ぷちはぴ
○月×日
「気に入ったヤツはココに誘うのよ、オレ」
「・・・・・・そうか」
「ホラ写真撮るから並べよ」
カメラ付き携帯を向けられて三蔵は惑う。
『本気か』
悟浄に連れて来られたのは大井競馬場・・・のケンタッキー売場。 並べ、と言われているのはカーネルサンダースの隣。 ただのカーネルでは無い。 胸にでっかくTokyoCityKeiba、略してTCKの文字と馬のロゴの入った赤に星散らしの勝負服を着ているのだ。 しかも足にはブーツまで履いている。
「アレ?三蔵は写真嫌い?」
その場から動こうとしない三蔵に悟浄が問い掛ける。
「・・・まあな」
そういう事にしておこう。



○月×日
「サッカーのチケットが余ってるんだが」
三蔵からそう声を掛けられて二つ返事で飛び付いた。
「・・・じゃあ当日待ち合わせて渡すが良いか?」
「ああ。つーか三蔵サッカー好きだったんだ?」
「いや、悟空の友達が行けなくなったとかで」
「・・・悟空も一緒か?」
「ああ」
なあんだ、と思ったものの土曜に待ち合わせをする事にした。 場所が駒場と言う事だけ聞いて対戦カードを聞き忘れたな、と電話を切ってから気が付いた。


そして当日。
真っ赤な集団の中に俺は座っていた。
「悟空、こいつすっげーなあ!」
「だろ?」
チケットは4枚あったとかで三蔵と悟空と、悟空の友人の3人が俺を待っていた。 背はちっちゃいのにボリュームのある胸の女の子。悟空のカノジョなのかと思ったがやたら三蔵にちょっかいを出している。 (当の三蔵がどうでも良さそうな顔をしているのが救いだが) 三蔵を除く二人が真っ赤っかなTシャツを着ていたので「お揃いか?」と思った俺に、 その悟空の友人(?)の日に焼けた肌の女の子が弾んだ声を出した。
「コレ、地毛だから・・・」
「えーっ!羨ましー!」
「ははは・・・」



○月×日
「さっき駅で発泡スチロールの箱抱えてるリーマン風の人がいたんだけどさ」
「それがどうした」
「何入ってるか気になるよな。蟹かな」
「○沢のプリマハム」
「いや、ハムは発泡スチロールには入れないっしょ」
「小豆アイス」
「何で小豆?アイスったらミルクじゃねえの?」
「西瓜」
「それ面白いな。でもやっぱり蟹じゃねえのかなー」
「鮪」
「・・・何か無性に蟹が食いたくなってきた。ヨシっ、ボーナスも出たし寿司喰いに行こうぜ。 で、入るようだったら帰りにコンビニでアイス買お」
「ハーゲンダッツの小豆が良い」
「ハイハイ」



○月×日
「昼飯はソーキそばにしよ」
そう言って悟浄が見せたのは近所のスーパーの袋。
「別に構わんが俺はソーキそばって喰った事ねえぞ」
「うっそ」
「本当だ。沖縄は行った事がねえ」
「実は俺も」
その言葉に視線を上げて暫し悟浄と不毛に見つめ合う。
「・・・具は何を乗せれば良いんだ?」
「取り敢えずラフテーは買って来たけど」
袋を悟浄から受け取りパッケージに印刷されている写真を眺めてみる。
「・・・紅生姜と、万能ネギかコレは?・・・カマボコ?」
「・・・かなあ」
「言っとくがどれも買い置きはねえぞ」
「あるもんで良いよ、あるもんで」
「・・・マヨネーズ?」
「そりゃ具じゃないっしょ」



「ソーキって豚のアバラ肉の事だろ?」
「さあな」
暑い中茹で立ての麺を食べるとだらだらと額から汗が滴り落ちる。
「豚耳がミミガーで豚足がテビチで、豚の角煮がラフテーじゃん。「豚」は何て言うんだろうな。豚は豚かな」
「知るか」
「そう言えばさ、豚の角煮って中国語だとトンポーローだろ。でもトンって「東」って書くの。豚のトンじゃないんだぜ」
そう言って何が面白いのか悟浄は一人でクク、と肩を震わせて笑った。
「・・・・・・(無言)」



○月×日
「なーなー、夏休みどっか行かねえ?」
「お前んとこは何時だ?」
「ウチはお盆」
「ウチも一緒だ。だが盆休みは駄目だ」
「やっぱ何処も混んでるから?チケット高いから?」
「実家(寺)に帰る」
「・・・・・・。そう・・・・・・」
「そうだ」
それじゃ仕方ねえよな、と渋々合意した俺の気持ちなんぞこれっぽっちも知らない様子で飄々と三蔵は答える。
「あー、じゃあさ、近場で良いからどっか行こ?日帰りで良いから」
「そんなの夏じゃなくてもいつも通りじゃねえか」
「んーと、いつも行かないトコ行こ。ディ○ニーとか・・・ッ!?」
皆まで言い終わる前にアッパーカットを喰らって壁際まで吹っ飛んだ。
「バカ野郎!男二人で○ィズニーなんぞ行けるかッ!」
「いいじゃん夏なんだから!」
「良かねえよ!いいか、周りはカップルと親子連ればっかりなんだぞ!?ミッキー帽だのくまプー風船だの持って浮かれてるんだぞ? んなトコ野郎同士で行ってみろ!どっちがミッキーのファンなんだかじろじろ見られるに決まってんだろうがッ!」
・・・問題はそれだけかよ。



○月×日
「三蔵、何か良い匂いがする」
「そうか?」
「甘い、花みたいな・・・」
「・・・ああ、八戒が育ててた植木が花を咲かせたからって先刻まで見に行ってたから匂いが移ったんだろう」
「へえ。何て花?」
「ブルグマンシア」
「・・・・・・は?」
「別名エンジェルトランペット」
「へえ?」
「死んだ恋人と一緒に買った鉢だそうだ」
「・・・そうなのか」
「名前の通りトランペットみたいに末広がりの黄色い花が幾つも咲く。先刻花を触ったから手を洗って来るまで俺に触るな」
「え?何で?」
「エンジェルトランペットは花も茎も葉も全て毒だ」
「・・・・・・へえ(汗)」



○月×日
「三蔵、和菓子好きだろ。これデパ地下で買って来たんだけど」
和菓子、と言う言葉にぴくりと反応して三蔵が上目遣いでこちらを見る。
「この店知ってる?俺は知らねえんだけどさ」
そう言いながらデパートの紙袋を渡す。
「開けるぞ」
紙袋の中からは包装紙で包まれた和菓子屋の箱。過剰梱包だ、と思う。
「中○じゃねえか。中は揚最中か?」
包装紙を見て手を止めた三蔵が中身もぴたりと当てる。ちょっとコワイ。
「あ、うん、それとなんか黒いでかいの。セットになってたんだ」
「クソ、何てもん持って来やがる」
「・・・え、キライだった?」
「キライじゃねえ。・・・が、この揚最中と言うヤツは悪魔の菓子だ。 一つ喰うともう一つ喰いたくなり、もう一つ喰うと更にもう一つ喰いたくなる」
「そんなバカな」
そりゃ甘いもん好きなアンタだけだろ、と内心で即ツッコミを入れる。
「・・・それだけじゃねえ。 一度喰うとこの味が忘れられなくなり来る日も来る日も揚最中が喰いたくて喰いたくてどうしようもなくなるんだ。 折角忘れていたのにお前と言うヤツは・・・っ」
「そんなにイヤなら持って帰って明日会社で女の子にでもあげるよ」
「喰わねえとは言ってないだろっ!」
そう言うと三蔵は箱をひしと抱きかかえキッチンの方へ消えた。
・・・もしかして独り占めと言う事だろうか。



初出2005/4/28



○月×日
「チケットが余ったから」
そう言って久し振りに誘われたサッカーの試合。
前と同じく悟空のダチからのツテで手に入ったとか。 場所も前と同じく駅から1キロちょい歩くワールドカップ開催に合わせて建設された某スタジアム。 と言う事はやっぱり赤い服とか着てった方が良いんだろうか、と「行く」と即答してから考えた。
然し俺は赤い服は一枚も持ってないのだ。髪の色と被ってうぜえので。
「・・・うん、まあ熱心なサポーターっつう訳じゃないし。前行った時は三蔵だって赤い服着てなかったし、良いか」
そう納得してごく当たり前のTシャツを着て出掛けて行った。
「今日のカードは何処と?」
電車に乗っている時から例の赤い服を着ている集団を見掛けないのでおかしいと思ってはいたのだが、 会場に着いても矢張り赤い色はなく。
「チケットに書いてあるだろ」
「あ、そっか」
言われ、ごそとチケットを取り出し記載された対戦カードを見て、・・・赤い服を着て来なくて良かったと、心底思った。



初出2005/5/6



○月×日
地下鉄の乗場に繋がっているデパートの地下食品売り場の片隅。地方物産展となっていたそこで三蔵がふと立ち止まった。
「赤福・・・」
「あー、アンタ甘いモン好きだもんな。買えば良いじゃん」
「いや・・・」
「何で?持ち合わせがねえなら買ってやろうか?」
「違う。金ならある」
「じゃあ買えば」
「赤福は日持ちしねえんだ」
「そうなんだ」
じゃあ仕方ねえな、売場を離れようとした俺の隣で三蔵はまだ立ち止まった侭だ。
「そんなに喰いたいんだったら俺も少し喰うよ」
「お前にコレが喰いきるのか」
三蔵が迷いなく指差したそこには「12個入り」の文字。
「う・・・」
悪いが甘いモンは苦手なので俺はせいぜい1つか2つが限界だろう。
「昼飯で丸々一箱は喰えないし」
「いや、メシじゃねえだろコレ」
「かと言って食い残したのを夕飯にっつうのも・・・」
いやでも時間が経てば喰えるか、とぶつぶつと三蔵は一人呟き続ける。



初出2005/5/11




BBSからの再録。一番最初のは100題「電光掲示板」セルフパロディ。 日付が分からないのは多分2003、2004年頃初出。

novel−パラレル