ever after
妙に気分が高揚して眠れない夜がある。
例えば月がやけに明るい夜とか。
例えばおかしい位に手際良く敵をバラバラに切り刻んだ日とか。
眠れなくて糊のきいた清潔なシーツの上で昼間見た猫の尻尾の形だとか角の欠けた宿のカウンタの冷たい大理石の感触だとか無駄に喋り続けた後三蔵がもう眠れと言って頭を撫でてくれる。
頭を撫でてくれるのは母親と言うヒトタチだけがする事だと思ってたから自分には縁の無い事だと思ってた。
母親、と言うのは一種の憧憬なのだ。
転んだガキが「おかーさーん」と言って泣く事然り。
髪をさらさらと梳かれながら三蔵は大切にされて育ったんだろうな、と思う。
必要とされている時にだけ差し伸べられる三蔵の指は決してオンナのそれのように細くもたおやかでもないが硝煙でがさついた、 引き金を引く指の腹が固くなっているその手は必要とされる時も必要とされる分量もちゃんと知っている。
三蔵は愛され、慈しまれ、核の部分に何人にも侵す事の出来ない愛を抱くように育てられた人間だ。
普段は口は悪いわ短気な乱暴者だわ銃はぶっ放すわ無愛想だわで慈愛のカケラも無いクセにこんな風に情けない姿を晒せば甘やかしてくれる。 惜しみなくその身に抱く愛を弱者に分け与えてくれる。
母親と言うものはロマンなのだ。その無償の愛。 馴染みの酒場のオンナ達の身の上話を聞けばそんなモンはただの幻想でしかない事は否が応でも知らざるを得ない訳だが。 勿論酒場の女達の何処まで本当か分からない話を聞くまでもなくそんな事はこの身を以て知っているが。
顔も名前も覚えちゃいない俺の本当の母親、産みの親がどうだったのかは知らない。 だが一人残される俺の事を考えもせずこれまた顔も覚えていない俺の親父と無理心中に至った彼女の中に俺の居場所があったとは到底思えない。
俺って結構可哀相だよなあ、と思いながらベッドのスプリングが軋むのも気に止めず向きを変えてしがみつく程の強さで三蔵を抱きかかえる。 こら、と言って三蔵が俺の肩をぐいぐいと押してその身を遠ざけようとするが腕を緩めてなどやらない。 顔を見なくとも今三蔵が困ったように眉根を顰めているのは分かっている。 腕の中の体温が抜け出ても眠りにつけそうな微睡みに逆らう事なく俺は瞼を降ろした侭頬に触れる柔らかい金糸がくすぐったくとも目を開けない。 放せと言われイヤと即答しながらも意識は眠りの底に近付いて行く。 本気で暴れれば逃げ出せる程度に抱き付く力を弱めてやると小さな溜息と共に三蔵が力を抜いて俺の背中に腕を回す。 肉欲を含まない侭合わさった胸からとくん、とくんと小さく、然し規則的に鼓動が伝わる。
子供のように甘やかされた侭眠りに落ちよう。
eversionと対で。

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