so gold
忘れようと思った、三蔵への想いを忘れようと思った、何度も、何度も。
言葉通り一夜限りの関係を幾人もの女達と交わした。愛情の伴っていない交わりにせめてカラダだけでも満足させて、 カラダさえ満足出来りゃあこの想いを忘れるに決まってる、本当は誰だって良いんだろうがと自分で自分を追い詰めて。 それでも幾ら柔らかいカラダを抱いても足りなくて、 遊び慣れてない、夜の街のオネエさん達じゃなく宿で忙しく立ち働いている女の子とかに揶揄うように声を掛けては三蔵にハリセンでぶん殴られ、 ああ、そうだ、三蔵の目の前で女の子達に声を掛ければヤツが不機嫌になるだろうって分かっているのにわざと三蔵のいる処でナンパして、 振り下ろされるハリセンに「痛え」とか言いながらその実ハリセンが来るぞ来るぞと、 女の子達に声を掛けながらも既にカラダは身構えていて。俺の一挙一投足に三蔵が反応してくれる。 俺の行動を三蔵がちゃんと見ていてくれる。そんな事を一々確かめては密かに喜んでいるなんて、随分俺は重症だ。





「三蔵、ちょっと休憩しても良いですか?」
ジープの走行する道路と平行して流れている小川を横目に見ながら八戒が訊ねるのに三蔵は胸の前で腕を組んだきり黙り込んで返事をしない。
「なあ、三蔵。オレ腹減ったよー」
「ははっ、小猿ちゃんが腹減ってない時なんてあるのかよ」
「っんだとお〜このエロ河童!」
「おっ、ヤル気か」
「三蔵、そろそろ食事にしないといけませんし」
「わーい、メシメシー」
「・・・三蔵?・・・眠っているようですね」
言いながら八戒がジープを停止させる。
「八戒、どーするよコイツ」
後部座席を跨いで降りて助手席の隣に回り込んで見下ろしても尚三蔵は目を覚まさない。
「そうですね・・・寝かせておいてあげたいのはやまやまですが、落っこちたら困りますから起こしましょう」
そう言って八戒が運転席から三蔵の肩に手をかけて軽く揺さぶる。
「三蔵、三蔵・・・?」
不意に胸の前で組んでいた両腕がだらんと垂れるが三蔵はまだ起きない。 イイ気なもんだぜ、思いながら寝顔を覗き込んで息を呑んだ。血の気の引いた真っ青な顔。法衣の腹に滲む血はまだ新しく。
慌てて腕を伸ばして抱きかかえようと脇の下に手を入れてやるとかくりと力尽きたように頚が折れ、 次いで躯が傾いで俺の方に倒れかかって来た。
「起こしたら殺す」と宣言されていた為敢えて俺達3人は三蔵が本当に寝ているかどうかを確かめようとしなかった訳なのだが、 放っておかれるのを良い事に走行するジープの座席で三蔵は意識を失っていた。 そのくせガタガタ揺れて決して安定しているとは言えない助手席に身を沈めながら俺達にその事を気取らせない呆れた強情っぱり。
「悟浄、地面に降ろして下さい」
運転席から降りて廻り込んで来た八戒が慌てて命じる。 白竜の姿に戻ったジープがくるくると宙で旋回する中、 八戒が三蔵の法衣にゆっくり手を掛け上半身をはだけると血の匂いが空気に混じった。 黒のアンダーシャツを捲り上げた八戒の長い指が血で赤く染まる。
息を呑んだのは今度は俺だけではなかった。
三蔵の腹に巻き付けた包帯から血が滲み出して真っ赤に濡れていた。
どうして俺達は錫杖で貫かれた三蔵の腹の傷が開いたかも知れないと言う事に思い至らなかったのだろう。 俺の横で悟空がぎゅ、と拳を握りしめる。
「傷・・・傷を塞がないと」
八戒が震える手を伸ばす。
この侭死んじまうんだろうか、コイツは。
考えて、次の瞬間ぞっとした。
コイツがいなくなったら俺は、泣くのだろうか。我を忘れて泣き喚くのだろうか。
それとも、悟空のように全てを断ち切って狂ったように暴走するのだろうか。


そう思った次の瞬間、思わず悟空の方を盗み見た。
大丈夫・・・悟空はまだ大丈夫だ。
でけえ目を更に見開いて息を詰めて、悟空は八戒が気を当てるのをじっと見ている。
三蔵に何かあったら真っ先にどうにかしちまうであろう悟空がまだ冷静でいると言う事は、三蔵は大丈夫だ。
三蔵は・・・助かるんだ。
悟空の反応のみに救いを求めて何とか自分を納得させようとジャケットに手を突っ込み煙草を取り出す俺の目の前で、 傷がちゃんと塞がったかどうか確認する為に八戒が三蔵の帯に手を掛ける。 深い黒色の帯にも血は染み込んでいるらしく、八戒が結び目を解くのにも聞き慣れた衣擦れの音はしない。 はかどらない手付きで何とか帯を緩めた八戒が法衣の袷を更に大きくくつろげようとするのに、 血で汚れた三蔵の手がぴくりと震えた後ゆっくりと持ち上がり八戒の長い指を制する。
「さ・・・」
「三蔵・・・!」
悟空と八戒の声が被さるのに三蔵は徐に薄く口を開く。
力の無い言葉が零れる寸前、三蔵は重たげに頚を回しその瞳に俺を捉えた。
「・・・バカ面・・・」
「・・・・・・は?」
その真意を問いただす前にその紫色の瞳は閉じた瞼に隠れて消えた。

続く

六道編の後。

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