wish you were here
息を吸うような水を飲むような自然さで三蔵の側に居たいと思った。
三蔵に側に居て欲しいと思った。
「覚えてる?一年前」
煙草の煙の所為だけではない白い息を吐き出しながら三蔵に問う。
去年宿を取るのに散々苦労したから今年はその日が来る前から宿に逗留していた。
その日には随分前から予約が入っているのだと渋る宿の者にゴールドカードをちらつかせその日が過ぎても逗留すると約束して何とか確保した狭い一室。
流石に真冬のこの時期宿も取れず寒空の下放り出される事を考えたら多少厄介ではあっても長逗留を約してでも部屋を確保する事の方が重要だと言う八戒の説得に昨年宿を取るのに散々苦労して揚げ句
「任務を受けての旅の途中である三蔵法師」だと明かして無理矢理2人部屋に4人捻じ込んだ事を覚えていたのだろう、
三蔵は眉間に皺を寄せて黙って話を聞いていたが「良いだろう」と短く一言告げた。
あっさり申し出が通った事に俺ら下僕一同は一瞬きょとんとしたが不審に思っている事がバレたらスポンサーである三仏神のゴールドカードの持ち主である三蔵のご機嫌を損ねる事になると思ったので大急ぎで三蔵の気が変わる前にチェックイン手続きを済ませた。
それに一年前と違いもう西へ急ぐ必要は無い事だし。
教会育ちだと言う八戒は妙に張り切っていたが今年は宿の厨房を借りる事も出来ず「ご馳走の為の買い出し」
と称して俺と三蔵の二人で町中へと放り出される事も無かった、
去年買い出しに行かされたのは八戒なりの気遣いであったのかも知れないが。
ここの処煙草を消費するペースが一頃に比べると随分遅くなった三蔵が「煙草」と言って部屋を出るのに「あ、オレも」
と立ち上がればそれでも八戒は咎める事も無かった。
わざわざ宿を出て自販機のある処迄足を運んで目当ての物を購入した割に封を切りもしないでマルボロを袂に突っ込んだ三蔵に
「俺カートン買いだから」と煙草屋まで付き合ってくれと暗に告げると三蔵も黙って後を附いて来た。
煙草屋へ着き目当ての物を買い込んでしまえばもう寄る処は無かった。
小猿ちゃんと一緒だったら出店を冷やかして小吃を買い食いして宿へ戻るのをもう少し遅らせる事が出来るのだが生憎三蔵は出店の食い物なんかに興味が無い。
それに冬でも薄着の三蔵をこの寒空に無闇に連れ回す訳にもいかないし。
そう言えば去年俺が買ってやった手袋は温かくなると早々に紛失されてしまったのだった。
尤も過酷な旅の途中で荷物ごと河に流されたりもしたのでどの道万が一大切に持っていてくれても遅かれ早かれ無くなってしまった訳なのだが。
「来年も一緒にいたい、って言ったの覚えてる?」
「・・・どの道こんな旅の空の下じゃ一緒にいるしかねえだろ」
片腕にハイライトのカートンを抱えてそう言うと先程真新しい煙草を買ったばかりなのに封の切ってある吸いさしのマルボロを袂から取り出し一本抜き出して銜えながら三蔵はそう答えた。
「ああ、まあソーネ」
三蔵と言う奴は道行くどの恋人達よりもムードと言うモノに欠けている。
確かにこの一年離れる事なく一緒にいたのは三蔵のみならず八戒と小猿ちゃんも同じ事だが。
もう良い加減色気付いたって良い年頃なのに小猿ちゃんが未だに色気より喰い気なのはこの飼い主がそう言った事に殆ど興味が無いからではないかとがっくりと肩を落としながら考える。
「そーゆー意味じゃないんだけどね」
大きく煙草の煙を吐き出しながらぽつりと告げる。
それでも。どんなに鈍くともこの人を好きになってしまったのは俺なのだから仕方ない。
「また来年も」
一緒に居られると良いな、意味なんか分かって貰えなくとも構わない、
とにかく言いたい事だけは言っておこうと紡ぎかけた言葉はマルボロの味のする柔らかい唇によって中途で遮られた。