one again
ドアを開け屋内の暖かさにほ、と息を吐く。知らず強張っていた身体が外気の冷たさから遮断された事で緊張を解く。
こんな、寺から遠い処に越した事を本格的に後悔するようになったのは日が暮れるのが早くなり、 剥き出しの頬を痛い程に嬲る乾ききった冷たい風が吹くようになってからだった。
あの西域への旅の間は風を切って進むジープに乗っていた事が今となっては信じられない。 そして、宿泊出来そうな街に辿り着けなかった時は寒空の下運転していた八戒が、 ジープを降りた後も甲斐甲斐しく食事の支度だの野宿の準備だのをしていた事を今更ながら僅かばかりの良心の呵責と共に感謝する。
山中に在ったとは雖も金山寺の付近は気候が温暖だった。 そしてそれなりに高地にあるので夏の間も山の下に比べれば格段に涼しく過ごし易かった。冬の間は曇りがちで気温も低く風も強く、 夏となればその逆に冬の間の乾燥が嘘のようにじめじめと湿度も高く、 日中はそよとも風の吹かないおよそ暮らし易いとは言い難い長安と違い。
その穏やかな気候を懐かしく思いながら着替えて台所を覗き込み、眉を顰めた。



「三蔵、ホラ、今日はクリスマスだからチキンとシャンパン用意したんだ。ケーキも買ってあるから後で食おうぜ」
コルクを器用に開けながら笑顔で悟浄が告げる。 卓上に載っているのはウンザリする程でかい鳥と、普段悟浄が作るものよりは一手間掛けたと見て分かる色鮮やかな料理の皿。
バカじゃねえのか。
当たり前だが、寺育ちの俺は聖誕蔡を祝う習慣はない。 旅の間こそ教会育ちの八戒が何やら張り切って料理を用意するのに付き合ってやってはいたが、 長安に戻って、再び寺に戻ってまで自分と関係のない行事を祝う必要があるだなどとは考えた事もなかった。
「何で俺が異教徒の為に祝わなくてはならん」
「いいんだよ、こーゆーモンはお祭りなんだから」
そう言うと悟浄はワイングラスに淡く色の付いたシャンパンを注ぐ。何が祭りだ。 そのオレンジ色のラベルはてめえの安月給でおいそれと買えるシロモノじゃねえだろ。
全くしようのねえヤツだ、そう思うが酒の味は保証された。無言でグラスに手を伸ばすが口を付ける前に悟浄に制止される。
「まーまー、待て待て」
「何だ」
まさか酒を買って来たてめえに感謝しろとか言うんじゃねえだろうな。
「来年も一緒に過ごせると良いな」
乾杯とばかりに自分の分のグラスを掲げながらさり気なさを装って一息に悟浄が言うのに寒気がした。呆れた少女趣味だ。
毎年毎年、どうした訳だか悟浄はこの日に阿呆のように同じ言葉を口にする。
それは、明日をも知れない過酷な旅の最中だからこその未来への約束なのだろうかとぼんやり思っていたのだが、どうやら違うらしい。
呆れて酒杯を一気に煽る。
グラスの中で品良く立ち上る気泡は、口の中では暴れる事なく涼やかな後口を残し咽へと流れ込む。
「ただのスパークリングワインじゃなくてシャンパンなんだから味わって飲めよ」
「うるせえ」
そんな事は見れば分かる。
てめえの甘ったるい言葉よりもその、ラベルの保証の方が余程マシだ。




そんな訳でヴーヴクリコでした。悟浄さん太っ腹。

悟浄バージョンはこちら→merry

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