SummerSuspicion
○月×日
「なあ、しゅーえーって人はさ、人の酒飲むばっかりじゃなく他に何か出来る事はないの」
食後に喰おうと思って買って来た苺を洗ってヘタを取りながら尋ねる。
「てめえの夢枕に立つくらいの事は出来んじゃねえか。ん?・・・出来るそうだ」
「そうじゃなくってっ!酒が飲めるしグラスも持てるんだから何か他に出来る事があるんじゃねえのっ!?」
「ムリだな。こいつは風呂掃除もゴミ出しも出来やしねえよ」
三蔵が即答する。
「言っちまえばタダの居候だ」
うっわー・・・。
ヒドイ。仮にも古くからの知り合いだろうが。
「ま、てめえも似たようなもんだがな」
「うわ、ひでえっ!ちょっと綺麗好きだからって良い気になるなよっ!」
○月×日
「かんぱーい」
夕飯時のささやかな晩酌。
買ってきた酒をテーブルに乗せグラスを二つ並べてから封を開ける。お揃いだが別に「えへへ。新婚さんだからお揃いにしようね」
などとこっぱずかしい事を言って店で買った訳ではなく酒屋のオマケのグラス(二個セット)だ。
「・・・・・・。」
ことりと音を立てて無言で三蔵がもう一つのグラスをテーブルに置く。
「・・・ナニこれ」
「そこの、(と言って三蔵は顎をしゃくった)居候の分だ」
そう、この家には目に見えない居候がいるのだ。三蔵の昔馴染みだと言うその人は、何故か未だに成仏せずに三蔵につきまとっていた。
「へ、へー・・・そう・・・んじゃ改めてかんぱーい・・・・・・」
一応そう言ってグラスを掲げると、3個目のグラスが宙に浮き上がり、傾いた。
然し中身は床に零れる事無くいずこともなく消えて行く。
・・・三蔵と一緒にいるにはこれっくらいの事慣れねえといけないんだろうけど・・・やっぱり怖えよう・・・(泣)。
○月×日
「あ、9時だ」
プツ・・・ッ(←テレビを点けた音)
『苦しくったって〜悲しくったって〜』
プツ・・・ッ
『ニュースをお伝えします』
「あっ、何でチャンネル変えちゃうの」
プツ・・・ッ
『ワンツー、ワンツー、アタック〜ワンツー、ワンツー、アタック〜』
プツ・・・ッ
『・・・の件について公正取引委員会は・・・』
「イタズラすんなよ三蔵・・・え?あれ?」
リモコンは俺の手が届く処にある。俺以外誰も触っていない筈だ。
大体、割と早い時間に風呂に入りたがる三蔵は今、風呂の支度をしている筈だし、現に風呂場から水音も聞こえて来ている。
「・・・・・・。」
・・・もしかして故障している・・・とか。
うん、そう、きっとそうだ。
そろそろ古くなってきたしな。
早く液晶型に変えてえな。
そう、断じてこれは目に見えない居候のイヤがらせなどでは無い筈だ。きっと(涙)
○月×日
三蔵は夕飯時になるとテーブルの上に3つ目のグラスを出す。
三蔵と俺のコップに注がれるのは麦酒だが第三のグラスに注がれるのはオレ達は滅多に飲む事のない焼酎だ。
三蔵が冷凍庫からがらがらと氷を取り出し無造作に3つ4つ透明な塊を浮かべグラス
がきんきんに冷えた頃徐にグラスが誰もいない宙へと浮き上がりグラスが傾くにつれ中身が減って行く。
その光景を見ても三蔵は平然とした表情をしているが。
もしかして、と時折俺は思う。
あの人が未だ成仏しないでいるのは三蔵がちゃんと幸せでいるかが気になっているからではないか、と。
幸せって何だよ随分曖昧で漠然とした事考えるじゃねえかと思考と同時並行でツッコミを入れながら俺はグラスを口に運ぶ。
普通人は死んだら魂だか霊体だかになって生きてる人間には見えなくなるものだ。
だからと言って死んだ奴らの全てが成仏しないでふらふらしていないのは見えない人間の方が多いから、
と言う理由で諦めて成仏するからではないだろう、そうじゃなかったら大変だ。
あの人は三蔵の事が大切なんだろうな、
と時折飲まれている買い置きの酒や寝ようと思って部屋に行った時北枕にされていたりとか、
本当は三蔵の仕業じゃないかと疑いながらも俺は次第に見えない居候の事を受け入れ始めていた。
絶対幸せにする、なんて自信を持って言い切る事は出来ないが、
三蔵の事は幸せにしてやりたいと思ってるよ、と言葉はビールと一緒に呑み込んだ。
○月×日
「江流は何でも一人で抱え込み過ぎる」
ちびちびと焼酎を舐めながら傍らで朱泱がぽつりと言う。
河童とくだらない言い合いになった後ヤツの部屋を出て酒瓶を抱えて部屋に籠もっていた。
「ガキの頃から兄弟子達に因縁つけられた時だって光明様に言いつけたり泣きついたりする事もしねえで」
カーテンを開けていても方角的に月の見える事もない夜空。
「何でもないなんて言い張っても生傷絶えねえの見てりゃあこっちだって心配するってのにお前ときたらむすっと口を引き結んでさ」
風のない夜、窓を開けても熱気が室内から逃げて行かない中、焼酎のグラスの氷が溶けてからんと立てる高い音が涼しげに響く。
何でも一人で抱え込むのはどっちだ、と思う。
愉快そうににやにや笑いながら人の昔話を酒の肴にしているが。
呪符に取り込まれ、10年もの間妖怪を殺し続け、狂気に満ちた瞳をして、
それでも最後の処で自分を保っていた過去がこんな風に穏やかに笑える程に容易いものであった筈がないのに。
文句も言わず○かいち(←安い)を飲む姿を横目で眺め、明日はもう少し高い酒でも買って来てやろうと思った。
○月×日
『お前は知らないかもしれんが光明様はあれで結構厳しかったぞ』
「・・・まあな」
良く冷えた日本酒を、底に歪な丸い形に金箔の敷いてあるガラスのぐい呑みに流し込む。
『風流だな』
月に向かって朱泱がぐい呑みを捧げるように持ち上げる。
「西へ向かっていた頃八戒がな、顔に傷を作るとやかましかったんだ。
「三蔵っ!顔に傷がっ!」って。お師匠様はあんまり怪我にはうるさくなかったら実は「うるせえな」って思ってた」
『あー、あの眼鏡の・・・』
「そう、ソイツだ」
『でも何時だったかな、光明様が・・・。
お前がハチに追い掛けられて「はちー、はちー」って泣いてた時半泣きになって庭に飛び出して・・・』
「・・・覚えてねえ・・・」
『そりゃまだ小さい頃だったからな』
「寺にいた間の事は大体覚えてたつもりだったんだが」
『ガキの頃は神童って呼ばれてたからな』
「ハタチ過ぎりゃタダの人だ」
『自分で言うなよオイ』
「・・・人の部屋で俺無視してほのぼのすんなよ」
web拍手お礼文より再録。2005年頃?ごじょりんが途中で見てるTV番組は「アタックNO.1(実写)」。
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