worldsend.
愛されて育った子と言うのはえてして同じ空気を纏っている。
どんなに自分一人で立っているように見えても、本人もそのつもりでいても、 最後の最後には逃げ出した時に暖かく腕を広げて受け入れてくれる何かが、 誰かがその人の後ろには待ち構えているから常に自信たっぷりでそれでいて安心しきった何処かユルい雰囲気がある。
辛い事があったらここへ戻って来いと、愛され慈しまれ逃げ場を用意されて育った人間特有の暖かい雰囲気。
彼女達は無償にして至上の最強最悪の愛を知っている。
自分で信じられない事は信じなくても良いのだと、都合の良いうつくしい夢だけ、信じたい事だけを信じていれば良いのだと、 お前は愛されているのだからと無条件かつ頑強にバックアップされて育ったコ達の暴力にも似た甘い優しさは時として毛布のように暖かく、 時として掃き捨てたい程にウザイ。





社内の女の子に手を出すのはもう止めようかな、と思った。
自販機のコーヒーを買おうとして間違えて隣の「牛乳屋さんの珈琲牛乳」のボタンを押してしまい仕方なく飲みたくもなかった珈琲牛乳を紙コップで飲みながら。
実の母はアイジンで早くに亡くなって父の元に引き取られた、 とだけ聞けば想像力の逞しいヤツならその後「幸せに暮らしました」とは続かない、いや続く筈が無いと思い込んだって仕方のない事だと思う。 自分で言った覚えのない家庭環境の事まで何で知ってンのよ、と思ったのは置いておくにしても。
滅多に実家に帰らないのは俺とさして歳の変わらない新しいオカアサンがいるからよね、ってだから何でそんな事知ってんの。
オンナノコ達のネットワークと言うものは侮れない。 付き合ってたコにしか話したつもりじゃなかった事も何時の間にか公の共有データになっていそうでマジ勘弁っつうカンジ。



「悟浄は本当の愛を知らない」とか「悟浄は本当は愛を求めている」とか、 一時期流行ったプロファイリングものの映画だかドラマだかの見過ぎだっつうの、と言いたくなる程にオンナノコ達は各々好き放題な事を言う。
愛なら何時でも募集中ですよホントウかどうかはともかくね?
例えばオンナノコ達が差し出したものがカノジョ達にとってはとびきりの宝物(のつもり)だったりしたのを俺が「何コレ?生ゴミ?」 とでも言ったかの如く。 俺が彼女達の差し出した筈のものをそれと見極められず理解出来ず頚を傾げているのにオンナノコ達は勝手に自分達だけが納得出来る理由を見付け出してきてはその理由に俺を固めようとする。
曰く、
「悟浄はホントウの愛を知らないから分からないだけなのよ」
「可哀相な人ね」
「でもこれからは私がずっと一緒にいてあげる」
などなど。 そして最後にはカノジョ達の「愛」で以てしても俺が変わらないのに、彼女たちの理解出来る形に「変身」を遂げない俺に業を煮やして
「アナタには愛するって事が分からないのね」
と言って勝手に離れて行く。

「私の言ってる事は正しい、だから理解出来ないのはアナタが悪いからなのだ」

あんまりにも自信満々に自己を肯定し代わりに俺を完膚無きまでに否定するコ達を見て毎回すげえなあ、と思う。 自分の理解の及ぶ範囲だけで世界を理解しようとし、理解出来なかったら相手を否定すれば良い。 臆病なリスのような屁理屈はだが然しそれを掲げる人間の多さから鑑みればそれは正論としてまかり通っているのだろう。
向こうはこっちを理解出来なくとも俺には彼女達の屁理屈の筋道から彼女達がその台詞を吐く過程まで見えてしまう。 だって世にはあまりにも自分以外の人間を傷付ける為の正論が溢れかえっている。取り立てて目新しくも有難くもない正論が。
彼女達なら相手が俺じゃなくたって田圃に突っ立ってる案山子相手だって一人でストーリー作り上げて一人で恋愛ごっこが出来るに違いない。 だったら何も俺に声を掛けられたから付き合い出した、なんて格好取らずに本当に案山子でも連れて歩いてりゃ良いのに。
そりゃ正論は耳に心地良いし正論を吐けば言った当人はそれが正論であるが故に世論を味方に付けたような心持ちで気分も良いだろうけど、 正論に傷付くのはこっちが悪いからだと直球ストレートばかりを投げ付けられて素手で剛速球受けるこっちの手が痛いなんて事がある訳ないと、 どうしてそんな事ばかり言うんだろう。
正論が正論として通用するのは共通したバックグラウンドを持っている人間の間だけでしか無い。 ちゃっかり自分の片手にはキャッチャーミットを嵌めて素手の人間にボールを投げ付けるように正論を吐く人間は想像力が欠如してんじゃないのかな、 なんて鼻白むこっちの気持ちなんか考えてみた事もないんだろうなと思いながら甘ったるい珈琲牛乳を一息に飲み干して空のコップをゴミ箱に放り投げる。 綺麗な軌跡を描いてゴミ箱にぼとりと落ちる罪も無いのに握り潰された笑顔の牛のイラスト付きの紙コップに気分を良くする事で心の中だけで暴言を吐いてみた処で思ったより自分が落ち込んでいるらしいと自覚した事だけを収穫に上手く気分転換も出来ない侭外出の予定時間が迫って来る。


自分の言葉は絶対間違っていないのだと言う自信の根拠が愛されて育った事に起因するのなら俺は何を頼れば良い? 俺を「欠陥品」と否定するオンナノコ達とどう闘えば良い?
席に戻りPCに向かってスケジュールを確認する。
暫く色恋沙汰はご免だな、思いながら初顔合わせのその会社に行く為の準備を始める。
結構でかい仕事になるかも知れないと、 そうなれば忙しくて女の子にちょっかいかけてる暇も無くなって丁度良いかもと思いながらスーツのポケットに名刺入れを突っ込んだその時、 自分を変えてしまう人間に会うと俺は未だ知らずにいた。
出会う前。再録。このごじょりんは嫌がられるだろうなあ、と心に留めつつ割と嬉々として書いた。

novel−パラレル