nails
ベッドの上で目を覚ますと目の前には寝乱れた、自分のものではない髪。薄い瞼、柔らかな唇。細い頸。剥き出しの骨張った肩。
僅かに俺の方に投げ出されたぴんと皮膚の張り詰めた腕にも何も纏わず三蔵は眠っている。
私物や着替えの一枚も持ち込む事のない三蔵は、だから俺の家では裸で眠る。
一人だけシャツを着るのも何なのでこういった時は付き合いで俺も裸で寝る事にしている。
今はまだ良いがもう少し寒くなったら裸じゃ二人して風邪をひきかねないのでパジャマを買っておいてやろうかな、とか考える。
どんなのが似合うだろうか。
こっそり買っておいて突然渡したら喜んでくれるだろうかと思案しつつ煙草を吸おうと起き上がると背中が痛んだ。
鏡を見たら昨夜三蔵が付けた傷が映る筈だ。
汗で滑る俺の身体に夢中になってしがみついた三蔵が俺をキツく締め付けるのに搾り取られるように吐精し、
三蔵は吐き出されたものに色っぽい声を上げながら足をびくびく震わせて俺の背中に爪を立て、
繰り返し求め合った楽しい夜の名残。
煙草を半ばまで吸った時シーツの中でもぞと身を捩って三蔵が目を開けた。
「ん・・・」
「オハヨ」
寝起きでぼんやりしている処に吸いかけの煙草を無理矢理押し付ける。
まだ目が醒めきっていないのだろう、
文句を言う事もなく煙草を銜えた侭体勢を替えるのに灰皿を差し出してやって俺はベッドから抜け出して床に落ちた侭の服に腕を伸ばす。
「メシの支度するから待ってな」
「・・・ああ」
その眠そうな返事に、彼の人がシーツを焦がしてないか思わず振り返って確認してから寝室を出た。
冷凍庫に突っ込んでおいた買い置きのパンをトースターで焼く間に薬缶を火にかけインスタントのコーヒーをカップに適当に入れる。
超手抜きモーニング。卵くらい焼けばもうちょっとは見栄えが良くなるんだろうが何しろフライパンが無いのだ。
盗まれた訳ではなく最初っからそんなもん買った事も無い。
朝は和食党らしい三蔵だがそれでも俺の用意する朝飯を文句も言わずもそもそと食う。
過去に付き合って来た女の幾人かはこう言った。
「ね、今度さ、悟浄の家行っても良い?ご飯作ったげる。悟浄の事だからいつもはコンビニのお弁当とかでしょ?」
余計なお世話だっつうの。そんな事を言い出した女は生憎希望通りに家に上げてやる事はせず即別れた。
「これでもあたし結構料理上手なんだから」
なんて言って女房気取りでメシなんか作られんのマジうざってえし。
・・・そう、うぜえと思っていた筈、なのに。
三蔵の家に上がり込んで、三蔵の作るメシを食う事に何の抵抗も感じないのだ。
それどころか近頃はジャムでもマーマレードでも、好きなモンがあったら言ってくれたら良いのにとさえ思う。
そう、私物を持ち込まない事もそうだがアレが好きとかコレが嫌いとか言ってくれない事が何となく物足りないのだ。
いや、何となくではなくはっきりと物足りない。
俺にメシを作ってやりたいと言った女には結構こっぴどい事を言って別れたもんだったが悪い事をしたな、と今になって思う。
誰に言われても面倒くさいとしか思えなかった台詞だったのに何故彼女達があんな事を言ったのか今だったら分かるような気がする。
焼き上がったパンを皿に載せながら人間変わるもんだと思うが今の自分が俺は結構嫌いではない。