地下鉄
人手が足りないと支店の応援に駆り出され仕方無く久し振りに朝の電車に乗った。
・・・気持ち悪い。
狭い空間に大勢が詰まっている凝った空気(他人の吐き出した二酸化炭素)
押し寄せて来る温い体温(近寄るんじゃねえっ)
弱い蛍光灯の光を浴びてぬらぬら光る吊革(あれは永年に亘って塗り込められた皮脂が光を反射しているんだ)
電車がどんなに揺れてもあれには掴まりたくねえ、そう思って足に力を込めてしっかり立つ。
オレは何にも掴まりたくねえ。
掴まりたくねえって言うのに緩いカーブで体勢を崩した誰かがぶつかって来てこっちまでよろめいてしまい仕方なく手摺りに掴まる。 ここも金属の手触りの上に塗り込められた生ぬるい皮脂の感触。
クソっ。
余りの気持ち悪さに目を閉じ歯を食いしばる。
見知らぬ他人との極度の接触感を和らげる為、 視線を逃がして気を紛らわす為所狭しと車内に貼られている広告のポスターに踊る派手な文字に目を遣るがこの嫌悪感を和らげる役に立ちはしない。
気持ち悪いのは皮脂でぬめる感触だけでなく、冷たい筈の金属の手すりが車内の温い空気に暖められて生暖かさを伝えて来たからだ。
地下を走るこの路線では窓を開けても地上の空気は入って来ない。開けるヤツもいないが。
永遠に入れ替えられる事も無く空気は澱み続ける。
見も知らぬ誰かが吐き出した呼気を含んだ侭。
薄暗い中湿気を含んでまとわりつく温い空気は全て他人の体温だ。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪・・・
この気持ち悪さは空気の所為だけでは無い。
ふと気が付いて三蔵は目を開けた。トンネル内で外が暗い為窓ガラスに車内の風景が写って見える。
見知らぬ男に張り付かれていた。目を閉じた恍惚とした表情で
人の背中に頬寄せてんじゃねえよこのホモ!!!(怒)
駅員に突き出すと言う選択肢を捨て、自らその変質者に制裁を加えた三蔵だったが運悪く同僚にその姿を目撃されており。
『男に痴漢される男』
と言う不名誉な名がその日から社内で囁かれたとか・・・。