くちびるに触れるものは
「な・・・ココ、良い?」
そう言いながら腰を動かす俺の言葉に三蔵は答えない。
きつく目を閉じて、きつく唇を噛み締めて悲鳴だか喘ぎだかを全て呑み込んで必死に細い息を吐き出す。
「俺に抱かれるの、イヤ?」
「・・・・・・っ」
問い掛けながらベッドをきしませ激しく凶器を三蔵の中に突き立てる。返答したくともまともな言葉など吐き出せない位の勢いで。
そんな事をしなくても性行為に不慣れな三蔵は体内に侵入する異物と、 或いは理性を押し流さんばかりの快楽とに向き合う事に精一杯で最中にお喋りなんか出来る筈もないのだが。
意地悪な事を言っているとは思う。本当は答えなんかいちいち聞く必要もないのに。 幾ら腕力差や体力差があったって、本当に三蔵がイヤなら大声で罵声を浴びせかけ、 部屋なんかしっちゃかめっちゃかになる位抗うに決まっている。 無理強いをしている訳ではない、と思う。 いい大人同士がこうして二人きりの部屋で幾度も口付けて、 素肌を晒け出そうと伸ばした腕に「いい、自分で脱ぐ」と顔を赤らめて腕を突っ張って身体を離し、 乱暴に衣服を脱ぎ去って床下に投げ捨てた侭裸でベッドに乗り上げているのだ、勿論合意の上で、 互いにキモチヨクなる心積もりで行為に至ったと、 誰しもが判断するだろう。俺だけじゃなく、あんただって、期待するものがあった筈だと。
「・・・目、開けて」
告げて、動きをゆったりしたものにすると頚を仰け反らせた体勢の侭三蔵が薄く目を開き、大きく息を吐く。額に汗が浮かんでいる。
「手は、こうしてな」
シーツの上を頼りなげに彷徨う三蔵の手を取って俺の肩に導いてやると、掴まる指先に素直に力を込めるくせに。
信じていたい、三蔵の気持ちを。
信じられない、三蔵の気持ちが。
こんな、誰にも必要とされていない半妖に三蔵のような尊い身分の人間がその身体を預ける筈がない。 例えば、時々自虐的になる事のある三蔵は清廉なその身を汚らわしい半妖に犯させる事で敢えて自分を貶めているのではないか、とか。
身分の事を抜きにしたって三蔵のルックスだったら、ヤらせろ、 或いは抱けと言えば金を貰わなくたって喜んで身を差し出す男女が数え切れない程いる筈なのに、 三蔵がその身を任せているのはよりによって人間でもなければ妖怪でもない半端な身の上の俺なのだ。
恋人同士の睦み合う時間、に。
快楽に流される事を拒む三蔵と、快楽だけを信じる事の出来ない俺は案外お似合いなのではないだろうか。
そんな事告げてみたところで肯定などしてくれる筈のない恋人の唇を、俺は自分のそれで塞ごうとする。
「・・・キスする時は、目、閉じて」


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