sweetish
全身で甘えさせてくれと訴えて来る。 本人は割とクールなつもりでいるが実際の処悟浄は結構な甘え上手だ。 「ね?」と強請る時まるで主導権が相手にあるかのように見せかけその実逃げ道を塞ぐ狡いやり方が上手い。

三蔵は煙草を銜えながら感情の籠もっていない瞳で眺める。 自分の欲求を恥ずかしいと思う事なく相手に強要する悟浄の姿を。

三蔵は他人に甘えた事が無い。
三蔵は他人に甘えた事の無い子供だった。

それは自分がお師匠様なり朱泱なりに甘やかされて育ったからであろうと三蔵は思っている。 自分の武器──容姿であるとか頭脳であるとか甘い声であるとか人によって様々であるそれを駆使しなくとも喰うものも寝る所も何不自由なく与えられ何者になるかも分からない程小さな子供であった時分から読み書きすら自分の懐を痛める事さえ無く施された。 何処の馬の骨とも知れぬ自分に過分に与えられたそれを申し訳なく思う事こそ在りはすれこの上何かを望む必要など在る筈も無かった。 言葉少なに小さく俯いて何も要らないと告げるのに、そう言われれば言われる程に躍起になって光明三蔵法師は幼い江流にあれこれと与えた。 土産の菓子だとか見知らぬ土地の土産話だとか──そして愛情だとか。 求めずとも与えられるそれを当たり前と受け止める事をせず必死に辞去するうちに江流は何時しか自ら甘える事が出来ないようになっていた。
欲しいものは欲しいのだと言う事の出来なくなった三蔵に、 望んで与えられなかったものを待つ事を止めて自らの手で掴み取ろうと決意した悟浄が手練手管を駆使して 「欲しい」と告げれば抗う術は、三蔵には無かった。



悟浄は髪の長い女が好きだ。そしてメリハリのある体型の女が好きだ。
「酒でも飲みに行かね?」 と自分を酒場に誘い出したクセに少し離れたポーカーのテーブルでカードを捌きながら栗色の髪の女と何やら笑いながら話し込んでいる姿を三蔵はカウンターから見るとはなしに見る。 悟浄の背後に立って上体を寄せる女の長い髪が悟浄のそれに混じり合うように触れている。 今日はこの侭悟浄はあの女と二人で酒場を出て数時間の後こっそり宿に戻って来るのかも知れない。 それならそれで構わないと三蔵は思う。 視線を降ろして確認などしなくとも自分の身体が悟浄の肩に手を回している女のような柔らかみなど持ち合わせていない事は分かっている。 望まれなければ自ら与えてやる必要は無い。欲しいモノがあれば悟浄は自らそれを掴み取る事が出来る。 もう、無力な子供ではないのだから。
大して美味くもなかった酒を溶けた氷の大元である水の質の良さが誤魔化してくれていると言う本末転倒な空になったグラスをキリが良いと思い席を立とうとした所でポーカーに興じている一団から歓声が上がり三蔵がそちらに視線を向ければ得意気な顔で悟浄が振り返った。
「じゃあ俺達の分は奢りっつう事で」
掌をひらと振りそう言いながら肩に掛かっていた女の腕をさりげなく解いて悟浄は三蔵の所へと歩き出す。 薄暗い明かりが染み付いた壁の汚れをも目立たなくさせてくれると信じているかの如く足下だけを間接照明が明るく照らす店の中迷う事の無い足取りで。
「じゃ、帰ろっか」
自分の腕を振り解いた悟浄の姿を信じられないものを見るかのように振り返る女の姿が三蔵からは見えた。
「おい」
「ナニ?」
あの女の事は良いのか、そう問うつもりで発した言葉に悟浄は無邪気な顔で訊ね返す。





酒場から戻り足音を立てないよう宿屋の廊下を歩き二人部屋に戻ると扉を閉めるなり悟浄は三蔵に口付ける。 行為に馴れない三蔵にいつもは馴れない野良猫を手なづけるかのような慎重さで事を運ぶ悟浄の性急さに三蔵は戸惑う。 然し先程迄悟浄にぴたりと身を寄せていた女のものである甘い香水の残り香が不快に鼻先を掠めても止めろとは言わない。
欲しい、と。
言葉に出して言われなくとも逃げられないよう顎を掴んで持ち上げさせる手から、触れる唇から、 繋がった舌先から悟浄の熱は三蔵には伝わった。
しつこい程に口内を舌で侵す長く続く口付けから漸く解放されて荒く息を吐きながら三蔵が顔を上げると熱の籠もった赤い瞳が目の前に在った。 親指で唇の端から零れる唾液を乱暴に拭い去りながら薄く唇を開いて三蔵はその瞳から視線を逸らさない。
「ねえ、三蔵」
視線の先、三蔵に抗う術は無いと知らない悟浄が薄い唇を言葉を紡ぎながら開く。

不器用だ不器用過ぎる三蔵・・・!(自分で書いておいて)

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