生きものについての幻想
最初にこちらから時間を指定して待ち合わせた時、
時間を過ぎても悟浄が現れない事に本当は迷惑だと思われていたのではないかと、
都合が悪くなってとか連絡が入ってドタキャンされるのではないかと待ち人と会ってどんどん去って行く周りの人間達に居心地の悪い思いをしたものだったが約束の時間に遅れてやって来た悟浄は俺の姿を見て信じられないものを見たような、
例えばハチ公が待っていた主人を発見したらこんな表情をしたに違いないと思う程の歓喜に満ちた表情を浮かべた。
まるで子供のように。
まるで、それこそ忠犬のように。
人の顔を見る度に尻尾があったら千切れんばかりに振っているであろうと思われる程の無防備に信じ切った表情を晒すものだから悟浄の事は弟分と言うか、
拾った子犬のようなもんだと思えば良いのだと思う事にした。
拾った子犬が成長して恩を返すように、
例えば山に分け入った時に熊に遭遇して怯んでいたら拾ったポチが勇敢にも熊に襲い掛かって行くように悟浄はさり気なく自分はもう拾われた無力な小犬ではないのだと主張する。
人混みの中で自分だけがつんがつん他人にぶつかりながら俺が少しでも歩き易いように道を作ろうとする姿とか。
黙っていても「お冷や下さい」と飯屋の店員に言い出す所とか。メシを喰った後道端でカラオケのキャッチと料金交渉する姿とか。
そんな時俺はめっけもんだったな、と思う。
よもや雨の中でぶるぶる震えていたいたいけな小犬が俺に恩を返すなどとは思いも依らなかった、と。
腕を伸ばして命じなくともその赤い毛並みの犬は俺の為に甲斐甲斐しく働く。
行け悟浄!
然し便利な犬だと思っていた相手は突如俺に牙を剥いた。否、牙なんて元より有りはしない、何故ならそいつは人間なのだから。
初めて抱かれた時はあまりの痛みにマジ泣きしたもんだったが情けない俺の悲鳴にも悟浄は興奮して延々と俺を貪り続けた。
飼い犬に手を噛まれたようなものだった。ヨシヨシ悟浄、餌をやるぞ、がぶり。
背中に口付けながら悟浄の大きな手が俺の性器を擦り上げる。
「あ・・・ヒ・・・ッ」
ベッドの上に俯せにされそれこそ獣のように四つ這いにされ恥ずかしげもなく大きく足を開かされている俺は、
既に上半身を支える力を無くしくたりと枕に頬と肩を押し付けている。
自分の手とは違うタイミングで刺激を与えられる事、
自分の欲しい場所とは違う所を弄くられる焦れったい感覚に気も狂わんばかりに乱される事、
それは全て嘗て拾った犬のようだと思っていた悟浄から施されていた。
「ここ、イイでしょ?」
長い指が何度も開かれた蕾に押し入り中に入っている悟浄の吐き出したモノのぬめりを使って性器そのもののように出入りする。
「あ、あ・・・っ」
もう片方の手が俺の先端を激しく扱き爪先さえ意地悪く立てても身を焼き尽くすような熱を抱いた塊とは違うソレが刺激するだけでは足りない。
指だけで俺をイかせようと充分蕩けきった場所を悟浄がしつこく弄くっているがそんなものだけでは足りない。
体内に燻る熱を開放してくれる決定的な刺激が欲しくてもどかしさに視界が歪む。
上半身は変わらず俯せにした侭下半身だけを悟浄が抱え上げ横抱きにする。
何処で仕入れた知識だか知らないが悟浄は時折こう言った不自然な体勢を取らせようとする。
持ち上げられた腰が揺れて濡れたいやらしい音を立てながら悟浄の指が付け根まで押し入る。
俺はこのぬちょ、とかくちゃ、とかそう言った日常生活では耳にする事の無い粘着性のある湿った音が嫌いだ。
そんな気色の悪い音を産み出しているのが当の俺のカラダだなんて思うだけで恥辱に眩暈がするが熱の灯ったカラダにはそれでもまだ足りない。
「ご・・・、じょ」
必死に顔を起こして振り返ると目尻で留まっていた涙が頬を伝い出す感触。
「さ・・・んぞ?」
慌てて悟浄が俺の中から指を引き抜きその手で涙を拭おうとする。
止めろバカ。シーツでも何でも良いから拭けよこのクソ河童。
「ゴメン、どっか痛い?」
悟浄の伸ばした指先から顔を背け枕の上に顔を載せる。
痛いと言うなら身体を無理に捻っているこの体勢こそが辛いのだが口を開くと思いがけずはしたなく餌をおねだりしている犬のような荒い息が出て行ってしまう。
「ゆ、び・・・イヤだ」
何だこの頭の悪いガキみてえな喋り方は。自分の言葉に思わず自分の正気を疑うがもう取り消しが効かない事は分かっている。
「お・・・、まえの・・・じゃないと」
指だけじゃイけない。ああ言った、言っちまった。指だけじゃダメだお前が欲しいんだ。
何を言ってるんだ俺はもうダメだ。こんな事を口走っているのはお前の所為だ。お前に仕込まれたんだこの躯は。
あまりの恥ずかしさにきつく目を瞑る。悟浄が精液やら何やらで濡れている指で俺の髪を梳くがもうそんな事はどうでも良い。
「三蔵・・・」
そう言って悟浄が再び俺を俯せに抱え直す。尻を高く持ち上げられ溢れたものがつうっと脚を伝い落ちる。
まだ生暖かいその感触の気色悪さに息を飲むが否定の言葉を吐き出さないよう必死に唇を噛む。
「挿れるよ。イイ?」
止めろと言ってもいつも聞かないクセにこんな時だけ何言ってやがんだと思いながら小さく頷くと悟浄のモノが一気に押し入って来た。
指とは比べものにならない程の熱量と質量が入口を限界まで押し開き固いモノが俺の中を突く快感に背中をしならせる。
ゆっくりと然し荒い息を吐きながら悟浄が俺の背中に引き締まった腹をぺたりと付けやわやわと耳たぶに噛み付く。足りねえよ、バカ。
「悟浄・・・」
肉を掻き分けて熱く脈打っているだけで自ら動こうとはしない悟浄に俺は自分から腰を揺らす。
犬のように四つ這いの姿勢の侭で。
ああ、ケダモノは俺の方だ。