あたたかな、ひややかな
ふわり、と時々頭に触れてくれるのが好きだった。 三蔵は人に触られるのも人に触れるのも好きじゃないから本当に、滅多にない事なんだけど。
俺を岩牢から出してくれた三蔵の後を附いて行って、太陽みたいにキレーな三蔵の側に、寺にいてもいいって言ってもらって初めての冬。 どうした訳だか俺は風邪をひいて熱を出した。あの山ん中で岩牢に閉じ込められていた時は、 今と違って夏も冬も変わらず一年中同じ服を着ていたし、暖房なんてものも勿論なくて、 雪が降れば手足が痛い程に冷たくなったけれどもそれでも俺は風邪なんかひいた事はなかったのに。
本当に、どうしてだか今となっても分からないんだけど。



あの岩牢の中と違ってあたたかい布団もあるし、いつもより多目に用意してもらった毛布だってあるのに震える程寒くて、 でも顔は火照る程に熱くて眩暈もして。もしかして俺はこの侭死んじゃうんじゃないかと思って怖くなった。 熱で朦朧としている中、三蔵が一度様子を見に来てくれたのは知っていた。 けど夢うつつでぼんやりしているうちに三蔵は部屋を出てってしまったみたいだった。 目が覚めて、俺は三蔵がそこにいない事に気が付いて泣き出した。 普段から何の役にも立たない俺が、 役に立たないだけじゃなくて迷惑までかけたせいで三蔵は俺を嫌いになって、 俺を置いてどっかに行ってしまったんじゃないかと思ったらどうしようもなく悲しくなった。 大声を出してびーびー言うような泣き方なんかじゃなく、布団を頭から引っ被って丸くなって「さんぞう、さんぞう」 って声に出さず呼びながら一人で泣いた。
「どうした」
突然声を掛けられて俺はびっくりして布団から顔を出した。何時の間にか三蔵が俺のすぐ隣に立っていた。
「さんぞう・・・」
戻ってきてくれたんだ、とか、俺の事置いてったんじゃなかったんだ、とか色々言いたかったはずだけど、 慌てて涙を手でぬぐいながら名前だけ呼んだ。今度は声に出して。 三蔵は、涙なんか流してみっともねえとは言わないでいてくれたけど何となく恥ずかしかった。
「てめえがしつこく呼ぶからうるさくて仕事になりゃしねえ」
三蔵は面倒くさそうに、俺を岩牢から出してくれた時のような台詞を言った。 どうしてだか分からないけど、俺の呼ぶ声が三蔵には聞こえるんだって。
それから三蔵はゆっくりと俺の前髪を掻き上げて額に触れた。
「まだ熱が下がらないな」
別におかしな意味じゃなくっても、くっつこうとするといつもは拳骨で俺の頭を殴る三蔵の手が。
「三蔵の手、冷たくて気持ちいい・・・」
「そりゃ冬だからな」
どうでも良さそうに、でも三蔵は一度引っ込めかけた手をその侭俺の額に押し当てる。 ひんやりとしたその感触が気持ちよくて、ほんの少しだけど苦しかったのも、がたがた震える程寒かったのも収まる。
「三蔵・・・」
「何だ」
「俺、死んじゃうのかな」
「風邪をひいたくらいで大袈裟なヤツだな」
呆れたように言われたけど三蔵はその手を放さないでいてくれた。
「だってこんなに頭が熱くて・・・」
「そーゆーもんなんだよ。氷嚢を用意してやる」
「ひょうのう?」
「氷枕だ。そんな事も知らねえのか」
こっちが弱っている時でも三蔵はすかさず人を小馬鹿にしたがる。 本当は、ひょうのうなんかじゃなく三蔵の手がずっと俺のアタマを冷やしていてくれたらきっとすぐ良くなると思ったけど、 悔しいのでそれは言わないでおいた。



三蔵が俺の頭から手を放して寺の坊主を呼びに行くと、さっきよりも熱が上がった気がした。すごく寒くて苦しくて、 三蔵は「たかが風邪」と言ったけど、三蔵のいない間に俺はやっぱり死んじゃうんじゃないかと思った。
少ししてから戻って来た三蔵は、もう額に手を当ててくれる事もなくて、 でもその頃には俺もまた目を開けていられなくなってうつらうつらしていた。
寝ていると声をかけられて頭の下に何かを押し込まれた。頭を動かすとからんと高い音が鳴って面白かった。 これが「ひょうのう」というものだとその時初めて知った。耳のすぐ近くで氷の鳴る音が聞こえて、 それにひょうのうは、すっげー冷たくて気持ちよかった。
だから俺はその時三蔵の手が気持ちよかった事をすっかり忘れてしまった。



それから暫くして、三蔵は俺を殴る時は拳骨じゃなくてハリセンを使うようになったから、 三蔵が俺の頭に触ってくれるのなんて一緒に風呂に入った時とか、ドライヤーで髪を乾かしてくれる時以外滅多になくなった。 それも、俺が大きくなって一人で風呂に入れるようになるまでの間だけだったし。
だけど、今でも時々優しく俺の額に触れてくれた三蔵の手のひらの感触を思い出す。
たまに、本当にたまにで良いんだ。
またああやって俺に触ってくれたら良いのにと思うんだ。

これっておかしい事かな?

「あたたかな」だったら対は「つめたかな」の方が音が綺麗ですがそんな日本語ないので!!

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