Legolas
カレンダーの日付に、悟浄が阿呆のように毎年はしゃぐ異教の祭りを思い出した。
「所用を思い出した」
言葉少なに言い捨てて寺を出て向かう先は市場だった。白菜に舞茸にエノキに豆モヤシに。
僅かに泥の付着したそれらを抱えて家に帰り、水洗いしてざくざくと刻む。
仰々しく騒ぐのは好きではなかった。
それはガキの頃からこの日を祝う習慣がなかったと言うか習慣のない寺で育った所為であるかも知れない、そうでないのかも知れない。
何にしろガキの頃から俺は大袈裟に浮かれるよりは心穏やかに過ごす日々の方が好きだったし、今もそうだ。
変わらない。変わっていない。永年の暮らしに、あの一人旅の間に、慶雲院での暮らしの間に、
あの旅の間に、悟浄と始めた二人きりの暮らしの間に、変化したようでいて本質と言うものは簡単に変わるものではない。
ふ、と小さく息を漏らす。
あのアホ河童の買って帰って来るであろう、ケーキはともかく油でぎとぎとした鶏肉は好きではなかった。
クソ河童にしたって普段はあんな骨付きの肉なんか買いはしない、だったらこの日にだって買う必要があるとは思えない。
そう、ケーキだけならまだ良いのだ。否、良くはない。ヤツは甘い物が好きではない。
だったら買わなければ良いものを、
せめて買ってもぼろぼろと汚くつつき回した揚げ句食い残して結局は捨ててしまうのではなく手を付けずにおけば良いものを。
何で食いもしないものを喜んで買って来るのかと言うと、そんなのアイツが阿呆だからに決まっている。
アホだアホだ、そう思いながらざらざらと野菜を沸き立つ鍋に突っ込んだ。
特別な料理なんか用意したくなかった。特別な料理など欲しくなかった。誰が一緒になって浮かれはしゃいでやるか馬鹿馬鹿しい。
玄関の方で物音が聞こえ、「ただいま、早かったんだな」と言いながら悟浄が顔を出す。
ちらりと振り返り、果たして悟浄が両手に提げた買い物袋に顔を顰める。あの箱の中身は間違いなくケーキだ。
凝りもせずまた買って来やがったのか。
思わずイラっとするがもう片方の買い物袋からはみ出しているのが酒のボトルだったので怒鳴りつけるのは堪えた。
シャンパンだろうか。否、シャンパンでなくともワインでも焼酎でも日本酒でも何でも良い。
アルコールを買って来た事は何にしろ他の全てを許せるように思えた。
「チキン買って来た」
ああ、そう言うと思っていた。
「鍋なんだ」
「悪いか」
「いや、悪くないぜ。冬はやっぱり鍋だよな」
何がやっぱりだ。本当にそう思ってんのか。
ガサガサと音を立て悟浄が酒瓶を取り出す。赤ワインだった。鍋物とはあまり合わない気がする。間の悪いヤツだ。
ミスマッチを気にする事なく悟浄はグラスを用意しコルクを開け、思い出したように鶏肉を皿に載せる。
「じゃあ、乾杯」
「・・・ああ」
本当に良いのか。鍋で赤ワイン。全然合ってねえだろう。
ミスマッチを気にしているのは俺ばかりのようで、悟浄は戸惑う仕草一つ見せずにグラスを傾けながら口元に運び。
「来年も一緒に過ごせると良いな」
グラスに口を付ける前に微笑みながらそう呟いた。