競馬パラレルSS その17



* * * その161 * * *

「三蔵はんも、これだけ日差しがきついんやから帽子か何か被らへんと日射病になってまうよ」
「・・・それもそうだ」
珍しくもヘイゼルの忠告を素直に受け入れた三蔵が、新聞をごそごそと広げて頭の上に載せる。
「三蔵はん。そない競馬オヤジみたいな事止めてえな」
「何だって良いだろ」
「・・・こだわりがないようやったら、ウチが被りモンを贈ったら使うてくれはります?」
「被りモンって・・・やっぱあーゆー、馬ぐるみみてえな・・・」
「断る」(←即答)
「いややわあ、ウチのセンスを疑わんといてや。鈴木●子はんみたいなゴージャスなのに決まっとるやないか。 三蔵はんにごっつう似合うのにするさかい」
「ますますいらねえ」
「なんでや!!(慌)」



欧米の競馬=ハレの日=ドレスアップしてお出掛けと言う考え方は素敵だと思います。




* * * その162 * * *

「こないだの安田記念、勝負賭かってない香港馬は日本馬の妨害に徹したみたいなレースっぷりだったなー」
「インはごちゃごちゃだし外目コースは香港馬の妨害か。 ハナっから香港陣営が何か仕掛けて来るって踏んで用心してたならともかく、ありゃあレースにならねえな」
海外から参戦して来た馬が強いとしても自分の馬も強い、そう思って正々堂々とレースに挑んだ日本勢は、 よもや遠征馬が最初からレースを捨てて他馬を潰しに掛かっているとは夢想だにせず、 右に左にフラフラと走っては他馬の走行を妨害する馬にまともにコース取りを邪魔されて散々な目に遭った。
「まあねえ。ラフな乗り方した騎手も短期免許で香港に来てた外国の騎手だろ。多分二度と日本のレースに乗る事はないような。 3頭も来て同じレースに出るって辺りで裏がありそうだって気付いてりゃ良かったんだけど」
「にしても普通、金かけて海外遠征するんだったら勝つ気があるもんじゃねえのか?」
三蔵にはそう言った、同胞馬を勝たせる為に自分が泥を引っ被ると言う心情は理解出来ない。 日本でも同じレースに持ち馬を複数頭出走させて、勝負のかかってない馬をペースメーカーにする馬主も勿論いる。 然し香港陣営はやる事が極端だ。例えば香港で開催されるレースに日本馬が遠征する場合など、 たった一頭の同胞馬を勝たせる為に、他の全馬が日本馬の妨害に回る事すらある。
「あのザデューク言う馬は取ってはるから、ここで勝っても負けてもどの道引退した後未来はあれへんからなあ・・・」
気の毒そうな口調で唐突にヘイゼルが口を挟む。
「「・・・・・・・!!」」
「なんや?」
「「お前」「アンタ」の口から「取っちゃってる」なんて台詞が出るとは思わなかったな・・・」」



ザデュークは2006年前半は調子悪かった為捨て駒に使われましたがその後持ち直してバンバン勝ってました。皮肉なものです。




* * * その163 * * *

折角の久々の新潟遠征だと言うのに、メインレースを前に突然の土砂降りに遭った。
「うわ、傘持ってねえのに・・・パドックどうする?」
「どうもこうも、こんな雨の中パドックなんか行けるか」
「傘差してる人も結構いるな。皆準備良いな!」
「地元のヤツラじゃねえのか」
「あんた、こっちの天気予報チェックしてなかったのかよ!」
「俺の所為にする気か!」
怒鳴るように声を上げながらスタンド下に走り込んだ。 じっとりと熱気の籠もったような蒸した日だった。 だから雨に濡れても冷たいとか風邪を引きそうだとか、そういった心配がないのだけが救いだった。
「はー・・・」
屋根のある処にどうにか逃げて、適当に雨の滴を払ってから傍らの三蔵を顧みる。 眼鏡をしているヤツにとって雨と言うのは結構致命的らしく、三蔵はしかめっツラで眼鏡を拭っている処だった。
「あ、馬体重発表になった」
「何」
そう言って、眼鏡を未だ手に持った侭で三蔵はモニタを睨み付ける・・・が、眼鏡をしていない所為で文字が良く見えないのだろう、 目を細め、眉間に皺を寄せ、何と言うか何と言うか、はっきり言って死ぬ程怖いような人相の悪いツラだった。
「さ・・・三蔵、俺が読み上げてやるから」



この日は新潟遠征した訳ではないのですが、TV見てたらそんなお天気だったので。




* * * その164 * * *

「今年は牝馬、それも3歳牝馬が活躍するなあ」
本日のメインレース、その名も美しいアイビスサマーダッシュ、直線1,000mの勝ち馬はピチピチ3歳のオンナノコだった。 シーイズトウショウを筆頭に古馬ではビーナスライン、 古馬相手に奮闘した3歳ではソリッドプラチナム、そして今日の勝ち馬サチノスイーティと、今年はオンナノコ達の健闘ぶりが目に付いた。
「去年はテイエムチュラサンが3歳でこのレースを征したけど、他の3歳は古馬と当たるレース避けたり、 古馬と当たっても結果出せなかったり、さ」
三冠馬の誕生する年は、実はその年齢の他のメンツが弱いのだと連綿と語り継がれている言葉。 その言葉を証明するかのように今年4歳となった三冠馬の同期馬達は、3歳当時は古馬相手に戦って勝てず、 と言うか最初から力不足で古馬とは戦えないとでも言うかの如く、格上挑戦を拒んでいた。 そして古馬になってからもどうも際立った活躍を果たしていない。 三冠馬が強いのか、同期馬が弱かっただけなのか、結論を出すのはまだ早いと、 そういう意味合いで告げた言葉は思いがけない言葉に追従される。
「ほんまやね。3歳世代が強く見えるのは実は上の世代が弱いだけっちゅう見方も出来る訳やね」
「「・・・・・・!!」」
突然聞こえてきた独特のイントネーションの言葉に三蔵と二人して思わず動作を止める。
「三蔵はん、偶然やねえ」
「さ・・・、三蔵、あんた、今日新潟遠征するってコイツラに教えてた?」
「・・・・・・」
俺の問いに、三蔵は無言でぶんぶんと頚を振った。



今になって読み返すと分かり難い。上の世代=三冠馬の登場した世代です。 三冠世代が弱いから下の世代の馬が古馬をうち負かして強く見えるのでは、と言うお話。 勿論三冠馬も強く他のライバル陣営も滅茶苦茶強く、古馬になってからも活躍を続ける世代もあります。 最近の三冠馬世代は地道に長く活躍を続けてますね。




* * * その165 * * *

「三蔵はんは、この後どうしはるん?」
最終レースが終わり、出口へと歩いていく最中にヘイゼルが訊ねる。
「取り敢えず駅まで戻って何か食うか弁当を買う」
「新潟まで来たらやっぱ寿司でしょ寿司、それから土産もん買う時間も欲しいしな〜」
「・・・日帰りやよね?新幹線は何時頃なん?」
笑顔でさらっと悟浄の存在を無視する、ヘイゼル。
「何でそんな事までてめえに言う必要が」
言い差し、ふと三蔵はガトの視線に気付く。
「・・・・・・頼む」
「・・・7時だ」
懇願するでもなく短く乞われるのに、渋々と言った口調で三蔵もぽつりと一言で答える。
「ウチらも7時台の新幹線なんですわ。もしかしたら一緒かも知れんわあ」



新潟は駅まで戻ると案外食べる処も見る処もないので車で行った方が楽しそう。




* * * その166 * * *

「じゃあ、ウチらはこれで」
結局、片道40分かかるバスの中まで同行したにも関わらず駅に入る前にヘイゼルは街の方へと歩き出した。
「なんだ、ヤツの事だからメシを一緒に食おうとか言ってくるかと思ったのに、やけにあっさりしてんな」
「気になるなら附いて行け。上手くしたらメシくらい奢って貰えるかも知れねえぞ」
「じょーだんでしょ」
そんな事を言いながら悟浄と三蔵は駅構内に入る。新潟駅には目にも楽しい土産物ゾーンがあるのだ。 駅であれやこれやと土産物を物色した後、新幹線の中で飯を喰おうとちらし寿司弁当を買って、二人はやって来た新幹線に乗り込んだ。
「三蔵はん、偶然やねえ」
「「・・・・・・」」
座席に着いて弁当を広げる支度をしている時、数時間前競馬場で聞いたのと同じ台詞に二人して無言になる。
「ガト、座席回してえな」
「・・・・・・本当に偶然、か・・・・・・?」
「・・・・・・俺に聞くな」



偶然とは思えない(笑)




* * * その167 * * *

「悠仁親王殿下御誕生慶祝」と言う長い前置きの付いた第134回天皇賞・秋。
「去年は久々の天覧競馬でヘヴンリーロマンス、んで以前の観戦の時はニッポーテイオーが勝ってんだろ、ぜってー今年も何かあるって!」
「多少目出度い前置きが付いただけで、今年は天覧競馬じゃねえぞ」
「いーや、競馬は時として時代を反映するね!」
「そうかそうか」
生返事をする三蔵は、既に悟浄の話を聞いていない。
「まず、男子誕生目出度いねに因んで来るのは牡馬!」
因みに出走17頭中15頭までが牡馬である。
「えーっと、それから何か目出度い名前!・・・って、うおっ!今年は何か良いカンジの馬がいねええええっ! あ・・・え、えーと・・・カンパニー?」
「スケールが小せえな」
「こんな時だけ突っ込むんじゃねーよ!あー・・・コスモバルク?」
「宇宙かよ」



2006年秋天。バラゲ故障で競争能力消失とかディープインパクトとか当日の落馬負傷による騎手の乗り替わり×2とか色々ありました。




* * * その168 * * *

日本競馬の胴元、JRAのHPリニューアル以来、競馬誌並に「過去10年の連対データ」なんぞを掲載するようになった。 が、競馬誌と違ってきっちり年齢別ではなくて「3〜4歳」「5歳以上」という分類のすっげーアバウトなデータだ。
「なんつうか、信憑性薄いデータ」
「ま、無料提供のデータなんざこんなもんだ」
「3〜4歳がオススメったって、今までの勝ち馬ったら実績あって当日の人気だってあった馬ばっかじゃん。 だけど今年の馬ったらなあ・・・」
ま、無敗の三冠馬の同期ともなれば、おっきいレースは例の馬が全部かっ浚っちまってる所為でイマイチに見えるのは仕方ない。
「・・・つうか三冠馬の誕生する年はレベルが低いってよく言われるけど、ホント」
斤量の恵まれていた3歳の頃にも、古馬になり充実している筈の現在ですら誉められた成績の馬がいない。
「4歳馬の出走がたった3頭つうのはさ、つまりGI出走出来る位活躍してる馬が3頭ぽっきりっつう意味だよな」
「ああ・・・?まだ勝負付けの済んでねえ馬もいるだろうが」
きっぱり言い切れば、不機嫌そうな三蔵の声。 勝負付けが済んでないんじゃなくて、同じ土俵に上がる事すら出来なかった出世の遅れた馬を、 密かに三蔵が応援しているらしいとその声で分かった。 初めて三蔵に会った時、ヤツの応援していた馬の産駒だ。
「またまたそんな。直接対決こそねえけど未だGIIIクラスをウロウロしてる馬がGIに出られちゃうような世代だよ? これでもし4歳世代が勝ったら鼻でうどん啜っても良いね!」
「・・・上等じゃねえか」



これも秋天。




* * * その169 * * *

ギン、とタレ目のクセに眉をきりきり吊り上げて睨み上げて来る三蔵が、 「負けたヤツは鼻でうどん喰うこと」と言っても乗って来そうな気配に冷静になったのは、悟浄の方だった。
勿論自分の予想に自信はある。 だからと言って、賭けに負けた三蔵が本当に顔ごと丼に突っ込んで行く勇姿を見たいかと言えば、そんな事はなく。
寧ろ見たくない。
「あーと、そういや兄弟対決だけどさ、案外この二頭でワンツーだったりして」
悟浄は慌てて話を逸らした。
「んな訳あるか」
GI馬アサクサデンエン、夏の上がり馬スウィフトカレントの兄弟揃っての参戦。 血の繋がった、兄弟姉妹同士で同じレースに出ると言う事は珍しい。 ましてやGIともなると、揃ってGIに出走出来るまでに出世をしなくてはならない訳で。
「ホラ、中山大障害でユウフヨウホウとゴーカイでワンツーだった事あるじゃん。 ユウフヨウホウなんて全然人気なくってGI初挑戦でさ」
「そんな事もあったな」
「やっぱ今回も弟の方が着順上かな」
「そうなんじゃねえのか」
何時の間にか険しい顔を止めて普通に会話する三蔵に、これからは冗談でも「鼻からうどん」なんて言うのを止めようと、 内心の安堵を押し隠して誓う悟浄であった。



これも秋天話。




* * * その170 * * *

「スウィフトカレント2着固定っつう狙いは凄かったけど・・・」
自分の外れ馬券と、三蔵が見せてくれた外れ馬券とを交互に見ながらつい口を開く。
「相手が間違ってんじゃん」
「人の事言えんのか」
軸馬は間違ってなかった、然し、っつう点では確かに俺も一緒だが。 穴党でもない筈の三蔵の馬券は、どう買っても万券間違いなしっつう人気薄同士の組み合わせだった。 つうかそもそも軸馬がソコソコの人気薄だから、人気のある処へ流さない限り万券決着になる。
そして三蔵は、人気馬を尽く買っていなかった。
「・・・つうか放馬って時点で切れよこんな馬」
三蔵の本命馬は、何とカンカン場で放馬したのだ。馬体重の最初の発表時、その馬だけは「測量不能」と出ていたものだから、 あまりにも太り過ぎてついに計量機を壊したのかと一瞬疑ったものだが。 本馬場入場後に放馬する馬と言うのはよく聞くが(実際、今日もそれで一頭レース前に競争除外になったし) それ以前に馬体重を計量する際に放馬する馬なんて聞いた事がない。 レース前に体力を消耗しきっているにも関わらず、取り消しにならず出走した馬が好走したと言う話も聞いた事がない。
「・・・俺が何を軸にしてようが勝手じゃねえか」
苦虫を噛み潰したような顔で口の端を歪めて言う三蔵の横から、不意に明るい声が割り込む。
「ああ、良いレースやったわあ。今日は何となく競馬紙の予想に乗っかってみたんやけど、 ●木はんの読みは鋭いわあ。スウィフトカレント軸で牝馬と3歳馬に流すやて」
「・・・・・・ホラ、同じ馬狙って馬券獲ってるヤツいるし」
「・・・・・・うるせえ」



勝ったのはダイワメジャー。放馬した馬は普通は出走取消になるんですが、 この時は何故か場内では放馬情報すら流される事なく出走と言う事になりました。 レース前に出走取消になった馬の馬券を既に買っていた場合は払い戻しになるんですが、 払い戻し金が惜しかったのかな、とか、 放馬情報すら秘密にされたのは紙クズになるような馬券を買うバカが沢山いると良いな、と言う主催側の思惑が絡んでいるのではないかと。 放馬情報はラジオか何かでは流されたらしく、携帯で話してる人の会話を小耳に挟んで知りました。






競馬SS16

背景は東京競馬場の誘導馬メジロスティード。





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