|
日に何度もカレンダーを眺めてみてはその日を指折り数え楽しみにしていた。 名前を呼び捨てにすると「先輩と言え」と怒るあの人と、日曜日に水族館。 「さんちゃん先輩、待った?」 「いや、俺も今来たところだ」 まるでデートみたいな会話だと思いながら駅の改札を通り抜ける。 「人が多いな」 「日曜だからな」 駅のコンコースには人が沢山いて、皆忙しそうにせかせかと歩を運んでいる。 通り過ぎざまぶつかっても誰も突き飛ばされた相手の事を振り返りもせずに突き進んで行く。 何だか随分と殺伐とした雰囲気の駅だと思った。 渦巻く殺気に飲み込まれ溺れてしまいそうだ。 駅を出て歩く事数分。エレベータに乗って巨大ビルの最上階にある水族館へ辿り着く。 薄暗い館内には案外子供の姿が多く、ガラスの水槽にはべったりと誰かの脂ぎった指紋が貼り付けられていて水槽に額を寄せるのが憚られる。 三蔵は、さんちゃん先輩は、 大量のイワシがぐるぐると回遊している巨大水槽でもお子様に大人気のペンギン水槽でもなく立ち止まる人もいない水槽の端っこの方でぼんやりとした表情を浮かべていた。 ぎゃあぎゃあ騒ぎまくるお子様でさえ注視しないで素通りするようなありきたりの魚しかいない水槽の前で。 「さんちゃん先輩」 親しげに声を掛けて軽く肩を叩いても三蔵は振り向かない。 「何。何がさんちゃん先輩のお気に召したの?」 肩に顎を乗せて片手で三蔵の肩を抱き込んでみる。普段だったら絶対に三蔵が怒るであろう馴れ馴れしい仕草にも、三蔵は反応しない。 三蔵は時々、こんな風に俺の声も気持ちも届かないような遠くを見る表情をする。 物理的にはこんなにも近くにいるのに、精神的には先刻の駅のコンコースに居た時のような寂しさを感じる。 あんなに大勢の人間がいるのに、誰も彼もが寂しそうで誰も周囲を見ていなくて、 隣を歩いているのが同じ人間だとも思っていないかのように自ら幕を下ろして遮断している感じ。 ・・・好きな相手が寂しそうな表情を浮かべていても踏み込んではいけないような。 「さんちゃん先輩ってば!」 耳元で大きな声を出したら漸く三蔵は驚いたような表情を浮かべて振り返った。 だけど俺は何だか寂しそうだったとか、遠くに感じたとか、そんな言葉は決して言わない。 「なあ、この魚美味そうじゃねえ?」 そんな風にわざとはしゃいでみせる。 薄暗い水族館の中で。 高校生パラレル。 なんかS玉県辺りに住んでて「都会とのファーストインプレッションは池袋!」な感じ。drrr的な。 きっと西武線か東上線沿線に住んでるんですよ! お題ページ |