン中からあったまりたかったし。
「オラ、あいつら退かさねえとメシにありつけねえぞ」
ジープから降り様そう言うと、毛布をばっと払い退けて悟空は飛び出して行った。
「あーもー!さみぃっ!腹減ったっ!!」
「ギャアアッ!」
「あったけースープ!」
「ふぐぉっ!」
「アツアツの小龍包!」
「ガハッ!」
「ワンツーバンジー!」
「ひでぶっ!」
いや、そりゃ喰いもんじゃねえだろ。
あんな掛け声と共にぶっ殺されていく敵さんを多少哀れだとは思ったが、腹の減ってる悟空の邪魔をしたのが運の尽きだ。




そんな訳で若干道草は食ったものの、どうにか町に着き早々に宿を探した。
幸いな事に暖房の整った宿で、室内に適当に干しておいた雨に濡れた毛布も明日には乾きそうだ。
つうかこの雨、明日上がんのかよ。
んー?と窓の外を見ようと頸を巡らしてみれば、 折角一緒の部屋に泊まっていると言うのに三蔵がもぞもぞと毛布を(これは宿の備品の方だ) を引き上げて寝る体勢に入るものだから慌てて引き留めた。
「ちょ、もう寝んのかよ!」
「見りゃ分かるだろ」
「まだ早い時間だろ」
「俺は眠いんだ」
「だからこんな時間に寝るなっつうの!爺いかてめえは!」
「ぎゃあぎゃあ煩え。明日寝坊したら捨てて行く」
俺との会話を続ける気はないとばかりに三蔵が勢い良く肩まで毛布を引っ被る。
何というか俺達は、ハタから見れば寄ると触ると喧嘩ばかりしてる気の合わない同士だし、 まあ実際俺も三蔵も自分の抱えてる根本と言うか根っこの処を人前に曝す事を良しとしないタチだし、 周りの人間にこう見られていたいと言うかこんな風に見せときゃ良いっしょ、と思ってる部分 (三蔵に到っては周りの評価なんぞ何処吹く風と言った態度だが)を付き合わせてみればソリの合わない同士である事に違いはない。
だがそう言った表面的な事柄だけが俺達の間に在る全てではなく、 また目で分かる事柄、三蔵の見てくれの良い外見だけが俺を惹き付けた訳でもなかった。
はっきりと言葉にして確かめた事はないが三蔵も、色男でモテモテな俺の上っ面だけを気に入ってる訳ではない、と思う。
つまり喧嘩友達と言うのは世を忍ぶ仮の姿であって、俺達は相思相愛の筈、なのだ。
それなのに三蔵のこの、人前と変わらぬ素っ気ないまでの態度はどういう事だろうと、時折俺は思う。
ツンデレ、と言う単語があるが三蔵には「デレ」の部分がない。「ツンツン」だ。 それにしたって人前と二人きりとの時で態度の異なる人間の事を殊更に言い表す言葉があると言う事は、 人前とそうでない時のギャップが激しい人間は案外多いのかも知れない、 だったら三蔵がそのうちの一人であっても良さそうなものなのに。
もうちょっと、俺といる時は二人きりである事を意識して甘えた所を見せてくれても良いだろうに。
だが、デレデレした三蔵ってのはどんなもんなのかと煙草を取り出しながら想像してもみる。
「・・・・・・」
いや、止めた。
何だか非常に気持ち悪い映像が一瞬脳裏を過ぎった気もするが全部気のせいだ。

俺は、決して三蔵のデレデレした姿なんか想像しては

打ち消そうとすればする程、気色の悪いものが勝手に頭ン中を・・・。
「うっぎゃあああああ!!」
「うるせえ、クソ河童があああっ!!」

ガウン、ガウン、ガウン!!

微笑んでないし。

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