DAZZLE 2
三蔵の戦闘に於いての強さは集中力の賜物だと以前八戒が言った事がある。
三蔵の闘い方を見ていると確かに成程、と思う。
ただの人間にしちゃあ割に腕力のある方だとは思うが、それだけではトチ狂った妖怪どもと対等以上に亘り合えはしない。 相手が動き出す前に、それ以前の動作とか、距離とかを測って相手が次にどう動くかを常に先読みして最低限の動きで攻撃を交わす。 最低限の動きで敵を倒す。弾籠めの時以外は殆ど無駄に動く事もない。動作の大きい、 相手をぶっ飛ばすにも相応の体力を必要とする、体力の消耗の多い闘い方をする俺や悟空と違い僅かな動きで確実に敵を仕留めて行く、 狩りをする肉食獣のように研ぎ澄まされた動きだ。


だがその隙の無い闘い方が出来るのは、三蔵の体調が万全で、集中力が途切れない事が前提だ。
と、言う事を理解していない三蔵は、ここの処のきつい行程と厄介な程の暑さに自分が弱っている事を計算に入れず、 いつも通り戦闘の最前線に立っていた。そろそろどっか木陰にでも入って休憩を取ろうとしていた、 つまり休憩を必要とする程度には俺達も疲労が溜まっていた、そんな時に受けた襲撃だった。 悟空は三蔵の負担を軽くする為か、それとも何も考えてないのか分からないが真っ先に飛び出して敵陣に突っ込んで行って奮闘している。 八戒は悟空と反対側の敵を気孔で吹き飛ばす。つまり、今三蔵の近くにいるのは俺だけだった。
やや動きの鈍い三蔵が普段だったら詰め寄られる事もないような相手に間合いに入る事を赦し、 銃床で敵を殴り飛ばすその腕にもいつも程のスピードがない。 長引かせるとマズイな、そう思っていた時だった。
案の定と言うか、敵の繰り出す鞭に三蔵が足を取られて引きずられるように転倒したのは。
「チ・・・ッ!」
錫杖を旋回させ鎖でその鞭を断ち切る。その間に三蔵は転がった侭半身を起こして手応えを失った鞭にたたらを踏む敵を撃ち殺す。
「やあねえ、三蔵様ったらお年のクセに張り切って出しゃばるから」
それでも俺の口は勝手に軽口を叩く。
「このクソ河童がっ!」
即座に怒鳴り返しながら銃を握る腕を俺の方に向ける。 腕が上がったと見た次の瞬間には発射された弾丸は、肩をギリギリ掠めて俺の背後の敵を撃ち殺す。
「当たったらどーすんだクソボーズ!!」
言いながら錫杖を構えて回り込んで三蔵と背中合わせに立つ。 錫杖を振り回す際の動作が大きい所為でたまにうっかり三蔵の背中を肘でどついたり、 間違って足を踏んじまったりする事があるのであまり、三蔵は戦闘中に俺が側に来る事をヨシとしてはいないのだがまあ気にすんな。 それに悟空だって時折伸ばした如意棒で間違って三蔵を小突いては蹴り返されている。
「こっちに来るんじゃねえっ!」
矢張り、と言うかこのクソ忙しい戦闘の合間だと言うのに三蔵は怒鳴り声を上げる。
「まーまー、イイから」
言い様、錫杖をぶん回して敵の首を2体ばかりちょん切ると三蔵は背中を預ける形で俺の背後に張り付くと忙しなく弾籠めを終える。 時間にしてものの数秒。それでも敵の真ん中で無防備に突っ立ってたらお陀仏になるには充分な時間。
鎖を戻し錫杖を両腕で構え直す。俺に命を預けていたほんの一呼吸分の時間の後、ふいと三蔵が離れて行く。 喧噪の中、聞こえる筈のない草履が砂利を踏み付ける音を耳が拾い上げたように感じながら、 三蔵の気配が遠ざかって行くのに俺は持ち場を離れない。
全く素っ気ねえの。
てめえの命が掛かってんだから具合の悪い時くらい俺達に全部任せちまえば良いのに。 本当は襲い掛かってくる妖怪を撃退するのだって面倒くせえと思っているクセに、 普段は腰が重くて隙あらばラクしようとしてるクセしやがってこんな時は不調を悟られたくないからか、いつも以上に無理をしたがる。
三蔵には「自分がしんどいから」なんて理由で他人に寄りかかる事が出来ない。化け物並のプライドの高さがそれを赦さない。 弱い自分を誰にも、俺達にも見せたくないからだ。
俺の視界から姿を消した三蔵の事を気にしながら、八戒は間違っていたと思う。

三蔵の強さを支えているのは、ヤツのバカバカしいまでの矜持の高さだ。

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