貴方というひと
三蔵は新聞を読む時だけ脚を組む癖がある。何でだろうな?
法衣をくつろげ椅子に腰掛けて新聞を広げる三蔵を見て考える。
割に粗野な印象を受ける三蔵の仕草だが実はそれ程行儀は悪くない。 口の中に食い物が入ってる時は喋らない、メシを喰いながらテーブルに肘をつかない、 悟空のように音を立ててメシをかっこまないし茶を啜る時音を立てない。 そして普段の尊大な態度を見ているとちょっと意外なようだが脚を組んで椅子に座らない。 気を付けてそうしている訳ではなくガキの頃から躾の厳しい寺で育ったせいで既に習慣になっているのだろうが、 だったら何で新聞読んでる時だけ脚を組んでいるのか。しかもいつもぴんと伸びている背筋が猫背気味になっている事も。 本人は気が付いているのだろうか?
「オイ。何をじろじろ見てやがる」
「んー?三蔵様に見とれた・・・って何しやがる!」
「黙れクソ河童!」
ハリセンでしばかれながら不思議なものだ、と思う。
三蔵のカラダの中、まで知ったのはそう昔の事ではない。 初めてベッドに組み敷いた時、血が出る程キツく唇を噛んで顔を背けたその姿からヤツがまるきり初めてだった事を知った。 媚びを含む色っぽい視線で誘われたりした事が一度なりとあった訳では無かったが、 初めてキスを交わした時からあまりにも平然とした表情をしていたから。 ああ、何だ案外ケイケンがあるのね、と意外に感じながらそう思っていた。
強張る躰。跳ね上がるように震える腕で必死に俺を払いのけようとする仕草。滅茶苦茶に叩き付けられる力の入っていない拳。
仔ウサギのようにいたいけな抵抗は俺を思い留まらせるに充分で。
これは無理かな、と一度は諦めたもんだったがその後まあ、どうにかめでたくイタダク事が出来て現在に至る。
三蔵にとって他人に触れると言う事がどれだけ苦痛かは分かったし、 そんな三蔵が過去に他のヤツと寝た事などあり得ないと言う事も分かった。
本人でさえ知らない、他の誰もが知らない体内の熱を俺だけが知っている。
恐らく三蔵自身も気が付いていないであろうちょっとした癖を俺だけが知っている。
「う・・・っ」
皺くちゃになったシーツの上を彷徨う指先で白い布を握り締め三蔵が辛そうに目を閉じた。 俺の指を含まされた三蔵のソコはキツく、然し淫らに収縮を繰り返している。 そろそろと指を増やす。
「ア、アア・・・ッ」
艶の消えた、悲鳴にしかならない三蔵の声と共に収縮が止まる。 早くラクにしてやりたいと指で中をぐるりと掻き混ぜ少しずつ馴らしてやりながら指を埋める。 イイ処を探し当てるとぴくりと細い腰が撥ね逃げようとする。
「あ・・・はっ・・・」
時間を掛け弄られ続けた三蔵の性器はとろりと蜜を零している。
嫌がるのを何とか宥めて行為に持ち込んだもののこんな時の三蔵は酷くノリが悪い。 仲々昂ぶってこないソレをじっくりたっぷり時間を掛けてやっとここまでソノ気にさせた。 あまりに時間を掛けたので良い加減こっちも堪えるのがキツイのだが、 俺の沽券に掛けても頬を紅潮させ荒く息を吐いている三蔵の姿を見ているだけで勝手にイってしまう訳にはいかない。 逸る心を押し留めてダメ押しとばかりに根本から先端へと舌で舐めあげてやると再度腰が跳ね上がった。 びくびくと痙攣するように脚を震わせ、中心に舌を這わせる俺の髪を乱暴に掴むその指には大して力が入っていない。 其処を指で握り込んで後ろから意識を反らしてやって自分の先端を三蔵に宛う。 力が抜けた瞬間を見計らって突き入れるとぞろりと三蔵の内壁が蠢くのが感じられた。
「・・・・・・っ」
途端、三蔵は言葉を無くし金魚のように口を開けて喘ぐ。
「三蔵。力抜いて・・・」
本来受け入れる為の場所ではない器官奥深くに他人を受け入れる事への本能的な拒否か、 ゆっくり解してやった為痛みは感じていない筈の三蔵は全身をガチガチに強張らせる。 別に無理矢理やった訳でも無いのに。何度抱いてもこの挿入に馴れることのない三蔵。
「三蔵、三蔵・・・っ」
その躯を揺さぶりながら必死に何度も名前を呼ぶとやっとうっすらと目を見開いてくれる。
「・・・・・・」
開かれた唇から声音が零れる事は無かったが目を見開くと安心したように強張った躯から力が抜ける。 三蔵が力を抜いてくれたので俺も動くことが出来るようになる。 両脚を高く抱え上げ何度も突き入れるが、三蔵はもう声を出さずきつく歯を食いしばり内奥を深く抉られる事に耐えている。
・・・ツライなあ。
もう止めようかと思った事もある。
三蔵に辛い思いをさせるだけなら。
どれだけ抱いても自分の腕の中で快楽に溺れてくれない姿を見るのが辛くて。
三蔵が何処が弱いか、何処を攻めれば快楽を引きずり出す事が出来るかは良く知っている。 例えば胸、とか。女でもないのに固く尖ったそこを執拗に舐めて指先で押し潰すようにしつこい位に弄ってやると甘い息を漏らす。 キスも好きだ。寧ろ躯を繋ぐ行為よりもキスだけ交わしている方が好きらしい。 大腿部の内側の肉の柔らかい部分とか。唇を這わすとびくりと震える。 けれどその先、それ以上の行為はあまり三蔵は好きではない。 躯の奥のイイ部分。突き上げてそこだけ集中的に責めてやれば無理矢理感じさせる事は出来る。 けどそれだけだ。何度躰を繋げても三蔵にとってコレは「こんな事」でしか無い。 三蔵が自分でイイと思ってくれているのではなくて生理的な反応として感じさせられているだけだというのが分かってしまうのだ。
一度入り口付近まで抜いてから再度勢いを付けて奥まで穿つと三蔵は再度苦しげに息を吐いた。
「ご、じょ・・・っ」
それでも最近は随分慣れて来て、こうして合間に名前を呼んでくれるようになった。 まだ達してもいないのに名前を呼んだだけで三蔵は満足そうに蕩けた表情をする。
それだけで先程迄の苦い気持ちが嘘のようにかき消える。
ずるりと奥深くまで突き入れれば熱い吐息と共に三蔵は背中をしなやかに仰け反らせた。 白い喉に唇を這わす為胸を近付けると挿入が一層深くなりひくりと三蔵が体を揺らした。
「ん・・・、あ、あ・・・っ」
俺の両肩にまわされた三蔵の指がぎりと爪を立てる。その、痛みに煽られるように三蔵の中に吐精した。
寝転がった侭だった三蔵がゆっくり目を開く。もぞもぞと動き出して・・・あんた何やってんだ? いつもだったら起き上がって「風呂」と言い捨て単衣を羽織ってベッドから抜け出す筈の三蔵がもぞもぞと・・・ベッドの端まで移動して行く。 寝転がった侭。顔をこちらに向けた侭。 ベッドの端、それ以上寄ったら落ちると言う処迄移動して片手をシーツから出して腕を伸ばし単衣を手で探り当てる。
「三蔵?」
「近付くんじゃねえ」
顔を寄せてみるといつもは逃げるように背中を向けるクセに今日は背中を見せず、顔を背けない代わりに険悪な表情で睨み付けて来る。 先程迄の甘い時間が嘘のようにすっかり色気のない表情で。
「・・・何。俺なんかした?」
「うるせえっ」
伸ばした腕を叩き落とし警戒する猫のように視線を逸らさない侭上体を起こしもそもそと単衣に腕を通し始める。
・・・何かヘンだぞ。
ぐいと強引に抱き寄せ羽織りかけていた単衣の袷から手を差し込んでから三蔵の躯をひっくり返す。
「ば・・・離せっ」
慌ててじたばたと単衣を引き寄せようとする三蔵の肩から強引に単衣を引き剥がし、白い背中に浮かぶ一面の鬱血を見て息を飲んだ。
「あんたコレ・・・」
「離せ・・・うっ!」
もう見てしまったと言うのに尚も隠そうとするものだから、 力を込めて躯を引き寄せてその背中を自分の胸にぶつける勢いで押し付けてみると途端に痛みを訴えた。
「バカ、伏せろっ」
そう言って俺の身体を巻き込む勢いで突進して来た三蔵と爆風に飛ばされ縺れ合うように転がって、 やっと停止したのは背後の木に激突した為だった。
その後咳き込んでいたのは辺り一面を覆う爆発による煙の所為だと思ったのは、 自分もご同様に凄まじい土埃に涙目になって咳き込んでいたからで。 まさか三蔵がこれ程酷く背中を強打していたとは思いもよらなかった。 クッション代わりになった三蔵の事が多少心配ではあったが何とも無かったのだと思ったのは、 咳が治まった後は自力で起き上がって平然と歩いていたからだ。
「八戒呼んで来るから」
三蔵の身体を離して立ち上がり取り敢えずジーンズだけ身に纏う。
「バ・・・止めろ!」
「だってあんたその痣痛むでしょ?今夜寝られないかもよ?」
「・・・まだ風呂入ってねえ」
「風呂なら入っただろ」
宿に着いてすぐ三蔵は風呂に入っていた、それは確かだ。三蔵の習慣とする情後の風呂はまだだが。 そう考えて気が付いた。風呂に入った時に三蔵は背中の痣に気が付いていたのではないか。
・・・言ってくれたら今日は抱かないで寝かせてやったのに。痛いんだったら素直にそう言ってくれたら良いのに。
・・・思い返してみれば確かに今日はいつもより緊張しているようで随分身体が強張っていたように思うのだが。
三蔵の様子に気が付きもしないでベッドに組み敷いた自分の事は棚に上げて三蔵にもっと本音を見せて欲しいと思ってしまう。
「・・・あいつらはもう寝てる」
「起こせば起きるって」
「止めろ」
そう言って慌てて俺の腕をひっ掴んだ三蔵の爪が腕を掠った。
「・・・分かった。その代わり明日の朝には八戒に見せても良いな?」
恐らく三蔵が忌避しているのは怪我を診せる事では無く二人抱き合ったばかりの部屋に八戒を招き入れる事だ。 悟空はともかく八戒なら今部屋に入って来たら何があったか間違いなく気が付くだろう。
「・・・・・・」
「イヤなら今呼んで来るからな」
「・・・・・・」
イヤそうに口元を歪め睨み付けられるが気に止めず視線を受け止め返す。
忌々しそうに「クソっ」と言い捨てると三蔵は風呂場へ向かった。 乱暴に閉められるドアに続き風呂場に反響する水音を聞きながらベッドに腰を下ろした。
「あーもー・・・」
煙草を銜えて髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。
三蔵が過去に一人で旅をしていたのは知っている。 怪我をしたって誰にも頼れはしない環境でまだガキの頃からこの桃源郷を彷徨い歩いていたのだと。 勿論八戒のように傷を塞げる便利な特技など三蔵にありはしないから、 三蔵の躯にはその頃の怪我が大小問わず無数の疵となって残っている。
でも今は一人で旅をしているのではないし、三蔵が危ない時は俺達が三蔵を護ってやれるし、 その逆に三蔵だって自分の事だけ見ている訳では無く昼間の戦闘の時のようにちゃんと俺達の事だってフォローしてくれるんだし。 一方的な甘えた関係ではないのだから怪我をしているのならそう言ってくれたって良いのに。 未だ俺達相手に弱みを見せられないとか思われてるんだろうか。
旅の間に三蔵の事を少しは分かった気になっていたが。
「まだまだだなあ・・・」
煙草を消費しながらそんな事をぐるぐる考えていると洗面所のドアが開いた。
「てめえ吸い過ぎだ。部屋が煙草臭いじゃねえか」
乱暴にドアを開けての第一声がそれかよ。お前に言われたかねえよ。 以前ならともかく旅に出てからあんたは確実に、着実に本数が増えているクセに。 俺らが最近いつも同室なのは煙いから同室になりたくないって言う八戒と悟空の主張を受けてなんだって知ってるか?
「アンタも吸う?」
にやりと笑ってハイライトを差し出してみれば案の定イヤそうな顔をされた。 俺の言葉を無視して当然のように三蔵はすたすたと使われて居ない、俺が腰を下ろしているのと別の方のベッドに脚を向ける。 その侭掛け布団を捲り上げとっとと布団に潜り込もうとするから急いで三蔵の横になっているベッドの方に歩いて行く。
「なあ三蔵。俺の事好き?」
まだ掛け布団を掴んだ侭の三蔵の片手を掴んで問い掛けてみる。冗談めかして片方の唇をにやりと吊り上げて。 本当はこんな事を言ってみた時の三蔵の返事と言うのは聞かなくても分かってる。
『ふざけんなエロ河』・・・!?
いきなり顔を殴り付けられて情けなくも俺は床にひっくり返った。 口での攻撃が来ると思っていた為腕力での攻撃に備えていなかった所為もあるが、 腕を振り上げるとか予備動作があれば拳が飛んで来る前に気が付いて避ける事も出来たんだが・・・予備動作無しでこんな重い拳を繰り出せるとは、 やっぱあんた人間にしとくには惜しいわ。
じゃなくて。慌てて見上げた三蔵はお決まりの「死ね」だの「殺す」だの口にする事も無く無表情に俺を見下ろしていた。 床の上から見上げる三蔵は天井の明かりが逆光となって、 そんな中表情を消している三蔵と言うのは・・・ハッキリ言って寒気がする程コワイ。
「殴ったね・・・親父にだってぶたれた事ないのにィ!」
冗談めかして頬を押さえてそう言ったら腹を踏み付けられそうになって慌てて転がった。もしかして本気ですか三蔵サマ。 因みに親父に殴られた事が無いのは本当なのだが。
「俺が誰とでもこんな事すると思ったのかてめえは」
絞り出すような低音は、つまり。『好きでもない相手と寝る訳ないだろう』と言う意味で。
もしかしてこれって凄い・・・愛の告白?
「ちょ・・・ごめんって」
腹筋を使って飛び起き宥めるように三蔵を抱き竦めた。
「離せ」
言って俺の腕を振り解こうと散々身を捩るのを力を込めて抵抗を抑え込む。
「ごめん。そういう意味じゃねえよ」
「ざけんな。そういう事じゃねえか」
「違うって。あんた怪我してんのに教えてくれねえからさ、心配になっちゃった。信用されてないのかって」
腕は三蔵の躯に回した侭でまだ湿っている金髪に口付けを落としながらそう告げると腕の中の三蔵が力を抜いた。
「なあ聞いてる?」
「・・・・・・」
「おーい?」
「・・・そんなんじゃねえ」
「・・・」
下手に口を挟むとまた黙り込んでしまいそうな三蔵に黙って続きを促す。
「怪我がすぐ治るなんて普通だったらあり得ない。そんなもんにいつも頼る訳にはいかない」
「何で」
「怪我をしてもすぐ治る事に馴れたくない。怪我をした時必ず八戒がいるとは限らんし・・・」
「それから?」
口ごもったのに続きを促す。
「治して貰えるものだと構えていると油断が生じる」
意地を張ってとか仲間を信用していないとかそんな大袈裟な事では無かったのだ。
三蔵にとってはごく当たり前の事を言っているのだと、その表情を見れば分かった。
確かにただでさえうっかりさんな三蔵にしては良い心構えだと思う。 治療しない事で痛みを抱え続け、その痛みの元となった自分の迂闊さを戒めたいのだろう。だが。
「でもさ、あんたのこの傷だって誰かに治して貰おうと思ったから怪我したって訳じゃなかったでしょ」
単衣の上から古傷のある場所を指でなぞる。 指先に触れるのは木綿の手応えだけで三蔵の膚の上に走る引きつれた傷跡の感触は感じ取れなかった。
「それは・・・そうだが」
言葉に詰まった三蔵が面白くなさそうに下唇を噛んだ。
大体それを言うなら三蔵に庇われなかったら今頃どんな悲惨な怪我をしていたのか分からないのは俺の方だ。 油断していたのは俺の方じゃないのか?
恐らく三蔵は敵の数が少なくなると最後の一体を仕留めないうちに気を抜いてしまう自分自身に腹を立てているのだろうが。
「怪我なんてさ、しようとかしないとか意図的に出来るもんでもないでしょ。 怪我すんのもたまたま、怪我治せるヤツが近くにいるのもたまたまなんだからそんなに難しく考えないでも良いんじゃない?」
そう言うと三蔵は目を見開いて俺をまじまじと見つめた。
「てめえは・・・」
「ん?何?」
「考えなさ過ぎだ」
言って、直ぐ様下を向いた三蔵の肩が小刻みに震えていた。そこは笑う処じゃねえぞ。
両頬に手を添えて無理矢理上を向かせると珍しくも三蔵は目の端に笑いを浮かべていた。 三蔵は俺の事を考えなさ過ぎだと言ったが俺に言わせてみれば三蔵は真面目過ぎるし物事を難しく考え過ぎだ。
「いいじゃん。もっと甘えてよ」
啄むように口付けながら告げると。
「誰が甘えるか」
苦笑混じりの憎まれ口が返って来た。
抱きかかえて布団に潜り込むと腕の中に大人しく収まった侭だった三蔵は先に瞼を閉じて眠る体勢に入った。 口を開けば三蔵の口は罵詈雑言ばかり吐き出すが。 他の誰にも見せる事のないであろう眠りに落ちる際の無防備な表情を俺に見せる事を赦してくれる。
眠りを妨げないようそうっと額に口付けを落とす。まだ眠ってはいないらしい三蔵はそれでも黙ってされるが侭になっていた。
全てを知ろうとしてもとても知る事など出来ない、何を考えているのか到底計り知れない複雑な思考の主。
こんな関係になっても未だ身体の関係に慣れていないかと思えばとんでもない愛の告白を本気でぶつけて来てくれる。
とても素直で、素直でない。
貴方という人に愛しさを籠めて。
ラストは100題目にしようと思って昨年書き上げていたのですが寝かせておきました。ただ寝かせてるだけだと鮮度が落ちる(え?)
のでちょろちょろ書き足していくうちにエロシーンが長く。
Stand by meに続く。
100題
Stand by meに続く。
100題