三蔵と悟浄がヘンだ。
仲が悪いのは以前からの事だけど、それでもいつも二人の喧嘩は三蔵のハリセンか銃の乱射で終わる。 口でどれだけ文句を言っても悟浄が三蔵を殴る事は無い。それはまるで約束のように。 勿論俺だって三蔵を殴ったりはしないけど。ぼっこぼこに殴りてえって思う事も(しょっちゅう)あるけれど。
だけど俺が言ってるのはそんな事じゃなく。



「・・・悟浄の匂いがする」
「ああ?」
メシの前に一服しとくか、とばかりに三蔵が法衣の袂を探るのに合わせて法衣の長い袖がふわりと揺れた。 旅に出てから三蔵は煙草の本数が前よりずっと増えた。 寺にいた頃は機嫌の悪い時こそ顰めっ面をしてもくもくと何本も途切れる事無く煙草をふかしていたけど、 最近は三蔵は機嫌の良し悪しに関係なく煙草を吸うようになった。三蔵の法衣は最近煙たい。 法衣だけでなく宿で一緒の部屋になると三蔵の吸い続ける煙草の煙で煙たい。だから三蔵と一緒の部屋になると嬉しいけど少し嬉しくない。 それでも「僕まで煙たくなっちゃうじゃないですか」と悟浄に文句を言う八戒が 「三蔵と悟浄は同じ部屋で良いですね?」と言って部屋の鍵を三蔵に渡すのを見るのは素直に喜べない。
何故なら悟浄と同室になった翌日の三蔵は。


「鼻を鳴らすな動物が」
「だってさ」
新聞の向こうから三蔵が言う。無意識に鼻をふんふんとさせて匂いを嗅いでいた。
「煙草の匂いが移ってんだろう」
「うーん、そうかなー?」
三蔵に叱られたが返事をしながらもう一度匂いを伺う。
三蔵の煙草の匂いと刷りたての新聞のインクの匂い、それと悟浄の煙草の匂い。それから矢張りそのどれとも違う悟浄の匂い。
匂いが移る位近くにいるって事は部屋に入ってから二人で取っ組み合いの喧嘩でもしてんのかな、 そう思ってちらっと三蔵の様子を窺っても別に怪我もしていないし機嫌が悪いと言う事もなさそうだ。
「やっぱり煙草の匂いじゃないんですか?悟空も悟浄と同室の時は結構匂いが移ってますし」
露骨に俺を無視した侭の三蔵と違い一緒に考えてくれる八戒からは石鹸の匂い (因みにジープも八戒と同じ石鹸で洗われてるから同じ匂いがする)、 三蔵はマルボロとなんか線香くさい匂い、悟浄は・・・ハイライトの匂い。 やっぱりただの煙草の匂いなのかも、と言う気がしてきた。 自分の服の袖口を嗅いでみると確かに今日は悟浄と別の部屋だったからか煙草臭くない。
「そうかなー。自分じゃ良く分かんねーけど悟浄と一緒の部屋になった後って俺も悟浄くさいのかな」
「悟浄くさい・・・」
「人をクサヤの干物みたいに言うなッ!」
手にした新聞を力無く膝に落とす三蔵の声に、悟浄の怒鳴り声が重なった。






10 years agoの続き。

「・・・俺は悟浄くさいのか・・・?」
呆然と問う三蔵に。
「あっ、大丈夫!悟浄と一緒じゃない時は悟浄くさくないから!」
悟空は慌てて言葉を続けた。 その日から皆が悟浄と同室になるのを露骨に避け始めたが悟空はその時にはこの時の遣り取りの事をすっかり忘れ去っていたのであった。



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