病んだ星
もう終わりにしたいと泥まみれで湿った地面に横たわった侭想う。
否、頬の濡れた感触は雨が上がったばかりの地面に乱暴に抑えつけられた所為ばかりではなく血液と脳漿を頭から浴びたからだ。
金山寺を下山してからもう幾人殺したか分からない。 下界と切り離された寺で過ごした穏やかな日々は終わった。 獣程度しか棲みつく事の出来ない険しいあの山は寺と俗界との結界でもありふらつきながら山を降りきればそこは殺戮の巷だった。
一人で道を歩いていれば来る日も来る日も妖怪や物盗りに襲われた。寺に居た頃は知らなかった。 僅かばかりの金の為に容易く犯罪に手を染める者達がこれ程迄に多く居る事を。 寺でもこの異相を忌む者は少なからず居たが自らの手を汚してまで俺を亡き者にしようとする者はいなかった。 当たり前だ。しかつめらしい顔をして経の一つもあげていてれば喰うに困る事の無い坊主どもが下手をしたら今迄の生活を捨てなくてはならないとそこまで覚悟を決めてまでする程の必要は無かったからだ。 坊主は寺の外で起きている貧困にも飢えにも我関さずの態度を貫き安全な寺院内での保身のみを安穏と考えていれば良い。
この苦界で人々が何故日々笑って生きていられるのかが俺には理解出来ない。 人の多く住む場所──街へ入れば多少安全ではあったが聖天経文の手掛かりが無いと知ればそこにそれ以上留まる事は出来なかった。
治安が悪いと有名な街、或いは富裕層が多く住む街──金が多く回っている処は必ずその影に犯罪も潜んでいるからだ── へと渡り歩けば俺が用があるのは妖怪の盗賊だけであるのに面白い程呼んでもいない奴らに行く手を遮られた。
「金を出しな」
「そのお綺麗な顔に傷なんか残したくねえだろ」
「待て、良く見りゃあ金髪じゃないか」
「高く売れるかも知れねえな」
詳細は違えどどいつもこいつも同じ事ばかりを口にする。 盗賊用のマニュアルでも出回っているんじゃないかと思う程だ。 或いは何処かの誰かがビデオテープでこの桃源郷の毎日を記録していて誤って巻き戻して再生してしまったのではないかと思う。
「そうそう、大人しく金を出せば・・・ッ!?」
袂に手を突っ込むと賤しい笑いを浮かべた男が俺が取り出した手に握っているのが金子では無いと見た途端中途で言葉を止めるのもいつもの事だ。 それから先もビデオのように同じ事の繰り返し。 怪我の程度の違いこそありはすれ噎せる程の血の臭いの中最後に立っているのは俺だった。
数える気にもならない程の死体の山の中、持ち上げた手が血に濡れて冷たい。

悟浄さんが「言葉のない世界」で鷭里とテキトーにつるんでる頃の三蔵。
星、っつうと大袈裟だなあと思ったけど「病んだ桃源郷」とか「病んだ大陸」だとマヌケなので。 「病桃源郷」とか「桃源郷病」だと更に駄目。

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