言葉のない世界
鷭里、と言う名のちゃらついた野郎に声を掛けられた時はそいつとこれ程迄に長い付き合いになるとは思ってもみなかった。
口先だけで世間を飄々と渡って行く鷭里の姿を見るうちに何時しか突っかかって来る相手に一々マジにならずともへらりと笑って場を誤魔化せるようになった。 髪だけならともかく瞳までもが赤いのは禁じられた異種間の交わりの証しであるのだとあの家を出て街に降りてから知った。 オネエサン達には「綺麗な色」と誉められるこの髪が原因で天然だってのに「ハデな頭だ」 とゴロツキ共に凄まれ絡まれ喧嘩を繰り返しているうちに気が付いた。
どうやら俺って結構打たれ強くない?
そんでもって俺ってこのトシのガキにしちゃあ腕力があり過ぎやしない?
見た目こそ人間と変わらないが矢張り俺は半分は確実に妖怪の血を継いでいるのだ。 それはそれで結構な事じゃねえかと思う。弱肉強食。ガキだからって誰かに守って貰おうなんざもう思わない。 食い物にされる筈のガキが自分の力で自分の身を守れるならそいつは願ってもない事だ。 そしてその力任せの腕っ節を買われ鷭里とツルむようになった。
鷭里は自分の身を守る為なら、その場を取り繕う為なら幾らでもぺらぺらと嘘を吐く。 本人は嘘だとも裏切りだとも思わず「生き抜いてく為の知恵」だとか「方便」 だとか他人を騙した事を悪いとも思っていないツラでぺろっと誠意の込もっていない言葉を吐く。 ヤツにとっては言葉なんて単語と接続詞の組み合わせってだけでそれ以上の意味なんか無いんだろう。
「数が多いってだけで俺達の事を妖怪だっつって差別してる人間なんざの為に妖力制御装置なんか付けてまで人間のフリしたくねえ」
と妖怪仲間とつるんでいる時こそ気勢を上げるクセに必要でありさえすれば金持ちの人間にへこへこと上目遣いで口の曲がりそうなおべんちゃらを吐いて平気でおもねる卑近で卑小でちっぽけな鷭里。
ホント、口先ばっかのヤツだ。
お調子者でてめえの責任もてめえで取れないヤツのちっぽけさこそが俺がヤツから離れられない理由だと思う。
腕っぷしに自信がねえんだったらヤバい橋なんか渡らなきゃ良いのに。 ワルぶって悪事を繰り返す割に目先の事しか見えちゃいないから大仕事だって出来やしない。 そのクセ自分はもっと大きな事が出来ると信じて手に余るような事に頚を突っ込んでは二進も三進もいかなくなった頃漸く自分がヤバイ処にいると気が付いて慌てて尻尾巻いて逃げ出しては俺に尻拭いをさせる。
「・・・ダッセエ」
またどっかでボコられたのか顔が腫れ上がった鷭里が酒場に入って来るのを見付けたくもなかったのに一早く発見しグラスを運び掛けた口元で小さく呟く。 薄暗い店内で俺を見付けた鷭里が親しげに片手を上げるのに性懲りもなく俺もにやりと笑って返すように片手を上げてやる。

のび太くんとドラえもん。じゃなくて。
三蔵が「病んだ星」でやさぐれてる頃の悟浄さん。

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