空を見上げる
会いてえな、とふと思う。
西域への旅から戻り、あのボロ家へと帰って来て部屋の片付けをしてるような瞬間に。


毎日毎日飽きる事なく顔を突き合わせてたんだ、清々する、と思って良い筈なのに。
清々する、とは思ってないらしい悟空は時折顔を出すが飼い主の方はちっとも顔を出しやがらねえ。
もしかして三蔵は本当に俺の顔を見ないでいる数日、数週間、数ヶ月をなんとも思わないんじゃないだろうか。 そんな事を疑ってしまう、まだ旅から帰って一月と経っていないのに。
忌々しい程に片付けがちっとも捗らねえ。
この家に溜め込んだガラクタを買い込んだのは当の俺であると言うのに捗らない片付けに腹が立つ。
三蔵には内緒で今の家を引き払って寺にもっと近い場所、長安城内に二人で住む為の家を借りて驚かせてやろうと思ってたのに。 不要品は捨てて、不要品の中でも幾ばくかの金になりそうなものは知らないうちに、 旅に出てた間に出来てたリサイクルショップに売っ払って生活費の足しにして、なんて思ってるのに。
あのでこっぱちが何気に気に入ってた俺にはキモイだけの雑貨とか、 俺がこの家から離れたらあのでこっぱちがふらっと戻って来た時どうすんだ、とか。 置き手紙っつうのもキモいし引越の知らせをしようにもそもそもアイツの方こそ住所不定だし、とか。
何より何処で貰って来たのか何時貰ったのかも覚えてないどうでも良い食器一つにしても、 新しい家に住んだら新しい物を買い直せば良いと思っているのに、そのグラスで三蔵が酒を飲んだとか、 その食器で悟空が飯を喰って喜んでたとか、そーゆー事をいちいち思い出してしまい捨てられない。 自分でも驚く程の未練たらしさだ。


こんな時三蔵が傍にいたら何て言うだろうか。
そんなモン捨てて新しいのを買えば良いだろうが、と言うだろうか。
それとも案外締まり屋で使えるモンなら持ってきゃ良いだろうが、と言うだろうか。


放ったらかしにしてる間にすっかり黒ずんでしまったシルバーアクセは磨き上げるのも面倒だからこの際捨てちまえと思いはするが分別だって面倒くせえ。
「ふー・・・」
一向に進まない片付けの手を止めて、冷蔵庫の中から缶ビールを取り出す。
一人で片付けるのは諦めて矢張り八戒に手伝って貰った方が良さそうだ。
ビールを片手に、本棚に突っ込みっ放しにしていた、当時は勿体なくて捨てられねえと思っていた、 今となってはもう読み返す事もなさそうな雑誌を取り出し積み上げる。 なんだってこんな雑誌取っておいたんだ、と旅に出る前の自分に問う。 命の保証のない旅だ、と告げられ、戻って来られなかった時の為にざっと片付けた筈の家の中からこれでもかとばかりに大量に出て来るゴミ達。
「なんだかんだ言って戻って来る気満々だったのね、オレ」
そうでもなきゃこんなに不要品が出て来る筈がない。
戻って来て、どうするつもりだったんだろう。
以前のように夜の町に出て行き、毎晩酒を飲んで女を取っ替え引っ替えして、それから?
誰の事も好きにならず、本気で惚れられた時には厄介だな、なんてひでえ事思って距離を置いて、それで?
心の奥底で三蔵の事をいつも意識しながら本当の気持ちに蓋をして、 自分の気持ちに気付かない振りした侭くだらなく生きていくつもりだったんだろうか。
そもそも旅に出る前は自分の気持ちが三蔵に向いている事にも気付いていなかった。 旅に出なければ自分の気持ちに気付く事もなかったのではないか。 旅に出なければ自分の気持ちを抑え付ける事が出来なくなる事もなかったのではないか。
「・・・分かんねえよな、そんなコト」
分からない侭に、会いてえな、とふと思う。
もしかしたら旅に出なくとも早晩自分の気持ちに気付いたのかも知れない。 もしかしたら旅に出なくとも三蔵に想いを告げていたのかも知れない。 もしかしたら旅に出なくとも想いが通じたのかも知れない。
旅に出る前もこんな風に、ふとアイツの顔を見たくなる事があった、なんて事を思い出しながら。
床に座り込み壁に背を預け、窓を見上げて煙草を銜えて、青い空に向かって会いたい、と強く思う。


この時きっとごじょりんは空き缶を灰皿代わりにしちゃってると思います。

novel