スカート
「ヤラセテv」
「ざけんな」
「ちょっとだけ」
「死ね」
「一生のお願い」
「手前の一生は何度あるんだ」


先程から全然埒があかない。床に土下座してる俺の目の前には尊き最高僧・玄奘三蔵様。 万年不機嫌鬼畜生臭坊主と知り合ってかれこれ3年。一緒に旅をするようになって1月半。 毎日顔を突き合わせているうちに気が付いてしまった。

嫌い嫌いも好きのうち。

そう、俺は三蔵に惚れてしまっていた。 よりによって仏頂面のこんなヤローの事をと思わないでもないがどういう風の吹き回しだか思いが通じ時々キスまではさせて貰っている。 だけどやっぱソレ以上の関係になりたいじゃん?

然し相手は三蔵だ。男であって坊主であるという以上の難点がコレだ。 無理矢理なんていうロマンもへったくれも無いのは問題外。 きちんと口説き落としたいと思うのは間違ってはいないだろう。 然しくどいようだが相手はあの三蔵だ。幾ら言葉を尽くしたとてこの男心を分かって貰えないのはお約束と言うか予想通りで泣けてくる。


然し、然しだ。キスまで許してそれ以上は駄目ってのはどーゆー事よ。 それ以上・・・したくならねえのかコイツ?潔癖性っつっても限度があるだろーよ。
世の中にはキス以上の事があるのだと俺は、コイツに教えたい。


「ああっ、もー我慢出来ねえっっ」
「クソ河童っ離せっ!!」
目の前の足にしがみつき揺らぐ体ごとベッドに押し倒す。 本気で乱暴をするつもりは無い。ホント、無理矢理なんて色気の無い事はモットーに反するし。 人間と妖怪の力の違いを考えればこんな事は何時でも出来る。 それをしないのは三蔵に酷い事をするなんて論外だと思っているからだし嫌われたく無いからだ。
ただ少しだけ俺がどれだけ本気で想っているか知って欲しかっただけ。 そうでなきゃ誰が下半身なんかに抱き付くか。本気だったらまず両腕の自由を奪う。
「ちょびっとだけっ、なっ!」
「殺す!死ねっ死ねっっつ!」
三蔵には俺が無理矢理やるつもりは無いと言う事は分かっていないだろう。 当たり前だ。寝てくれと懇願してた男に襲い掛かられたら普通身の危険を感じる。 必死に暴れる脚を押さえ付けようと抱き付いた腕にはごわごわの手応え。 下にジーンズを履いているのは知っているが法衣の裾を捲り上げる。
「な・・・っ!?」
思わず腕が止まった。
「あんたコレ・・・」
最高僧の聖服である法衣の下、俺の目の前に晒されたのはジーンズでは無かった。
「コレ・・・何よ」
「襦袢だ」
拘束する力が弱まったからだろう、三蔵も抵抗を止め涼し気な声で返答する。
襦袢・・・襦袢ってのは確か着物と同じ作りの筈で、着物と同じく袷があって身頃があって右と左で別れるもんだろ・・・? コレ・・・コレは・・・左右の身頃が・・・身頃っつって良いもんなんだか・・・その、縫い合わせてあって、 まるでフレアスカートのように見える。
「違うだろ」
「襦袢だ」
やっとの事で否定の言葉を発した俺に、あくまで襦袢だと言い張る三蔵の声。 イヤ、だから襦袢てのは着物みたいな形してるだろ・・・?あんた上半身は法衣の下はハイネックのアンダー以外何も着てねえじゃん。 百歩譲ってこの、法衣の下の布が襦袢だとしたら何で上半身の部分がねえんだよ。
「襦袢てさ、確か浴衣みてえになってるだろ?コレ下半身しか覆ってねえじゃん」
「・・・襦袢だ」
「いや、これぜってー違うって。法衣の下どうなってんのよ?見せてみ?」
「何で手前に見せなきゃならん」
「全部脱げって言ってる訳じゃねえのよ?法衣脱ぐだけで良いって」
「断る」
「いいから見せろって」
「ざけんな」
「何で隠すの」
「手前こそ何でんなもん見たがるんだこの変態」
不毛な会話を続けながら法衣を巡って必死の攻防を続ける。俺は脱がせようとし三蔵は脱がされまいとする。 然し力で人間である三蔵が俺に敵う筈も無く一瞬力が緩んだ隙に三蔵は片袖を脱がされた姿となった。

「さんぞーっ!!」
もう一押し、となった所で突然悟空が部屋に乱入して来た。鍵を掛けていなかったにも関わらず蹴破られたドア。
「さんぞー、どうしたんだ!?大丈夫かっ!」
「ああ」
でかした、と言う表情で悟空の方を向く三蔵を見れば三蔵が悟空を呼んだらしい事が伺い知れた。 以前は悟空の声が三蔵に聞こえるだけだったらしいが最近起きたある出来事を切っ掛けに三蔵からも悟空を喚ぶ事が出来るようになったそうだ。 クソ、便利な親子だ。先程力が緩んだと思ったのは精神を集中して悟空を喚んでいたのだろう。
「三蔵に何してんだよ悟浄っ!!」
「べっつにー」
「物凄い音がしましたが一体どうしたんです?」
恐らく先程のドアを蹴破った音を聞きつけたのだろう、八戒までもが部屋にやって来た。 ・・・やばい。当然ながらとっくに三蔵からは身を離していたし三蔵が法衣の上だけくつろげている姿など珍しくも何とも無い。 子ザルだけなら誤魔化せる自信があったが八戒はまずい。
「八戒」
八戒の名を呼ぶ三蔵の低い声に俺は固まる。
「何でしょう」
「悟浄が錯乱した」
イキナリそれかよ!
「は・・・?」
「してねえよっ」
「あの・・・一体?」
「エロ菌が脳に回ったようだ」
「はあ・・・もしかしてその姿は悟浄が?」
何となく事情を察し片袖を脱いだ侭の姿の三蔵に目を遣り、次いで俺をちらりと見た八戒の視線。死ぬ。俺は死んでしまう。 八戒がそんな目をしてる時は確実にやばい。
「そうだ」
「そうですか・・・それは重症ですね」
「何の話してんだよ先刻っから!」
この期に及んでサルは未だ話を把握出来ていないらしい。俺はもうじき死んでしまうがお前は一生その侭でいてくれ。
「悟空。悟浄は大変な病気なんです」
「ええっ!?」
元気そうだけど、ごにょごにょ続ける悟空に八戒が笑顔を向ける。
「ええ、悟浄は僕達を心配させまいと元気な振りをしていますが本当はとっても重症なんです」
「そうなのか三蔵!?」
ちょっと待て。何で当の俺じゃなく三蔵に尋ねるよ。
「ああ。本当だ」
力強く肯定する三蔵の声。健康な成人男子のクセしてキスしかさせてくれねえ三蔵の方がよっぽど病気だろっ
・・・とは思うものの八戒が怖くてとてもじゃないがそんな事は言い出せない。

「と言う事ですから、隔離しますねv」
百点満点の笑顔で八戒が宣言する。 どうせ死ぬのならもう一度三蔵とキスしてから死にたかった。キスと言わず一度で良いからヤっておきたかった。 死ぬ前に知った秘密が三蔵の法衣の下布一枚だなんて短くも哀れな人生だ。

八戒に腕を引かれ強制的に部屋から引きずり出されながら絶望に俺の意識は遠くなって行った。

〜終幕〜カーテンフォール〜(←摩耶雄崇風)

三蔵が悟空を呼べるようになったっつーのは「華焔の残夢」より。ステキ設定です。
どう見ても三蔵様ってば法衣の下何か履いてますよね・・・スカート・・・みたいな・・・。裾除け?襦袢? 法衣の襟の処何やら線が細かく描き込んであるのであれは襟の厚さでは無く襦袢着てますっつー意味なんでしょうが然しあんな風に法衣が捲れ上がったら襦袢も前寸が割れます。 どんなに脚を広げても前寸が割れないマジカル法衣と言い峰倉先生の着物描写だけは納得いきません。

合わせ鏡の続きと言われたら自分が泣く。時間軸の似ているアナザーワールドの二人と言う事で。

100題