so gold 2
開いてしまった三蔵の腹の傷を気孔で塞いだ後、八戒は三蔵の顔にも手の平を翳した。
殴られでもしたのか頬に浮かんでいた青痣が、八戒の手が僅かな光を湛えるのに伴い薄れて行く。それでも血の気が引いた侭の三蔵に、ハラ減ったと騒いでいた悟空が黙りこみ、 僅かばかりの休憩とも言えない休憩の後忙しなくジープを車に変化させた八戒が乱暴にアクセルを踏み込んだ。 後部座席に積み込まれた最高僧様はそれでも振動に目を覚ます事なく、 街に着いても血の足りてない三蔵の不調を半分肩代わりでもしたかの如く顔を青ざめさせながら八戒は三蔵をお姫様抱っこする役を他に譲りはしなかった。 こういった時笑顔で宿のカウンタに向かう八戒の代わりに俺がチェックインの手続きを済ませた。
自分の分の鍵だけを手に、残り3つの鍵は八戒の手に押し付けさっさと先に立って歩き出した。 荷物を部屋に乱暴に投げ込み、アメニティのチェックもそこそこにブーツを脱ぎ捨ててベッドに入る。
仲間の手前何ともない振りをしていたが、あの、神様だか仏様だかに強制的に「血気」とやらを抜かれて以来カラダが怠かった。 直接血を抜かれた訳ではないが、どんなワザが働いたものか三蔵は輸血を施されたのと同じ状態になり、 三蔵に血液だか血気だかを受け渡した格好になった俺も情けない事に貧血気味だった。
「・・・アタマ痛え・・・」
あのゴージャスナイスバディの神様と同じく俺にも口移しで血気を移動出来る技が使えるんだったら三蔵にチューして血を返して欲しい位だ。 いや、無駄に血の気が余ってるっつうんだったら俺より寧ろ悟空だろう。 何だってあの偉っそうな神様は悟空でなくよりによって俺を指名したんだか。 サルだったらちょっとぐらい血気を分けた処で飯でも喰えばすぐ元気一杯になるだろうし。
・・・ああ、そうか、何か喰えば良いのか。
無意味に思えた連想ゲームから不意に思い付きむくりとベッドの上に起き上がる。 と言っても俺の荷物には煙草とワンカップと缶ビールと酒のツマミしか入ってない。 サルの為に何かしら食い物を常備している八戒の処に行こう、と身を屈めてブーツを履きなおす。
食い物と、それから頭痛薬。きっと八戒だったら持っているに違いないと確信しながら。
「おーい、八戒」
ごんごんごん。
ノックしても返事がない。何処に行ってんだか、と思いながら念の為三蔵の部屋を覗く。
「おーい」
がちゃ。
鍵が掛かっていない。ビンゴだ。
「・・・アラ」
八戒のみならず悟空までもが三蔵の部屋に集まっていた。
ベッドの傍らに立って俯く八戒と、椅子に腰を下ろして八戒と同じ方向に視線を向ける悟空と。 個室に大の男が4人も集まれば狭っ苦しい筈だが、 本日この部屋を一人きりで使う筈だった最高僧様は八戒に運び込まれたきりまだ目を覚ましていないらしく、 二人の視線を受けながら寝台を僅かに盛り上がらせて静かに横になっている。
「悟浄、どうかしましたか」
ベッドの横から離れない侭顔だけをこちらに向けて八戒が訊ねる。
「どうっつうか・・・、あー、何か喰うモンねえ?」
「食べ物だったら僕の荷物の中に・・・ああ、僕の部屋にありますが」
意地でも具合が悪いとは言いたくないので用件だけを告げるのに、 いつもだったら目聡い八戒が食い意地張った小猿でもないのに食いモンを、と言ってくる事を訝しむ事もなく答える。
つまり、どうやらまだ三蔵の具合は良くないようだった。
「へへーん、腹減り河童。意地きたねー」
「っんだとこの脳味噌胃袋ザル!」
「そっちこそ脳味噌胃袋河童じゃんか!」
「俺ゃあ大出血サービスの後だっつうの!これが喰わずにいられるか!」
いっそこのサルの石頭が肉まんだったら良いのに。そうしたら俺様がアタマからむしゃむしゃ喰って一件落着だ。
「お二人とも、静かに・・・」
「・・・うるせえ」
八戒の制止の声も間に合わず、悟空のアタマを拳骨でぐりぐりしてやろうとしていた俺の動きは不機嫌な低音を聞いてぴたりと止まる。
「三蔵、目が覚めましたか」
「三蔵っ!」
ぴょん、と椅子から跳び上がる位の勢いで悟空が三蔵の傍らに走り寄る。
「済みません、今日はもう宿を取って休む事にしました」
「・・・そうか」
少し前一度目を覚ました時の事は覚えているのかどうなのか、それとも出発した事すら夢か何かだと思っているのかどうか。 三蔵は何故自分が布団に入って横になっているのか訊ねる事はしなかった。
ただぼんやり天井だけを見つめ、再び目を閉じた。
「あ、三蔵。食事は何が良いですか?栄養のつくものを食べて貰わないと」
覚醒はあくまで周囲の騒音の所為だったのだと言わんばかりの態度で再び寝る体勢に入った三蔵に慌てて八戒が訊ねる。
「・・・・・・」
「何でも好きなものを作りますよ」
答える気のなさそうな三蔵に、殊更に優しい声色で八戒が問いを重ねる。
「・・・・・・し」
「シチューですか?小龍包ですか?」
「・・・白玉ぜんざい・・・」
「・・・・・・は?」