Legolas 2
骨の所にくるくると可愛らしいリボンの結び付けられた鶏肉を買って帰ったのは、
きっと三蔵がコレを喰いたいと思っているだろうと言う虫の知らせと言うヤツでもなんでもなかった。
だってそーゆー日だし。三蔵はくだらないとあの旅の間から毎度毎度渋面を作っていたが俺は賑やかにするのは嫌いじゃないし。
美味いメシ喰って美味い酒が飲める口実であるならば何だって構わない。
案外生真面目な一面がある三蔵はそう言うのが理解出来ないようで、自分に関係あるかないか、
そういったつまらない括りに縛られている。くだらねえの。くだらねえ、が口癖なのは三蔵の方なのに。
それとも三蔵がくだらないと言っているのはバカ騒ぎの事だろうか。
「・・・れ」
吐き出している白いものが煙草の煙なのか自分の息なのかも分からない寒気の中買い物袋を提げながら家路を急いでみれば、
いつもだったら暗い筈の家に灯りが点っている。
三蔵が先に帰って来る程に俺の帰宅が遅かったんだろうかと腕に嵌めた時計を確かめるが矢張り俺が遅かった訳ではない。
今日は帰りが早かったのだろう。
「ただいま。早かったんだな」
そう言って台所を覗くともうメシの支度も済んでいるようで嬉しくなる。
単に腹空かせて帰って来たらすぐメシが食える状態だった事を喜んでいたのは上着を脱いで食卓に着く迄で、
改めて鍋の中を覗き込んでみれば思わず歓喜の声が出た。
赤く太く、逞しい足が野菜に隠れるようにしてぐつぐつと煮立っている。
「やった、蟹じゃん」
「安かったからな」
そう言って、三蔵がふいと横を向く。
いつも全てを見届ける、全てを見通している三蔵が視線を逸らしている。
あの旅の間に、三蔵と悟空との特別な結び付きを何度も垣間見た。
名前を呼ぶだけで、呼ばれるだけで相手の意図している事を汲み取り意味深な表情で頷き合う二人に時折激しい嫉妬を抱いた。
だが特別な間柄でなくとも分かる事もある。
分かる位には俺達は、時間を重ね合って来た。
いつもこの夜にはしゃぐ俺達を、俺を理解出来ないもののように呆れ、バカにしていた三蔵の見せる羞恥。
ほんの気紛れなのか俺の為なのかは尋ねない。そんな事したらキレて発砲するに決まってるし。
だから問い掛ける変わりに買って来たばかりのワインを開ける。
「来年も一緒に過ごせると良いな」
「くだらねえ」
掲げたグラスを音を立てて合わせる事もなくそっぽを向いた侭三蔵が飲み干す。
横を向いた頬が微かに赤いのは、勿論たった一杯のワインの所為だけではない。
深紅の雫に濡れた唇を貪りたいと思うが、今は食欲を満たす方が先だった。
「な・・・、ココ赤いの、さっき喰った蟹の所為かな」
羽織ったばかりの寝間着を早々に寝台の上ではだけさせ、薄く上気した膚の胸元をねっとりと舐めると三蔵は息を呑んで肩を竦める。
「・・・っ、んな訳、ねえだろ、バカ言ってんじゃ・・・」
「ここも赤い・・・」
幾度目かの口付けに赤く色付いている唇に自分のそれで触れる。
吐精の余韻に三蔵はまだぼんやりしているようで、唇を塞がれた事で呼吸が上手く出来なくなりゆっくりと頸を打ち振るが逃がしてやらず、
顎に手を添えて頸を固定する。
「ん・・・・・・っ、ふ、」
未だ力の入らない腕が俺の肩を押し戻そうとするが、弱々しい抵抗如きでは退いてなんかやらない。
その口内を蹂躙する俺の舌の動きをなおざりに三蔵がなぞろうとするがてんでなっちゃいない。
ま、俺が仰天する程上手くなってたらそれも困るけど。
一体誰を練習台にしたんだと探して問い詰めて、嫉妬の余り殺してしまうかも知れない、三蔵を。
そうだ、俺は知らなかったんだ、嫉妬と言う感情を。
三蔵に出会うまでは。
旦那や恋人のいるオンナが俺を浮気相手として指名した時も、面倒がなくて良いとしか思わなかった。
こんな日に、人肌恋しいのを紛らわせるのであれば名前も知らない、
一晩経ったら顔も忘れてしまうような相手でさえ良かった。
次の年の同じ日に、一年前と同じ相手と過ごした事もなかったし、それを望んだ事もなかった。
その柔らかな肌を貪った事のあるオンナが他の男と腕を組んでいるのを見ても腹も立たなかった。
そんなものだと思っていたのに。
なのに。
抜き差しする指をゆっくりと増やして狭い入口を押し広げる。
「っ、んんっ」
もう三蔵は舌を絡め合わせる努力を放棄して、されるが侭になっている。
重なる唇と唇の隙間から混じり合った唾液が零れて流れるのを、頬を伝い頸に至る寸前で少しだけ指で拭ってやる。
漸く唇を解放され、浅く息を吐きながら三蔵が潤んだ瞳を俺に向けた。
毎年未来を約束する特別な夜は、まだ長い。